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フォロワー100万人の裏側、全部晒します。~炎上コンサルタント・佐藤任三郎の処刑ログ~  作者: U3
第3章:虚構の王国と洗脳された信者たち

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第40話 宣戦布告

 翌朝、午前10時。

 千葉県のオートキャンプ場を出発したオメガ・リスクマネジメントの一行は、都内へと戻っていた。


 彼らの現在の移動拠点は、佐々木紘子が昨晩調達した年季の入ったキャンピングカーだ。

 外見は薄汚れているが、車内には生活に必要な物資と、佐藤が持ち出した最低限のPC類が詰め込まれている。


「……状況は最悪ね」


 助手席で、吉田彩がタブレットの画面を指で弾いた。

 彼女の指名手配写真は、昨日の「ゴミ収集車からのダイブ」のせいで、さらに拡散されている。ネット上では「ダイ・ハード弁護士」などという不名誉なあだ名までつき始めていた。


「松本愛永の番組降板が正式に決定したわ。テレビ局は『コンプライアンス違反』を理由に契約解除を発表。……彼女、切り捨てられたわよ」


「予想通りです」


 ハンドルを握るグレタ・ヴァイスが、バックミラー越しに後部座席を見た。


「問題は、彼女の身柄だ。まだ局内にいるのか?」


「ええ。ですが、時間の問題でしょう」


 佐藤任三郎は、膝の上でPCを操作しながら答えた。


「局の周囲にはマスコミと警察、そして氷室レイの私兵が張り込んでいます。彼女が出てきた瞬間、誰かが彼女を『確保』する」


「警察ならまだマシだけど、氷室の連中に捕まったら……」


 田中襟華が青ざめる。


「自殺に見せかけて消される」


「させません」


 佐藤はPCを閉じた。


「これより、作戦『フェニックス』を開始します。……愛永さんを回収し、同時に我々の『声』を世界に届けます」


 佐藤は立ち上がり、キャンピングカーの奥で整備用具を片付けている佐々木紘子に声をかけた。


「紘子さん。……デートの時間ですよ」


「あら、やっと?」


 紘子は工具を置き、妖艶に微笑んだ。


「どこへ連れて行ってくれるの? ……と言いたいところだけど、行き先は『秋葉原』よね?」


「ええ。放送機材と、大容量の通信回線が必要です。……あなたの『顔』でしか手に入らないものが」


「了解。……このデカいキャンピングカーじゃ秋葉原の路地裏には入れないわね。途中で『足』を替えましょう」


 佐藤と紘子は、キャンピングカーをグレタたちに任せ、途中下車した。


 午前11時。

 都内のコインパーキング。

 紘子は慣れた手つきでスマートフォンのアプリを操作し、カーシェアリングのロックを解除した。もちろん、架空名義のアカウントだ。


「……商用バンね。色気はないけど、荷物は積めるわ」


 彼女が選んだのは、グレーのトヨタ・ハイエース。

 街に溶け込むには最適な擬態だ。


「行きましょう。……最高の買い物に」


 佐藤がハンドルを握り、紘子を助手席に乗せて走り出す。

 目指すは電気街、秋葉原。


 午前11時30分。秋葉原。

 電気街の裏通り、雑居ビルの狭間に、その店はあった。

 看板はない。シャッターが半分降りた、一見すると廃業した倉庫。


「……ここよ」


 紘子がシャッターを潜り抜ける。佐藤も続く。


 店内は、埃っぽい空気と、電子部品特有の金属臭に満ちていた。

 天井まで積み上げられたジャンクパーツの山。真空管、基盤、太いケーブルの束。


「おや、紘子ちゃんじゃないか。……今日は警察の旦那連れかい?」


 奥から現れたのは、半田ごてを握った白髪の老人だった。

 分厚い瓶底メガネの奥から、ギョロリと佐藤を睨む。


「人聞きの悪いこと言わないでよ、松爺。……彼は私のパートナー。ちょっとワケありでね」


 紘子は老人のカウンターに、ドンと何かを置いた。

