エルフ必修事項
なんというか、ビジュアルさえ無視出来たら最高に美味しいんだよなぁ……。
ふんわりと、それでいてしっとりとしていて、口の中に入れるとスフレのようにシュワっと消えるクレープ生地。
かけられたカラメルソースと、中に包まれたカスタードクリームの醸し出すさながら上品なプリンのような味わいは、大人も子供も食べれば笑顔に出来る魔法のよう。
そして……。
「本当に牡蠣にさえ見えなきゃいいんだけどなぁ……」
クレープ生地と一緒に食べても、それ単体で味わっても、ソースをたっぷり絡めても。
この牡蠣バナナが本当に美味い。
というか、エルフの店で何度見るんだこの牡蠣バナナ。
もしかして、実は高級な果物だったりするのか?
「バニラも、すっごい濃厚で美味い」
常温で、既に溶けだしているバニラアイスは、それだけ牛乳の濃度が濃いという事。
そんな溶け出たアイスをクレープにしっかりまぶして食べれば、口の中は満開のお花畑ですわ。
「あぁ……コーヒーが美味い」
香りよし、苦みよし、酸味よしのバランスのいいホワイトコーヒーを口に流し込めば、それまでのクリームや牡蠣バナナ、アイスの甘さを全て絡めて掃除してくれる。
そうして口の中をリフレッシュし、鼻に抜ける香ばしい風味をしっかりと吐き出して。
また、クレープを口に運ぶ。
まぁ……うん。
どこで食べるデザートも美味い。
何だろうね? エルフって、マジでデザートに命かけてるのかな?
「ご馳走さまでした」
気が付けばあっと言う間にデザートを食べてしまっていたが、それでも大満足ですわ。
お腹も一杯。
「少しだけゆっくりしよ」
クレープは完食したが、カップにはまだコーヒーが残っており。
その残ったコーヒーをゆっくり堪能するまで、しばしの休憩。
いやぁ……密度の濃い一日だった。
後は『天葉』に戻って、一眠りして……。
陽が落ちたら時間の延長があるんだよな?
そうすると何をしようか。一応暇潰しの本は持って来てはいるけど、流石に一日全部の暇を潰せるほどではないだろうし……。
何か本とか貸し出しされてないかな? 『天葉』に戻ったらビオラさんに聞いてみよう。
「……最後にミルクだけ入れるか」
最後の一口となったコーヒーに、ピッチャーのミルクを注ぐ。
――というか、ピッチャーで持って来られてるせいで逆に不便なんだけど?
少しだけ注ぎたいのに……。
「……ミルクってより、あっさりした生クリームみたいな……」
で、ミルクを入れてコーヒーを飲んだ感想がこちら。
なんと言うか、結構脂肪分を感じたのよ。
でも、あっさりしてる。
植物性の生クリームみたいだった。
――まぁ、だからってピッチャーで持って来られても、使い切れるわけ無いんだけれど。
「ビオラさん」
「お食事は終わりましたか?」
「はい。大満足です」
という事でビオラさんを呼び、お会計。
からの『天葉』まで移動、からのベッドダイブ。
あぁ……満腹ですぐにでも寝られそう。
「御厨さま」
「……はい」
「お洋服、着替えになられては?」
「あ、そうだ。肉汁飛んだんだった」
言われて思い出した。
葉っぱを焼いて食べた時だかに肉汁が飛んじゃったんだった。
「特スイートクラス専用の室内着がございます」
「ありがとうございます」
「それと……」
「?」
「指パッチンについて少し教えさせていただきます」
「……はい?」
*
ビオラさんが一旦客室を出た間に室内着に着替え、今日来ていた服はビオラさんへ。
どうやら、洗濯のサービスが付いているらしい。
で、着替えた室内着なんですけど……。
ほぼ着る毛布。ただ、来ていて動きづらいという事は無く、結構余裕もある。
暑すぎないし、かといって寒さも感じない。
非常に着やすい、そして過ごしやすい室内着です、はい。
「で、指パッチンなのですが」
「はい」
そして、何故だか教えられる指パッチンのやりかた。
なんでも、エルフの間では指パッチンの習得は必須項目らしく。
初等教育を受ける前に習得していて当たり前なんだとか。
転じて、指パッチンが出来ることが当たり前として色々と設計されており、さっきのお店然り、指パッチンが出来ないと店員さんを呼ぶこともままならないとかが往々にして起こりえる。
さらに言うなら、指パッチンが出来ない事を理由に笑われかねないとの事で、こうして俺に教えているんだとか……。
「親指の付け根に中指の腹を叩きつけるやり方が簡単です」
「中指と親指の摩擦で音を出してるわけじゃないんですね」
「それが出来るのは竜人族やエルフ、ドワーフだけです」
「人間には無理なのか」
「そもそも擦っただけであのような破裂音は出ません」
それもそうか。
というわけで、ビオラさんに説明されながら練習すること五分。
「お、鳴った」
「おめでとうございます」
出来るようになりました、指パッチン。
……これ、必須?
「今後、用事の際は指を鳴らしていただければ向かいますので」
「あ、はい」
「もうすぐ列車が出発します。そうしましたら、天井が透けて星空を一望出来るようになりますので、お楽しみください」
「あ、透けるんだ、天井」
「また、深夜には深夜専用の食事や飲み物がビュッフェに並びます」
「この部屋からでも取れる?」
「もちろんです」
「楽しみにしとこ」
「では、夜が明けるまで、ご堪能くださいませ」
という事で、言われた通りにベッドに寝転び、天井を見上げ。
透けるのは今か今かと待ち望んでいる間に――寝ました、はい。
当たり前に。ふかふかのベッドに着心地の良い室内着の魔力には敵わなかったよ……。




