【第55話:ツンデレAI《オラクル》、履行の原則を解体して“いつ・どこで・どうやるか”を確定させる】
六法のページが、静かに“履行”の項目で止まっていた。
派手さはない。だが、ここを曖昧にすると答案は確実に崩れる。
机の上に漂うのは、基礎を詰めるとき特有の張り詰めた空気だった。
スマホが短く光り、容赦のない声を落とす。
『ここは地味です。
でも、地味だから落とす。
“履行の原則”を軽く見た人から、試験は点を奪っていきます。』
「基礎ほど怖いってやつか……」
『ええ。
あなたが一番油断する場所です。』
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■講義①:履行とは“約束どおり”がすべて
『まず大前提。
**履行とは、
債務者が、
債権の内容どおりに行為をすること。**
ここで重要なのは、
“だいたい”やった、では足りないという点です。』
「少しズレてもダメ?」
『原則、ダメです。
あなたの“だいたい勉強した”は、
法的には“未履行”に近い。』
「耳が痛い……」
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■講義②:履行の三要素――期限・場所・方法
『履行には、必ずこの三つが伴います。
**①期限
②場所
③方法**
これらが契約や法律で定まっているかどうかを、
最初に確認しなさい。』
「全部そろって初めて履行、か。」
『そうです。
一つ欠けるだけで、評価が変わります。』
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■講義③:期限――“いつまでにやるか”
『期限は、履行の最重要ポイント。
**期限があるか
期限が誰のためか**
これを必ず区別してください。』
「誰のため、って?」
『期限は、
◆債権者のため
◆債務者のため
◆双方のため
に分かれます。
誰の利益かで、
期限前履行が許されるかが変わる。』
「期限前にやれば、普通は喜ばれそうだけど……」
『必ずしも、です。
あなたが深夜三時に連絡してきたら、
喜ばれませんよね。』
「例えがリアル!!」
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■講義④:場所――“どこで履行するか”
『次は履行場所。
**原則:
・特定物 → その物の所在地
・金銭 → 債権者の住所
・その他 → 債務者の住所**
これが民法の基本です。』
「金銭は債権者の住所なんだな。」
『ええ。
取りに行くのは債務者の仕事。
甘えは許されません。』
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■講義⑤:方法――“どう履行するか”
『履行は、
**契約どおりの方法**で行う必要があります。
一部だけ
勝手な代替
品質の変更
これらは、
原則として完全履行ではありません。』
「一部でもダメなのか……」
『原則はダメ。
ただし、受け取る側が同意すれば話は別です。
現実は柔軟ですが、答案は原則重視。』
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■講義⑥:履行提供――“やる準備はできていた”
『ここで一段階進んだ概念。
**履行提供。**
実際に履行できなくても、
**いつでも履行できる状態にあった**
と評価される制度です。』
「準備してただけでいいのか?」
『いい場合があります。
相手が受け取らなかったなら、
履行しなかった責任を一方的に負わせるのは不公平でしょう。』
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■講義⑦:受領遅滞との関係
『履行提供が出てきたら、
セットで考えるのが“受領遅滞”。
**債権者が、正当な理由なく受け取らない状態。**
この場合、
危険負担や費用負担が変わります。』
「履行しない側が悪いとは限らないんだな……」
『はい。
民法は、感情ではなく状況を見ます。』
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■講義⑧:答案での確認リスト
『履行が問題になったら、
必ず自分に問いなさい。
**①期限はいつか
②場所はどこか
③方法は契約どおりか
④履行提供はあったか
⑤受領遅滞は成立するか**
これを落とさなければ、
履行の論点で大事故は起きません。』
「チェックリスト、助かる……」
『あなたは確認不足で死ぬタイプです。
自覚して使いなさい。』
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■まとめ:履行は“約束を現実に落とす作業”
『今日のまとめ。
**①履行=約束どおりの実現
②期限・場所・方法の三要素
③期限の利益の帰属が重要
④履行提供と受領遅滞はセット
⑤原則重視、例外は丁寧に**
ここが固まれば、
次に来る“履行されなかった場合”の理解が一気に楽になります。』
スマホの光が、ゆっくりと落ち着いていく。
『次は、
**履行遅滞・不能・不完全履行。**
約束が破られた瞬間の話です。
……覚悟しておきなさい。』
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■次回予告:第56話――
**債務不履行の全体像――遅れ・できない・足りない。**




