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フォロワー100万人の裏側、全部晒します。~炎上コンサルタント・佐藤任三郎の処刑ログ~  作者: U3
第3章:虚構の王国と洗脳された信者たち

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第30話 強行突入

 午前8時10分。


 『ミライ・アカデミー』の大食堂は、爆音と粉塵、そして怒号に包まれていた。


 佐藤任三郎たちが壁を爆破して突入した直後。

 食堂内はカオスの極みにあった。

 松本愛永の番組を見て洗脳が解けかけた参加者たちは、壁の大穴を見て我先にと逃げ出そうと殺到している。

 それを阻止しようとするスタッフたち。

 そして、そのスタッフを次々となぎ倒していく、金髪の獣――グレタ・ヴァイス。


「……どけ! 怪我をしたくなければ道を開けろ!」


 グレタの叫びと共に、警棒を持った大男が宙を舞い、テーブルの上に叩きつけられた。

 彼女はそのまま滑り込むようにして、ホールの中心で孤立していた田中襟華と渡辺千尋の元へ到達する。


「グレタ!」


 襟華が安堵の声を上げる。


「遅いじゃないの。……危うくフライパンで撲殺されるところだったわ」


 千尋もエプロン姿のまま、へたり込んだ。


 遅れて、佐藤と小林弥生が駆け寄る。


「無事ですか!」


 佐藤が周囲を警戒しながら声をかける。


「私は平気。でも、襟華ちゃんが……」


 千尋が襟華を支える。

 襟華の顔色は青白く、呼吸が荒い。瞳孔が開いているように見える。


「……なんか、頭がふわふわする。……変なスープ、飲まされたから」


「薬物中毒の所見あり。……ちょっとチクッとするよ!」


 弥生が即座に反応した。

 彼女は背負っていた医療ケースを開き、オートインジェクターを取り出すと、迷いなく襟華の太ももに押し当てた。

 プシュッ。

 拮抗剤と興奮剤の混合液が注入される。


「うっ……!」


 襟華が大きく息を吸い込み、激しく咳き込んだ。

 数秒後、彼女の目に光が戻る。


「……はぁ、はぁ。……弥生さん?」

「おかえり。……もう大丈夫だよ」


 弥生が優しく頭を撫でる。


 薬が回り、意識が鮮明になるまでの数秒間。

 襟華の脳裏に、この地獄に来る前の、温かい記憶がフラッシュバックした。


 東京、月島。

 鉄板の上で、ソースが焦げる香ばしい匂いが立ち上っている。

 佐藤任三郎と田中襟華は、路地裏にあるもんじゃ焼き屋の暖簾をくぐっていた。


「……なんでデートがもんじゃ焼きなわけ?」


 襟華が小さなヘラをいじりながら文句を言う。


「君が『粉ものが食べたい』と言ったからです。それに、もんじゃ焼きは江戸の庶民文化の結晶であり、コミュニケーションツールです」


 佐藤はジャケットを脱ぎ、ワイシャツの袖をまくり上げた。

 注文したのは『明太もちチーズもんじゃ』。


 佐藤はキャベツの山を鉄板に広げ、二つの大きなヘラを使って、鮮やかな手つきで刻み始めた。

 カカカカカッ!

 リズミカルな金属音が響く。キャベツを微塵切りにし、ドーナツ状の土手を作る。

 決して決壊させない、完璧な円形。

 そこに生地を流し込み、明太子と餅、チーズを投入する。

 グツグツと沸騰する生地。焦げたソースの香りが鼻腔をくすぐる。


「はい、どうぞ」


 佐藤が小さなヘラで、端の焦げた部分を剥がして襟華の皿に乗せた。


「……ん、うまっ」


 熱々のもんじゃを口に含む。出汁の旨味とチーズのコク、明太子の辛味。


「ビールに合うだろうなー。……飲めないけど」


 襟華はコーラを飲む。

 佐藤は冷えた瓶ビールをグラスに注ぎ、美味そうに喉を鳴らした。


「ねえ、佐藤」


 襟華が鉄板を見つめながら、ポツリと言った。


「今回の潜入……正直、ちょっと怖いんだよね」

「……」

「私さ、昔いじめられてた時、こういう『救い』を謳う場所に縋りそうになったことあるんだ。だから、洗脳されちゃう子の気持ち、ちょっと分かる気がして。……もし、私も取り込まれちゃったらどうしようって」


