追いてかないで
黄色くて、少しおっきい犬。私の「ミカ」。誰よりも大事な家族。
私は既に一回死んだ。ミカを抱いたまま、避けられぬ巨大な隕石に潰された。
痛みも無く一瞬で白くなった視界は、気がつくと焼け野原に変わった。
手を見ると無傷で。ミカは居なくて。理解の追いつかないままひたすら泣いていた。そんな私を拾ってくれたのは、みずぼらしい格好のお爺さんだった。
「なぜそんなところで泣いている」
「…私にも分からない」
「金目の物を置いていくか逃げろ 直に俺以外にも剥ぎ取りがやってくる」
小さい頭で少し考えた。冷静に周りを見ると人や動物の死体がちらほらとあった。視認した瞬間鼻に強烈な臭いを感じ咳をする。涙目でお爺さんを睨みつける。この人も剥ぎ取りしにやってきた一人で、襲わないのはそんな力が無いからだと感覚で理解した。
「ここはどこ?」
隕石が直撃したとは思えない周囲。私の居場所も吹き飛ばされた筈だ。逃げる場所なんて無い。
「変な奴だな 俺でも襲えそうだ」
「……助けて」
震えながら懇願した。居場所の無い私が助かる意味なんて無い。でも、本能が勝手に口を動かしていた。
お爺さんは頭を掻き、ため息をつくと背中を向ける。
「暇つぶしの話し相手が欲しかったんだ 死んでもいいならついてこい」
去っていくお爺さんを見失わない様に追いかけた。辺りが暗くなってきて見えなくなっても、お爺さんは強烈に臭いから追いつけてしまった。
ゴミ溜めのような廃墟。そんな場所でお爺さんは床に座った。
「名前は?」
「…『サクナ』」
「咲くな?」
その言われ方も聞き飽きた。子供の頃からずっとそういじめられていた。親もそのつもりで付けたんだきっと。
「お爺さんは?」
「忘れちまったなぁ名前なんて」
「ずるい」
「昔は……そう『つち』なんて呼ばれてたかもな」
「変な名前」
「お前と同じでな」
お互いに少し笑う。『土』に『咲くな』。名前だけなら相性が良いのかもしれない。
「此処って何なの?」
「地球だ」
「そういうことじゃなくって」
お爺さんはポケットからガラクタを取り出す。
「地球が……あれから360回回ってるな」
「……?」
「世界が一度終わった日 その日から大体一年くらいだな」
「それって…隕石?」
「そんなの知るかよ パッと白くなって 気づいたら生きてて周りが死んだ」
転生じゃない。ぶつかってから一年経って目覚めた?私以外にはそれすら知られてない?推測の域を出ない問題にうなされる。
「…他の人は?」
「居ねえよ よくわかんねぇ何かなら居るけどな」
「……お爺さんじゃ無い剥ぎ取りってまさか」
「喋れる相手で助かったな」
地球の生物じゃないかもしれなかった。ここまでが奇跡だと思い胸を撫で下ろす。
「お爺さん…つちさんはいつからここに?」
「覚えてねぇよ 昨日かもしれないしもっと前かも」
つちの話している途中でお腹が鳴る。照れながら笑うと、つちは深刻な顔を返した。
「ここに食い物はねぇ 食えそうな物を食った奴は大概死んだ」
「……え?」
「もう時間が無いのかもな 昨日も人の皮を被ったデカい化け物の死体なら見たぜ 中から喰い破ったのかもな」
恐ろしい話に体が震える。つち、昨日の記憶全然あるじゃん。
「どうせ何も無い世界だ 話して死ぬかもう死ぬか」
「……なんか疲れた」
「寝ればいいだろ 起きれ無いだろうけどな」
「それまで何か話して」
「ワガママなお嬢様だな」
つちに近づいて、横に座る。空腹を感じながらゆっくりと、体を横にして目を瞑る。
つちはその間に色んな話をしてくれた。ほぼ嘘だったかもしれない。でも、楽しかった。もう眠りに落ちそうな時、最後に聞こえたつちの声を、手を伸ばして掴もうとしたのに、私の記憶はここで終わった。
また視界が白くなり、ゆっくりと目を開ける。
世界は明るくて、花のいい香りに気持ちが少し安らぐ。
「……つち?」
「わん!」
「あれ……ミカだ…」
黄色くておっきな犬。私の唯一の家族。
ミカに抱きつこうとするも、両手がすり抜けてしまう。
「私…死んだのかな」
泣きたいのに涙が出ない。出もしない涙を、ミカは舐めてくれた。
また…会いたいな。あのお爺さん。意外といい人で。
___私以外の人が居ない世界で、つちは本当に『人』だったのかな
………つち?
遠くでないているのが聴こえた




