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おかんは今日も叫んでる  作者: 猫茶屋
一章:城内
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えさぁぁぁぁぁぁぁ!!!

そんな事を思ったからか、夢を見た。

あの僻地の家でのんびりと過ごし娘や孫が遊びに来ている夢だ。


「おかん、このカクテキ食べれるん?」


「ばぁば、胡瓜の浅漬け食べてもええ?」


来て早々に冷蔵庫を開け漬物を食べる娘と孫・・・いつもの事だった。


娘はシングルマザーになったばかりで料理を余りしない。する時間が無いと言った方がいいか。

なので車で2時間掛けて時々やって来ては作り置きのアレコレを持って帰る。

まあ儂の楽しみでもあるからいいんだが。


「久々に煮〆が食べたいなぁ。お、材料あるじゃん。おかん作って」


「ばぁば ゆっちゃんおからのドーナツ食べたい!」


「へいへい、んじゃ作るかのぅ」


「ひじきも食べたい!煮豆も!よろしく」


よろしくじゃねぇんだわ、煮豆とか前もって言っとけよ。


そう思いながらもカマドに火を起こして準備を進める。

ガスコンロだけじゃ追いつかん。


「晩飯はどうするん?食っていくん?」


「明日休みじゃけぇ泊まってくー」


「はいよ」


て事は晩飯も要るから、猪肉解凍せんにゃーな。

猪肉は近所(と言っても4㎞離れてるが)から貰った物だ。

これでスキヤキにするとぶち旨い。捌き方が上手いので独特の臭みがほぼ無い。


「ゆっちゃん、ママと一緒に畑から白菜と長ネギ採って来て」


「はぁーい。ママ行こう~」


そうだ鶏小屋から卵も取ってこんといけん。何個産んどるじゃろか。


・・・・・


鶏・・・ そうだ鶏!誰か気付いただろうか?餌やらんと餓死する!


「えさぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


叫んで目が覚めた。

夢か・・・  夢だけど! 

鶏が気になる。思い出したからにはすこぶる気になる。

でも確認する術がないんだよな。誰かが気付いた事を祈ろう。



「大丈夫ですか!」


騎士殿が扉の外から声を掛けてくれる。


「大丈夫です、夢見が悪かっただけなので!すみません」


「いえ、大丈夫であればよかったです」


翌日騎士殿からドリームキャッチャーを渡された。


「悪夢を見なくなるまじないです」


気遣いが嬉しくてありがたく受け取る。

この世界にもドリームキャッチャーがあるのか。探せば意外と共通の物があるのかもしれない。落ち着いたら町に買い物に出掛けたいものだ。


引っ越しの準備と言っても儂元々何も持ってないし。

いやあったわ。長靴に軍手に草刈り鎌・・・。

綺麗に洗われて鎌なんぞ新品のごとく研がれてリボンが巻かれている。

何故リボン?

まぁ刃物だし危険物だと取り上げられなかっただけ良しとしよう。

とにかく、纏めるほどの荷物もないので厨房へと向かう事にした。


「コルディ居る? 厨房使いたいんだけど大丈夫かな?」


「おう、空いてる所なら使っていいぞ」


「はいよ、んじゃ借りるね」


「今日は何を作るんだ?」


「昔ながらの素朴なかりんとうとバナナケーキ」


幸いながらベーキングパウワーもドライイーストも存在してた。

もっとも今日はベーキングパウダーしか使わんけど。


「随分と長い名前だな」


ん?・・・


「お菓子の名前は かりんとう」


「なるほど」


コルディ実は天然入ってるのか? まぁいいや。

かりんとうの材料は簡単、小麦粉・水・砂糖・食用油。

混ぜて捏ねて伸ばして切って揚げるだけ。

好みによって黄粉や黒糖を使ってもいい。出来上がったら砂糖を適量塗す。黒糖蜜に絡めるのもいい。


バナナケーキは基本のパウンドケーキとほぼ同じ。

バナナをペーストして入れるので牛乳と砂糖の量は少なめに。コツは皮をむいたバナナをレンチンする事。温める事で甘みが際立つようになる。レンジがないので湯煎で代用。好みで少量のシナモンやココアパウダーを入れるのも有り。


で、完成したのはいいんだが。


「コルディ なんでまた陛下と妃殿下と閣下がいるんだ」こそっ


「俺にだってわかんねぇよ。気が付いたらニコニコ座ってたんだよ」ぼそっ


これは・・・ダルクくんの毛髪が心配になる気持ちが解った気がする。

こんな場所にちょくちょく来たら駄目だろう。仕事はよ?政務はよ?執務はよ?


