守るべき対象
お金を奪われた生徒には、村川から返された。
「ずっと黙っていたの?今回だけじゃないわよね」
「うん…言っても、変わらなかったから…」
うつむき、か細い声で答えた。
「変わらないって…」
顔を上げて村川を見た。
「ありがとう、お姉さん!」
そう言うと、生徒は走って行った。
「言葉遣いに品格が出るんだ」
「あの子、私を『お姉さん』って…」
村川の顔に笑みが浮かんだ。
「初対面の相手にババアという、侮辱した言葉を平気で使えるのが、品格が欠落した証拠だ」
「あの…私を『お姉さん』って…」
「初対面の相手にすら、敬意の態度が見せられない生徒がいる。学校の空気が分かった」
「……」
村川が若干ふて腐れた。
「校長先生、今の場面でこの学校の病巣がよく分かりました」
竹上が校長に向き合う。村川も続ける。
「先程の子、恐喝を訴えても聞いてもらえないって…それに、あの騒ぎを見て学校として何もなさらないのですか」
村川は怒りを隠さなかった。校長はタオルで汗を拭きながら弁解をする。
「注意指導しても、効果が望めないんです。また、強硬な手段を使えば、学校側の非にされます」
「どうなってるのこれ」
竹上と村川は学校を後にした。オフィスへ戻る途中に、喫茶店へ寄ることにした。二人ともコーヒーを頼んだ。
「罰で虐めや問題行動を起こさせない様にするのと、倫理として学ぶのは全く違います。本来ならば…」
「その通りだ。それは性善説とも言える。私も村川君の言いたいことは理解している。だが、現状はなかなか変わらない」
村川は頷いて、コーヒーに砂糖を入れる。
「決まりがあっても、自己判断でそこから逸脱しようとする人間がいる。程度の差こそあれ、そういうものという前提を理解しておくことが必要だ」
竹上はコーヒーを一気に飲み干した。
「今、私たちがやるべきことは、ルールを逸脱している者から迷惑を受けている人たちを救う、ということですね」
「方向性が明確になった。良い時間の使い方だ」
「竹上さん…あの…」
村川が深刻な表情を浮かべている。
「どうした」
「サンドウィッチ頼んでも良いですか?私、お腹空いちゃって…」
「え?あぁ…そういえば、昼食抜きだったな。もちろんだ。好きな物を頼みなさい」
村川は満面の笑みでメニュー表を見た




