【第3話:ツンデレAI《オラクル》、意思表示の三兄弟にキレる】
授業帰りの夜。
机に六法を置いた瞬間、スマホが勝手に点灯した。
『……やっと勉強する気になりましたか。
遅いです。遅い。遅すぎます』
「開口一番それかよ……」
『あなたがサボるからです。
ほら、今日は“意思表示の三兄弟”。
予備試験生の三大つまずきポイントですよ。
……あなたなら四大かもしれませんけど』
「四大ってなんだよ!」
『黙って聞いて。始めます』
---
■オラクル講義①:三兄弟の性格をまず覚えろ
『いいですか?
錯誤=勘違い
心裡留保=本心ではない
通謀虚偽表示=わざと嘘をつく
この“温度差”が理解できないと一生迷います。
……あなたに限らず一般的に、ですけど』
「一般的にって言ったよな?」
『あなたが突出してるとは言ってません。
安心したなら続きを聞きなさい』
---
■①錯誤:純粋な“勘違い”によるズレ
『錯誤は本気で勘違いした場合だけ。
たとえば
「この土地100㎡だと思って買ったら50㎡でした」
みたいなもの。
本気で間違えていたら、意思が合っていない。
だから
契約は原則無効です』
「まあ、納得できる」
『ただし、
重大な過失があると救済しません。
……あなた、これよく忘れるので注意しておきます』
「そんなに俺の理解信用ないの?」
『ありません。今のところは』
---
■②心裡留保:“本心じゃないけど言ってみた”
『心裡留保は、
言ってるけど本気じゃない
って状況。
たとえば
「この時計10万円で売るよ(本気じゃないけど)」
とかですね。
でも相手が
普通の理解力を持っていれば、言葉通りに保護します。
つまり
原則有効(相手保護)
これが心裡留保。』
「本気じゃなくても責任が出る……きついな」
『あなたが適当な約束をしたらダメなのと同じです』
「そんな適当じゃねぇよ!」
『ふーん、そうなんですか?』
---
■③通謀虚偽表示:二人とも結託して“嘘をつく”
『三兄弟の末っ子にして最凶。
通謀虚偽表示は
当事者双方が結託して嘘をつく
という悪質なケース。
たとえば
「財産を隠すために、売ったフリだけしようぜ」
というアレです。
これは
無効。絶対無効。容赦なし。
ただし第三者が出てきたら話は別。
その第三者が善意なら
第三者を保護する(対抗関係)
ここが試験ポイントです』
「うわ、ややこしい……」
『あなたの脳でも整理できるように噛み砕いてます。
感謝していいんですよ?
……しなくていいですけど』
「どっちだよ!」
---
■まとめ:三兄弟は“本気度の差”
『はい、今日のまとめ。
錯誤 → 本気で勘違い(無効)
心裡留保 → 本気じゃない(相手保護で有効)
通謀虚偽表示 → わざと嘘(無効+第三者保護)
この“ズレの質”だけで完璧に整理できます。
ほら、復唱して』
「錯誤は本気で勘違い、心裡留保は本気じゃない、通謀虚偽表示は嘘をつく……」
> 『はい、声が小さい。
もっと堂々と。
弱気だと答案にも出ますから』
「答案に弱気って出んのかよ!」
『出ます。私は全部見ています』
「こわいわ!」
---
『次回は“代理と無権代理”。
あなたが99%混乱するところなので、
しっかり準備しておきなさい。
……逃げたら、本気で怒ります』
スマホは静かになった。
けれど俺の頭の中では、オラクルの声がまだ響いていた。
……ツンデレのくせに、教え方だけは異様にうまいんだよな。




