暗雲垂れこめる
大和の猛攻が納まったかのようだったけれど・・・
美野里の身辺には不穏な影が?
10月に入ってから、週末に、久しぶりに陸と会えた。その日は、珍しく一日オフが取れたと、彼も喜んでいた。朝から待ち合わせて、買い物をし、陸の部屋に連れて行ってくれて、午後はゆっくり過ごした。私はとても楽しかった。夜、二人で夕食を食べ、私が帰ろうとすると、腕を掴まれて、抱き寄せられた。そして、彼はキスをくれた。唇に。付き合って2か月、初めてのキスだった。普通に考えたら、2か月でのキスは、一般的は、遅いのだろうか。でも、私は家に招かれたのも初めてだったし、別にタイミングが遅くなっても、気にしないし、彼の場合、仕方ないと思う。二人だけの空間というのが、あまりなかったから。その日は、私も彼と離れがたかったけれど、我慢した。キスをくれただけで、十分幸せだ。
が、私は、その後またも試練に見舞われることになった。
次の週に出た週刊誌に、陸と私の記事が載ってしまったのだ。私は一般人だから、名前こそ出なかったけれど、「紺野陸に恋人発覚」という見出しで、陸の部屋に行った日に、写真を撮られていて、白黒の写真に、目隠しをされて、載っていた。私は「会社員・Mさん」ということだった。私は、愕然とした。記事を読む手の震えが止まらなかった。騒がれたくなかったし、そっとしておいてほしいとも思うけれど、それは、陸と付き合うという時点で、不可能なことだったのだろう。私もわかっていたはずなのに・・・いざこうして明るみになってしまうと、これから先が、凄く恐い。芸能人と、一般人の恋は、普通にあることだろう。芸能人同士の方が、騒がれることが多い。けれど、陸は人気俳優。恋人がいるというだけで、話題になってしまう。
私は、これから迫りくることに、耐える覚悟をしなければならなかった。
マネージャーは、陸に、私との接触を禁じた。陸も、マネージャーが恐かったのか、それから1カ月、連絡をくれなかった。きっと、事務所とかに止められているのだろうと、私も思っていたけれど、陸は律義すぎる。隠れて連絡くれればいいのに・・・。心が離れるとは思わないけれど、やっぱり淋しい。こんな時、真面目な陸の性格を恨めしく思う。
陸は、もしも何らかの形で事務所側に、連絡していることがバレたら色々やっかいかもしれないと、思ったのだった。私にも迷惑がかかるかもしれないし、ここで終わりたくないと思った末のことだった。今は我慢しても、これからも一緒にいたいと思っていてくれたことが、私は嬉しい。
この時点では、何も知らないけれど。
週刊誌がでてから、私の周りは落ち着かなかった。どこで調べたのか、会社の前に記者と思しき人達が何人も待ち構えているのだ。それは、朝も夜も変わりなかった。私は、囲まれてしまい、そこから抜け出すのが大変だった。仕方ないから、裏口から出入りしようとすると、そこにも何人か記者が取り巻く始末。走ってビルに入るしかなかった。以前とは、全く変わってしまった。
本当に恐くて仕方ない。
近隣の人や、ビルで働く人達皆に迷惑をかけてしまった。申し訳なさでいっぱいだ。上司にも、咎められた。
「記事、見たよ。これ、君だよね?本当なの?
だから、こんなことになってるの?」
「・・・はい。記事は嘘ではありません。事実です。」
「はぁ・・・そう。こうなるの、わかってたよね?
もうちょっと、用心できなかったかな・・・。」
「本当に、申し訳ありません。今は・・・会っては
おりませんので。」
「そうなの?けどね、こんな騒ぎになっちゃ、
もう遅いよね。」
「はい・・・。すみません。」
「もっとさ、良く考えて?」
それから、私の会社の所属モデルにも知れ、彼女達の目も、厳しくなった。敵意丸出しだ。
「あの子が、陸の彼女なんて、信じられないよね。」
「うんうん。私、てっきり佐伯優花と付き合ってると
思ってた!」
「だよね。優花と仲良いって聞くもんね。」
「その方がお似合いなのにさぁ。」
「ムカつくよねー。」
撮影の時、陰口が聞こえてくる。あからさまだ。撮影に同行するの、止めたい。頼んで見ようか・・・。行かなくて済むように・・・。
けれど、願いは聞き届けられず、陰口だったものが、私に面と向かって言ってくるようになった。
「いい気になんないでよね!」
「え?」
「どうやって陸に近付いたのよ。」
「それは・・・。」
「あんた程度が・・・身の程を知りなさいよ!」
言葉が痛い。心に突き刺さる。そうだ。確かに、彼女の言っていることは、間違っていないかもしれない。私ごときが・・・陸と付き合うなんて、あり得ないことだったのだ。自分よ、身の程を知りなさい・・・。これは、近付いてはいけない世界に近付いた私への、罰なのだ。
自分を表に出せなかった頃に戻ってしまいそうだ。いや、そもそもそこから変わってはいなかったのかもしれない。陸なしでは、明るく、はっきりとした自分ではいられない。そう、改めてわかった。
凄く会いたかった。私から連絡しようとしても、拒否されている。どうしようもない。足がふらついて、歩くのもやっとだ。
その夜、仕事が終わってから、どうしても莉奈に話したくて、夕食を一緒に食べた。
「わかってたことやんね?」
「うん・・・。そうなんやけど・・・いざこうなってみると、
心が追いつかないというか・・・」
「覚悟の上やったんやろ?人気俳優と付き合ってたら、いつか
バレて、多少なりとも騒がれるって、想像しなかったん?」
「ううん。わかっとった。けど、こうなるって、
現実味がなくて・・・
会社にまで来られると、困るんよね。私は、そっとしてほしい
のに・・・」
「そうはいかんよ。マスコミは侮れんしね。でもさ、
大人しくしとれば、マスコミも静かになるんちゃう?」
「うん・・・。会社、辞めようかな・・・」
「え!?何でなん?辞める必要はないんちゃう?」
「でも・・・迷惑かけてもたもん・・・騒ぎがもっと
大きくなる前に・・・」
「美野里・・・辞めてどうするん?また職探すんか?」
「うん。そうしようと思う。」
「うちは、辞めることない思うよ。」
「でもさ・・・いずらいんやわ・・・」
翌日、私は、考えた末、辞職願を出した。会社に、これ以上迷惑を掛けられないからだ。ごめんね、莉奈。せっかく辞めなくていいって言ってくれたのに・・・。けれど、上司は、穏便に計らってくれた。
「何もさ、辞めることはないでしょ?」
「いえ、でも、結構な騒動になってしまい
ましたので・・・。」
「うん。そうだね。恋愛ごとで会社に迷惑掛けるのは、
良くないよね。
でも、君は必要だし、少し休んだら?」
「課長・・・。」
「君、有給使ってなかったよね?今年分。」
「あ・・・。しかし、ご迷惑を掛けたのに、有給では・・・」
「いいの。君は今まで頑張ってくれてたし、これまでの
ご褒美。」
「いいのでしょうか・・・。」
「うん。社長にも断ってるし、謝罪とお礼はしておいてね。」
「・・・はい。ありがとうございます。」
どれだけお礼を述べても、足りない気がした。その日は、一日仕事をして、帰りは、隠れるようにして会社を後にした。
つづく
まぁ、週刊誌に載ることはあるかなと(^_^;)




