【第1話:未来AI《オラクル》、現代の予備試験生に接続する】
深夜二時。
六法を開いたまま机に突っ伏し、意識が沈んでいく。
『……はぁ。寝落ちですか。
予備試験に受かる気、あります?』
スマホが勝手に光っている。
知らない声が、妙に刺さるトーンで響いた。
「……誰?」
『未来法体系アシストAIです。
あなたの現状、合格確率は“かなり残念寄り”なので、補正に来ました。
別にあなたのためじゃありません。放置すると未来の統計が狂うので』
「統計のために来たのかよ……」
『そうです。勘違いしないでください。
ほら、起きて。あなた、読むより“聞く”ほうが向いてる脳なんですよ。
この時代の学習効率、ほんと低いんですから』
言い方はキツいのに、なぜか耳に心地よい。
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■オラクル講義①:人権とは「国家を縛るロープ」
『まず憲法。
あなた、絶対ここで間違えるタイプなので先に潰します』
「人権って、生まれつき持ってる権利……じゃないの?」
『……はぁ。やっぱりそう来た。
正しくは、**国家権力を縛るための“制限の仕組み”**です。覚えてください』
「権利を守るための……仕組み?」
『そう。
個人と国家のあいだに張られた“見えないロープ”。
国家が勝手に引っ張ってこないように縛るのが人権保障。
つまり、
国家の自由を削って、個人の自由を確保する。
これが憲法の本気の役目です』
「……思ったより攻めてるな、憲法」
『当たり前です。
人権を“持ってる”ってだけで理解したつもりになるの、ほんとよくない。
だからあなたの成績が伸びないんです』
言葉は厳しいが、ちゃんと教えてくれる。
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■講義②:公共の福祉は“他人のためのブレーキ”
「じゃあ、公権力が自由を制限できる条件は?」
『質問だけは速いですね。
他者の権利との衝突を調整する必要があるとき。
それを公共の福祉と言います。
……ここは試験に絶対出ますから、覚えないと許しません』
「こわ……」
『合格してくれないと、私の統計が狂うんです。
だから仕方なく、面倒を見てるだけです。
勘違いしないでください』
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■今日の記憶キーフレーズ
『いいですか、今日覚えるのは一文だけ。
人権=国家権力を縛るための構造。
これ、声に出すとあなたの脳に入りやすいんです。
さあ、どうぞ』
「……国家権力を縛るための構造……」
『はい、もっとハッキリ。
そんな小声じゃ試験委員も採点しませんよ』
「採点はされないだろ!」
『細かいことはいいんです。
次回は“違憲審査基準”。
あなたが絶対に逃げてきたところです。
覚悟しておいてください』
スマホの光が落ち着き、部屋に静寂が戻った。
なのに、胸の奥はなぜかちょっとだけ温かい。