「殿下妃殿下閣下、貴方方お仕事はいかがなさいましたかね?

 今日はお付の方々も補佐官も護衛すら居ないようですが?

 まさか部屋をこっそり抜け出して供の者を撒いて来たとかいいませんよね?

 そもそもちょいちょい現れて貰っても料理人の邪魔ですし

 夕飯の準備が滞るんですがお解りですかね?

 しかも毎回毎回何故私が作った物を当たり前の様に食べようとするんですかね?

 はい、戻った戻った。

 さっさと戻って自分の職務を全うしやがれでございますよ」


「え?ちょっと待てマォ殿。この匂いを嗅がせておいておあずけはないだろう」


「マォ殿?少しくらい味見を・・・」


「私もか、私も駄目なのか。私は仕事を終わらせて」


「うっさい!胡椒ぶちまけんぞ?」


「「「ぶちまけるとは・・・」」」


胡椒、もちろん粉の方が入った瓶を掴んで蓋を取ると3人は察したようでそそくさと後退していった。

ふんっ。だいたい閣下は後で渡すんだから大人しく待ってろつーの。

ほらみろ、廊下からダルクくんや侍女長の叫び声が聞こえてるじゃないか。


「さてお茶でも飲むかねぇ」


と言えば温かい玄米茶が出て来た。茶葉は勿論ダンジョン産らしい。


「煎れておきました!」


元気のいいこの子は毎回下ごしらえなど手伝ってくれる副料理長補助。

受け答えが軍隊っぽいのは解っていたけど何故敬礼・・・


粗熱の取れたかりんとうを少量取り分けて紙に包みこっそり補助くんに渡す。


「いつも美味しいお茶をありがとう。後で味見してごらん」


ニパッと笑う笑顔はどことなく孫を思わせる。うちの孫は女の子だけども。

見つからないようにポケットに隠して調理に戻って行った。次は若い子向けのお菓子でも作ってみようか。

バナナケーキは1日置いた方がしっとりして美味しくなるのでそのまま部屋に持ち帰る。

コルディ・ダルク・閣下の3人には明日渡すつもりだ。騎士くんにもあげよう。いつも護衛してもらってるしドリームキャッチャー貰ったし。

かりんとうは儂が食べたくなって作っただけなので誰にもやらん。

と思ったけど 小さく鳴った騎士くんのお腹の音を聞いてしまったので・・・


「少々聞きたい事があるので中にお願いできますか」


と他者に怪しまれないような誘い文句で招き入れソファに座るよう促した。

最初こそ遠慮していたものの、たまには誰かと茶を飲みたいと言えば遠慮がちに座ってくれた。

緑茶は飲み慣れていないだろうから、紅茶にしてかりんとうと共にテーブルに置いた。


「自分勤務中ですので」


確かにそうかもしれないがこれも任務だと思ってもらおう。


「では私からの指示という事で。

 コホン 大人しくそこに座って 茶に付き合え。

 これでいいだろ?」(笑)


騎士くんは一瞬目を見開いて驚いたようだったが、自然な笑みを浮かべ


「ご配慮ありがとうございます」


とお茶を口にした。せっかくなので出来立てバナナケーキも1切れ添えた。


「本当は明日の方がしっとりと美味しくなるんだがね。

 出来立ては出来立てで旨いから食ってみて。

 こっちのはカリントウと言う素朴な庶民の菓子だけど癖になるよ」


まぁ多少は腹の足しにはなるだろう。

一口食べて「う」と言った後慌てて口を押えていた。

どうした、バナナは嫌いだったか?


「旨いです。凄く!」


とコソコソ言う物だから笑ってしまった。なんだか孫が増えたような気持になった。

次は何で餌付けしよう、そう思いながら短いお茶の時間を過ごしたのだった。

読んで下さりありがとうございます。

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