 桐箱に入った、年代物のウィスキーだ。


「……マッカランの30年か。いい色だ」


 松爺の表情が緩む。


「で、何が欲しい? 軍用の無線機か? それとも衛星のスクランブラーか?」


「放送機材一式。……それと、都内の電波ジャックができる高出力の送信アンテナ」


 佐藤がリストを差し出した。

 松爺はリストを一瞥し、ニヤリと笑った。


「……アンタら、派手にやるつもりだな? 今の東京でそんな電波を出せば、総務省の探知車がすっ飛んでくるぞ」


「構いません。……5分だけ持てばいい」


「イカれてるねえ。……気に入った」


 松爺は奥の棚から、無骨な黒いケースを次々と運び出してきた。

 放送局で使われる業務用の機材だ。しかも、出処不明の改造品。


「持っていきな。……代金はウィスキーで十分だ」


「助かるわ、松爺」


 紘子と佐藤は、重たい機材をハイエースに積み込んだ。

 作業を終え、車内で一息つく。


「……いい店ですね」


 佐藤が缶コーヒーを開けて渡す。


「でしょ? あの爺さん、昔は過激派の通信兵だったのよ」


 紘子はコーヒーを受け取り、プルタブを開けた。


「ねえ、任三郎」


「はい」


「私ね、思うの。……『価値』って何かしらって」


 紘子はフロントガラス越しに、秋葉原の雑踏を見つめた。

 行き交う人々。最新の家電を買い求める客。アニメの看板。


「私は鑑定士として、いろんなモノを見てきたわ。……数億円の絵画、偽物の壺、伝説の宝石。でもね、値段がついているモノほど、脆くて嘘くさい」


 彼女は視線を佐藤に移した。

 そのガラス玉のような瞳が、佐藤の奥底を覗き込む。


「今のあなたは、無一文の指名手配犯。社会的な価値はゼロ、いえマイナスよ」


「……否定できませんね」


「でも」


 紘子は身を乗り出し、佐藤の頬に手を添えた。

 その手は冷たかったが、不思議と心地よかった。


「今のあなたの方が、ずっと『価値』があるわ。……100億のダイヤよりも、輝いて見える」


「……買い被りですよ」


「私の鑑定眼は誤魔化せないわよ」


 紘子は悪戯っぽく笑い、佐藤の唇に自分の唇を軽く重ねた。

 コーヒーの苦味と、微かなルージュの香り。


「……これは手付金。残りは、世界を取り戻してから払ってもらうわ」


「……高くつきそうですね」


「当然よ。私は強欲なんだから」


 二人は笑い合った。

 世界中が敵に回っても、この助手席には絶対的な味方がいる。

 その事実は、どんな高性能な武器よりも佐藤を勇気づけた。


「……行きましょう。お姫様を迎えに」


 佐藤はエンジンをかけた。

 ハイエースが走り出す。目指すは港区、テレビ局。


 午後1時。

 テレビ局の通用口前は、異様な緊張感に包まれていた。

 詰めかけた報道陣、抗議デモの団体、そして警備員たち。


 その喧騒を割って、一人の女性が現れた。

 松本愛永だ。

 いつもの華やかな女子アナファッションではない。ジーンズにパーカー、帽子を目深に被ったラフな姿。

 手には、私物が入ったダンボール箱を抱えている。


「あ! 松本愛永だ!」

「コメントお願いします! テロリストとの関係は!?」

「番組降板について一言!」


 カメラのフラッシュが一斉に焚かれる。

 愛永は無言でうつむき、足早に通り過ぎようとする。


 その時、黒いスーツの男たちが彼女の進路を塞いだ。

 氷室レイの私兵だ。マスコミに紛れ、彼女が出てくるのを待っていたのだ。


「……松本さん。お迎えに上がりました」


 男が愛永の腕を掴む。


「車へどうぞ。社長がお待ちです」


「離して! 私は……」


「拒否権はありませんよ」


 男の指が、愛永の二の腕に食い込む。

 拉致だ。公衆の面前での、堂々たる連行。周囲のマスコミも、彼らの異様な雰囲気に気圧され、誰も止めようとしない。


 その瞬間。


 キキィィッ!!


