表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
身に覚えのない妊娠(怪異)をしたので相談したら、もっと怖いヤクザの若頭(甘党)が来てしまいました  作者: あらまき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/12

第6話 偽物


 気持ちも落ち着いた。

 少しだけだけど、眠気も感じる。

 だから、もう大丈夫。

 そう雅さんに伝えようとして……。


 静まり返ったはずの空気を裂くように、赤ん坊の泣き声がかき鳴らされた。


 びくりと身体が跳ねる。

 また夢か、と思ったが――掌に、確かなぬくもりがあった。

 雅さんが、再び私の手を強く握りしめている。


 その暖かさと力強さが、これが現実なのだと教えてくれた。


「さきちゃん。これが……さっき言ってた赤子の声か?」

 険しい顔で問われ、私は首を振る。


 この声には、震え上がるような悍ましさがなかった。


「違います……でも、これは雅さんにも聞こえるんですね」

「聞こえとるで。――はっきりとな」

 一拍置いて、言いづらそうに続ける。


「……このタイミングで悪いんやけど、今じゃないとあかん、大切な話がある。ええか?」

 握る手に、力がこもった。

 雅さんの表情は、真剣そのものだった。

「は……はい。何でしょうか?」

 私は静かに唾を飲み、雅さんをじっと見つめ……。

 雅さんは、ゆっくりと、囁くよう言った。


「俺……ホラー系、あかんねん」


「――え?」

「ほんまにすまん。ガチで、苦手なんや」

「……もしかしてこの手、私のためじゃなくて……」

 雅さんは、真剣に頷く。

 気づけば、雅さんはマナーモードのように微振動していた。


「俺が怖い」

 赤子の声が部屋に満ちる中、隣で震える大の男。

 不思議と、私の気持ちが落ち着いて行く。


 自分より怖がる人がいると落ち着くっていう、ホラーの演出。

 あれの気持ちが、とても良くわかった。


 ――ドンッ。


 窓を叩く音。

 ばち、ばち、と照明が瞬き、タンスが軋む。

 おまけにラップ音まであちこちで。


 怪奇現象が、雪崩のように起きている。


 だけど、まったく怖くない。

 やっぱり、腹の中から響いていないからだろう。


「……大丈夫ですよ」

 私は震える雅さんを安心させようとそう口にする。

 立場が、完全に逆転していた。


「せ、せめて嬢ちゃんだけは逃がす……俺が、しんがりに……」

 雅さんはそんな優しいことを言ってくれる。

 だけど、その足取りじゃあ無理だろうな。


 ――バンッ。


 再び、強く窓が叩かれる。


「ひっ!」

 雅さんが悲鳴を上げる。

 反対側のタンスが揺れ、雅さんの顔が青から赤に。


 ちょっと、信号機みたいだった。


 更に、別の声が混じる。

 低く、湿った、怨嗟のこもった声。

 男の人の、怨念。


 それを聞いた瞬間――雅さんの表情が変わった。


 それは、能面のように無表情だった。

 なのに、私の身体は反射のように竦み上がる。


 優しく微笑みかけてくれた雅さん。

 不安がらせないよう必死に気遣ってくれた雅さん。


 優しい人だとこれ以上ない程知っているのに……今の雅さんの顔が見れない。

 その顔が、本当に恐ろしかった。


 今起きている怪奇現象なんかより――ずっと。


 彼はそっと私の手を離し、人差し指を立てて"静かに"と合図する。

 そして音もなく窓へ近づき――拳でガラスを叩き割った。


 カシャーン!


 激しい破砕音が鳴り響く。

 雅さんの腕が振り抜かれると、何か大きな物が窓の外から床へ転がりこんできた。


 それは、人のようだった。

 全身黒づくめの、顔まで隠した人。


 雅さんは即座に拘束し、そのまま覆面を剥ぎ取る。

 顔立ちから、小柄な男性だとわかった。


「さきちゃん。こいつ知り合いか?」

 私は、静かに首を横に振った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