表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
I Catch you   作者: 実果子
2/18

突然に

俳優の陸は、雑誌で見かけた女の子・美野里を探し当て、会いに来た!?

私は会社のビルの前で男に声を掛けられたのだった。

           「どうも。はじめまして。」

 そう言って、サングラスと帽子を取ったその人は、紛れもない、浅木陸だった。私は茫然としてしまった。東京に数年居るけれど、今まで、芸能人はモデルしか会ったことがなかったし、陸が目の前にいることが信じられなかった。

           「え?」

 私は素っ頓狂に返した。目は陸を凝視していた。

           「突然現れてごめんなさい。俺、浅木です。浅木陸。」

           「し、知ってます。」

           「あ、そう?・・・ホント突然で悪いけれど、

            ちょっと付き合えませんか?」

           「へ?」

           「お昼、食べますよね?一緒に、どうですか?」

           「あ、あなたと?」

 驚きで返答にも困る。どうしてこうなったの?

           「そうですよ。じゃ、近くにカフェあるみたい

            なんで、行きましょう!」

 そう言うと、またサングラスと帽子で変装をし、私の腕を引く。強引だけれど、優しい手だった。



 カフェに着き、席に座ると、陸はサングラスを外した。帽子は、用心のためか、被ったままだった。私はコーヒーを取り敢えず頼んだ。この状況で食べ物は食べれそうになかったのだ。彼の方は、コヒーに加え、ホットサンドも頼んだ。

           「強引ですみません。」

 最初に切り出したのは、陸だった。

           「あ、いえ・・・」

           「雑誌で、あなたを見て、会ってみたかったんです。

            どうしても。あ、楽にしてくださいね。」

           「私に、ですか?」

           「はい。あなたはモデルじゃないんですよね?

            でも、なんというか、ただ、いいなって思って、 

            それで、あなたのことを、探してもらった

            んですよ。」

           「え?私、そんな風に思われるような女じゃあり

            ません。そこまでしてもらうなんて・・・

            申し訳ないというか・・・。」

           「いや、そんなことないです!自信持ってください!」

 そう熱意を込めたように言われ、私は顔が熱くなってしまった。彼は彼で、顔を赤くしていた。

でも、私はそんな事初めて言われたし、信じて良いのかわからなかった。まして、芸能人に・・・

私は、大阪にいた頃に、好きだった先輩に酷く振られた経験を持つ。その時に言われたのが、「お前は地味だよな。いても気付かないかも。」だった。


           「私、こんなこと言われたの、生まれて初めてです。」

           「そうなんですか?十分かわいいですって!」

           「・・・あ、ありがとう・・・」

 なんだか、気まずい空気が流れようとした時、陸が聞いてきた。

           「美野里さんって、もともと東京の人なんですか?」

           「いいえ。地元は、大阪です。」

           「え?本当ですか?奇遇やなぁ。」

 突然、陸の口調が変わった。何が起こったのかわからなかった。

           「はい?」

           「俺も、大阪やねん。なぁんだ~。そっか~。嬉しい

            なぁ。」    

           「あ、そ、そうなんですか?」

 あまりの変わりように、面を食らった。ちっとも知らなかったのだ。紺野陸が大阪人だと。理由は、関心がなかったということなんだけれど。

           「でも、なんで標準語なん?」

           「あ、いえ、なんとなくです。だんだん、標準語で慣れ            たって所です。」

           「へぇ~。俺もこっちにいる時は標準語なんや。

            役も、標準語がほとんどやからな。でも、

            何でこっちに来たん?」

 そのことは、初対面の彼に、話そうかどうか迷った。

           「それは・・・自分を変えたかったからです。」

           「そっか。色々あんねんな。」

           「えぇ・・・。」

その場の空気がしんみりする。それ以上聞かないでくれたのは、有難かった。私は黙ってしまい、コーヒーをすする。陸は、それを黙って見つめていた。

           「なぁ、俺と居る時は大阪弁でしゃべってくれへん?」

           「え?」

           「せっかく同郷なんやし、な?頼むわ」

 そう言って陸は、パンと音を立てて両手を顔の前で合わせる。

居る時って、今の事?それとも、これから先も、会うことがあるってこと?私にはわからなかった。

           「わ、わかりました。」

           「それそれ、直そうや。」

 陸は笑う。

           「あなたのように、すぐにはできません。」

           「ん~。まぁ、ほんなら、ぼちぼちな!」


 素顔の陸の笑顔は柔らかくて、温かい感じがした。私は、何故か心も溶けていくようだ。

 

 しかし、私の休憩時間も制限がある。もう既に12時50分。そろそろ戻らなければならなかった。名残惜しい気もしたのだけれど。

          「あの、私、そろそろ行かないと・・・」

          「あっ!しもた!そうやな~。すっかり忘れとった~。

           早いなぁ。」

          「えぇ。私も、あっと言う間でした。」

          「ほんなら、今度の日曜、公園でドラマのロケするん

           やけど、見にこうへん?」

          「へ?ロケ?」

          「そうや。次のドラマ撮ってんねん。な?見に来てな?」

          「え、えぇ・・・」

 サングラスを掛けた陸と店を出る。

          「今日は楽しかったわ。ありがとう。」

          「あ、私も、です。びっくりしましたけど。」

          「ははは!じゃ、また日曜にな!」

 そう言って、陸は去って行った。また・・・またがあるのか・・・私は考えていた。特別好きなわけではなかった陸との1時間は、あっと言う間に過ぎ去っていった。陸の知らない面を見て、私はドキドキする心に気付いていた。どうしてなんだろうか。そう思いを巡らせていると、オフィスの前に着いていた。

コーヒーしか口にしなかった私は、午後、お腹がすいて仕方がなかったのだった。




 この回より関西弁が登場しますが、私、関西の者ではないので、間違いとかありましたら、ご容赦ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