【第56話:ツンデレAI《オラクル》、債務不履行を三分解して“遅れ・不能・足りない”を一刀両断】
六法のページが、重たい音も立てずにめくられた。
そこに並ぶ見出しは、どれも見覚えのある言葉――
履行遅滞、履行不能、不完全履行。
スマホが光り、少しだけ冷たい声で切り出す。
『約束が守られなかった瞬間の話です。
ここからは感情ではなく、分類で戦いなさい。
間違える人は、だいたい“全部まとめて債務不履行”と言います。』
「耳が痛い……」
『痛いのは正解です。始めます。』
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■講義①:債務不履行は“三種類”に必ず分ける
『まず大前提。
**債務不履行は、必ず次の三つに分けて考えます。**
①履行遅滞
②履行不能
③不完全履行
この分類を間違えた時点で、
後の議論は全部ズレます。』
「まず名前を決めろ、ってことか。」
『はい。
診断名を間違えた医者と同じです。
処方箋も間違います。』
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■講義②:履行遅滞――“できるのに、遅れている”
『履行遅滞とは、
**履行できる状態なのに、
期限を過ぎても履行しないこと。**
ポイントはここ。
**①履行可能
②期限経過
③債務者の責めに帰すべき事由**
この三点が揃うかどうか。』
「期限が来てないと遅滞じゃないんだな。」
『当然です。
締切前に提出しない人を、
遅刻とは言いませんよね。』
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■講義③:履行不能――“もう、どうやっても無理”
『次が履行不能。
**履行が、物理的または法律的に不可能になった状態。**
特定物の滅失
法令改正で違法化
本人死亡で代替不能
などが典型です。』
「不能って言葉、強いな……」
『強いです。
“頑張ればできた”は、不能ではありません。
それは遅滞です。』
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■講義④:不完全履行――“やったけど、足りない”
『三つ目が不完全履行。
**履行はされたが、内容が契約どおりでない状態。**
数量不足
品質不良
方法違反
これらは全部、不完全履行です。』
「やったのにダメ扱い……厳しいな。」
『約束の世界は厳しいのです。
あなたの“途中まで勉強した”と同じ評価になります。』
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■講義⑤:三者の“決定的な見分け方”
『迷ったら、この問いを使いなさい。
**Q1:今からでも完全な履行は可能?**
→ YES:履行遅滞
→ NO:履行不能
**Q2:一応、何かは履行された?**
→ YES:不完全履行
→ NO:遅滞 or 不能
この二問で、
ほぼ確実に分類できます。』
「かなり整理できるな……」
『あなたは“質問で整理する”と強い。
覚えておきなさい。』
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■講義⑥:帰責事由――“誰のせいか”はここで見る
『次に重要なのが、帰責事由。
**債務者の責めに帰すべき事由があるか。**
故意・過失が基本ですが、
免責されるケースもあります。』
「天災とか?」
『そうです。
不可抗力であれば、
損害賠償責任は否定されることが多い。』
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■講義⑦:債務不履行が起きたら“次に何が起きるか”
『分類が終わったら、次はここ。
**・履行請求はできるか
・損害賠償は請求できるか
・契約解除は可能か**
この三点を順に検討します。
いきなり解除に飛ぶ人、落ちます。』
「順番が大事なんだな……」
『順番を無視する人は、
だいたい勢いで答案を書いています。』
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■講義⑧:答案での基本フレーム
『債務不履行が出たら、
答案は必ずこの流れ。
**①どの類型か(遅滞・不能・不完全)
②帰責事由の有無
③履行請求の可否
④損害賠償の可否
⑤解除の可否**
この型を崩さないでください。』
「型があると、安心して書けるな……」
『あなたは“安心して書ける型”がないと、
暴走しますからね。』
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■まとめ:債務不履行は“名前を決めた時点で半分終わり”
『今日のまとめ。
**①債務不履行は三分類
②履行遅滞=できるのに遅い
③履行不能=どうやっても無理
④不完全履行=やったが足りない
⑤帰責事由を必ず確認
⑥結論は必ず順番に出す**
ここまでできれば、
債務不履行での大事故は防げます。』
スマホの光が、少しだけ柔らいだ。
『次は、
**損害賠償。**
“いくら払うのか”“どこまで責任を負うのか”。
数字と論理の世界に入りますよ。』
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■次回予告:第57話――
**損害賠償の基礎――範囲・因果関係・過失相殺。**




