お前はもう酔っている
北斗七星も死兆星も見当たらなかったけど、なんかそれっぽいのは見えた。
なんと言うか、北斗七星よりも巻き込んでいるというか。
棒に差したソーセージマルメターノみたいな見た目だけど。
「まぁ、そんなのあったら投影するよね」
という事で、ワインに落としてみました。
はてさてどんな味になるのか。
「お、かなりスパイシー」
鼻に抜ける香辛料の香り。
舌に残る果実感と、グッと広がるフルーツの香り。
……飲み込むとアーモンドとかの香ばしさを感じられて、これは肉料理に合うやつですね。
しかも脂肪とかが少なめの、赤身肉のステーキとか。
――流石にそれらはビュッフェに……あったわ。
あったなら取りましょう。
ただ、ソースを選べたんだけどおススメになってたバターソースは選ぶ気にはなれんな。
いや、マリアージュとかじゃなく、シンプルに食べる時間として。
仮眠した後とは言え、この後は寝るだけな訳で。
そんなタイミングでステーキだけでも結構ギルティなのに、そこにバターはもう有期刑なのよ。
というわけで、シンプルに醤油ソースでいただきます。
付け合わせにワサビかホースラディッシュを選べるのか。
――ワサビでしょ、やっぱ。
「美味そう」
ちなみにステーキと言っても塊のままではなく、焼いた後に一口大にカットされた奴が並んでた。
まぁ、ステーキと言うか、ローストビーフっぽいんだけれども。
切られた断面は美しいコントラストで、中央に向かうにつれて肉の色は赤く。
ただ、火が通って無いわけじゃあない。しっかり火が通ってはいるが、それでも肉の色を残しているという事。
肉の外側も、色は変わってはいるものの、固さは出てきておらず。
しっとりとしながらも、しっかりと噛み締められる身質の固さ。
噛むと溢れる肉汁が、醤油の尖った塩味と混ざり合い。
ワサビの香りが爽やかな風を口の中に発生させ、肉の僅かな脂の感じを消失させる。
そこに今のワインですよ。
肉汁と合わさって最強に見える赤ワイン。
マリアージュも完璧で、次に食べるステーキにまで影響しちゃうんだもん。
もちろん、ステーキの後にまたワインを運ぶんですけれども。
「ふー、美味い」
ちなみにいただいたステーキは二切れ。
これくらいがちょうどいい。
「次は……どうしようかな」
スワリングしてワインをリセットし、次はどうしようかと考えて。
そういえば、北斗七星っぽい星の並びに気を取られて、ひときわ輝く星一つってのは後回しにしちゃってたや。
それにしよう。
と、星を捉えてグラスをかざした瞬間……。
「お、流れ星」
その星の下に、一筋の光を残した流れ星が。
そして、
「おー、流れ星も投影出来るんだ」
ワインにも、その星と流れ星の軌跡とが投影された。
これ? もしかしなくてもレアなのでは?
流れ星なんて、待ち構えていたとしても投影まで出来ないでしょ、多分。
とすれば、このワインはかなり希少な事が予想出来る。
「ビオラさん呼んで話を聞くか? いや、流石にそこまでじゃないよな」
と、自問自答し、次に会った時にそれとなく聞いてみよう、と心の中にしまい込み。
一口ゴクリ。
――これは……。
「すんげぇ美味い」
今まで飲んだワインの中でも群を抜いて美味い。
まず香りが複雑。一番最初の印象では明らかに果実! って感じの主張なのに、口の中に入れて温度が上がるにつれて果物からフルーツ、フルーツからナッツ、と香りが変化していく。
そして味わい。どっしりとしたフルボディのワインの味わいではあるものの、口当たりは驚くほどに軽く滑らか。
こっちは香りと違い、温度で変化することはないけれど、むしろそれがありがたかったり。
香りも味も変化してると、ゆっくりと味わえないしね。
「後味もかなりゴージャス感あって、普通にたっかいレストランで飲めるようなワインだなこりゃ」
たっかいレストランなんて行ったこと無いけど。
「こんなに美味しいワインが飲めるなんて、きっと俺は特別な存在に違いない」
で、まぁ、ツマミと合わせてワインをパカパカ飲んでいたら、よく分からんことを口走ってまして。
いや、それくらい美味しかったんだって、流星ワイン。
だって、特にツマミとかいらず、ワインだけを純粋に飲んでたんだもの。
ただ、だいぶ酔いは回ってきた。
「ビオラさーん」
「お呼びでしょうか?」
「お冷くだせー」
「どうぞ」
で、力尽きる前にお冷を貰い。
飲み干して、ベッドに倒れ込む。
グラスやおつまみはテーブルに置いたし、倒したりこぼしたりはしてないと思う。
多分。
――目を覚ました時に散らばったり、汚れたりしてなかったし。
……ビオラさんが掃除してくれた可能性も捨てきれませんけれども。
*
……マジですか。
いや、まさか御厨さまが流れ星をワインに落とすとは思いませんでした。
エルフ界隈でも、近未来予知が出来るエルフにしか成し得ないとまで言われたほぼ伝説の一杯ですよ?
人間の身で、自身の幸運のみでそれを作り出すのはまぁ……可能性はゼロではありませんけれど……。
ゼロじゃないだけで、実現が可能かと言われると……。
目の前で実現されている以上、何も言えやしませんが。
――さて。
御厨さまは眠られましたし、ワインには少量ではありますが、まだ流れ星を落としたワインが残っています。
この投影ワインも安いものではありませんし、残してしまうのも勿体ないですよね?
そう、フードロス削減の為なのです。
ですので、私が責任を持って処理すると致しましょうそうしましょう。
――うっめ。