 一台の商用バンが、猛スピードで歩道に乗り上げ、男たちの目の前で急停車した。

 スライドドアが勢いよく開く。


「乗れッ!!」


 運転席から佐藤が叫ぶ。

 後部座席から紘子が身を乗り出し、手を伸ばす。


「愛永! 荷物は捨てて!」


 愛永は一瞬で状況を理解した。

 彼女は抱えていたダンボール箱を、躊躇なく男の顔面に投げつけた。


「ギャッ!」


 男が怯んだ隙に、彼女はバンへと飛び乗った。


「クソッ、追え!」


 男たちが怒号を上げるが、ハイエースはすでにタイヤをきしませて急発進していた。

 マスコミのカメラが、その一部始終を生中継で捉えていた。


 午後2時。

 都内某所、高架下の空き地。

 ハイエースと、合流したキャンピングカーが並んで停車している。


 車内では、救出された愛永が、肩で息をしていた。


「……ハァ、ハァ……死ぬかと思った……」


 彼女の手は震えていた。

 テレビ局という聖域から放り出され、犯罪者のように追われる恐怖。

 これまで築き上げてきたキャリア、名声、地位。その全てが、今朝の通達一つで消滅したのだ。


「……大丈夫ですか、愛永さん」


 佐藤が水を手渡す。


 愛永はペットボトルの水を一気に飲み干し、乱れた髪をかき上げた。

 そして、顔を上げた。

 その瞳には、涙ではなく、煮えたぎるような怒りの炎が宿っていた。


「……やってくれたわね、あいつら」


 愛永は唇を噛み締めた。


「私を誰だと思ってるの? 視聴率の女王、松本愛永よ? ……こんなゴミみたいに捨てられて、黙って引き下がると思う?」


 彼女は立ち上がり、キャンピングカーの中に設置された機材――さきほど佐藤と紘子が調達してきた放送機材を見つめた。


「……社長。これ、使えるの?」


「ええ。準備は完了しています」


 佐藤は機材のスイッチを入れた。


「YouTube、Twitch、Instagramライブ。……全プラットフォーム同時配信。さらに、紘子さんが調達した増幅器を使えば、都内の主要な街頭ビジョンも一時的にジャックできます」


「上等じゃない」


 愛永はニヤリと笑った。

 その表情は、清楚な女子アナのものではない。

 数々の修羅場をくぐり抜けてきた、生粋のアジテーターの顔だ。


「メイク道具、ある? ……最高の顔を作らなきゃ」


 千尋が化粧ポーチを差し出す。

 愛永は鏡に向かい、手早くメイクを直した。

 赤いルージュを引き、髪を整える。

 わずか数分で、彼女は「逃亡者」から「女王」へと変貌を遂げた。


「……準備オーライよ」


 愛永がカメラの前に座る。

 照明が焚かれ、マイクがセットされる。


「テレビが私を捨てたなら、私がテレビを捨ててやる。……これからはネットが私の戦場よ」


 佐藤が配信ソフトのカウントダウンを開始した。


『3、2、1……ON AIR』


 その日の午後。

 日本中のスマホ、PC、そして街頭ビジョンに、突如として一つの映像が割り込んだ。


『……こんにちは。松本愛永です』


 画面の中の彼女は、いつものスタジオセットではなく、薄暗い車内を背景にしていた。

 だが、その存在感は、テレビの中にいた時よりも鮮烈だった。


『今、私は指名手配犯として警察に追われています。テレビ局もクビになりました』


 彼女は淡々と語り始めた。


『報道では、私たちがテロリストだと言われています。……ええ、そうかもしれません。私たちは、皆さんが信じている「嘘の世界」を破壊するテロリストですから』


 愛永はカメラを指差した。


『これから、真実をお話しします。……この国を裏で操っている「本物の悪」について』


『チャンネルはそのまま。……いえ、チャンネル登録、よろしくね』


 松本愛永による、たった一人の海賊放送。

 それは、巨大なメディア帝国に対する、あまりにも無謀で、痛快な宣戦布告だった。


 佐藤はモニターの横で、静かに頷いた。

 反撃の狼煙は上がった。

 ここからが、本当のショータイムだ。

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