 佐藤はビールを置き、襟華を真っ直ぐに見た。

 そして、自分の焼いたもんじゃを指差した。


「……具材はバラバラでも、鉄板の上で熱を通せば、一つの料理になります」

「は?」

「我々も同じです。バラバラのアウトローですが、チームという鉄板の上では一つです」


 佐藤は真顔で言った。


「君は一人ではありません。……もし君が向こう側に取り込まれそうになっても、必ず私が引っ張り戻します。このヘラで焦げを剥がすようにね」

「……ぷっ。何それ、例えが下手すぎ」


 襟華が吹き出す。


「安心しなさい。……帰ってきたら、次は君の奢りで『特大パフェ』を食べに行きましょう」

「絶対だよ? 高いやつ頼むからね」


 あの時の約束。

 佐藤は、本当に来てくれた。

 約束を守るために。


 現在。

 襟華はグレタに支えられて立ち上がった。


「……立てるか?」

「うん。……あいつ、ぶっ飛ばさないと気が済まない」


 襟華が睨みつけた先。

 食堂を見下ろすキャットウォークに、白いスーツの男が現れた。


 西園寺レオ。

 この狂った王国の王だ。

 彼は眼下の惨状を見ても動じることなく、優雅に手すりにもたれかかっていた。


「……素晴らしい。感動しましたよ」


 西園寺が拍手をする。


「まさか、壁を壊して入ってくるとはね。野蛮ですが、効果的だ」


「西園寺レオ」


 佐藤が一歩前に出て、見上げた。


「あなたの遊びは終わりです。……道を開けなさい」

「遊び? 心外だな」


 西園寺は冷たく笑った。


「これは崇高な実験だ。……そして、君たちは貴重なサンプルだ」


 彼が指を鳴らすと、食堂の四方の扉が開き、新たな集団が入ってきた。

 逃げ惑う参加者たちとは違う。

 焦点の合わない虚ろな目をした、数百人の若者たち。


 「洗脳済みの信者」たちだ。


 彼らは武器を持っていないが、その数は圧倒的だ。じりじりと、佐藤たちを包囲するように距離を詰めてくる。


「これ以上の抵抗は無意味だ。見なさい、この『肉の壁』を」


 西園寺が両手を広げる。


「彼らは私のために命を捨てることも厭わない。……さあ、どうする? 一般市民を撃てるかな?」


 卑劣な盾。

 グレタが舌打ちをする。


「……チッ。民間人を殴るわけにはいかないぞ」


 相手が武装したスタッフなら容赦しないが、彼らもまた被害者だ。手を出すわけにはいかない。


「かかれ」


 西園寺が命じる。


「うあぁぁ……」


 信者たちが、うめき声を上げながら雪崩れ込んでくる。

 ゾンビ映画さながらの光景。


「……仕方ありません」


 佐藤は懐から、小瓶を取り出した。

 小林弥生が調合した、とっておきの切り札。


「弥生、ガスマスクを全員に!」

「了解! みんなつけて!」


 弥生がメンバーにマスクを配る。


 佐藤は小瓶を床に叩きつけた。

 パリンッ!

 瓶が割れ、中から毒々しい黄色の液体が気化して広がる。

 それは、催涙ガスではない。

 人間の生理的嫌悪感を脳レベルで刺激する、特製の「悪臭ガス(スカンク・ボム)」だ。

 腐った卵、硫黄、そして数ヶ月放置した生ゴミを煮詰めたような、この世のものとは思えない悪臭が、瞬時に食堂を満たした。


「う、うぷっ……!?」

「オェェェッ!」


 洗脳され、痛みや恐怖を感じなくなっていた信者たちが、次々と嘔吐し、膝をつく。

 どんなに精神を支配されていても、肉体の拒絶反応(嘔吐反射)は止められない。

 人間の尊厳を保てないほどの悪臭が、彼らの「行軍」を物理的にストップさせた。


「臭っ! マスクしてても臭いんだけど!」


 襟華が涙目になる。


「当たり前でしょ、成分透過率ギリギリで作ったんだから!」弥生が得意げに言う。


「今のうちに!」


 佐藤が叫ぶ。

 信者たちが倒れ込み、道ができた。

 全員で出口へと殺到する。


 キャットウォークの上の西園寺も、ハンカチで鼻を押さえてよろめいていた。


「お、のれ……! 品のない真似を……!」

「上品に振る舞うのは、テーブルの上だけです」


 佐藤は捨て台詞を残し、食堂を脱出した。


 外は新鮮な森の空気だ。

 だが、まだ終わりではない。


 「追え! 逃がすな! ……殺しても構わん!」


 背後から西園寺の怒号が響く。

 今度は、武器を持った私兵部隊が追ってくるだろう。


 佐藤たちは森の中へと駆け込んだ。

 退路はない。土砂崩れで塞がれている。

 敵地での逃走劇が始まった。


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