コルディと胡椒
あの後周辺も案内して貰ったら騎士団専用の菜園があると言うのでその一角を自分用に貸してもらえないか交渉してみた。驚かれたが許可は貰えた。
必要な苗や肥料などは菜園担当職員に言えば分けて貰えるとの事だった。
費用は給料天引きにしてくれと言えば経費に上げるので気にするなと言われたのだが。いいのかそれ。
ならば監査が入った時に言い訳できるよう、野菜が収穫出来たら騎士達に差し入れでもしておくか。
そして今は城の中の厨房に来ている。
住いが出来上がるまでの間に料理長からこの国の料理屋お菓子を教えて貰う事になっているのだ。
「料理長のコルディだ、宜しく頼む」
「マォです宜しくお願いします」
気難しい顔のコルディだが 実はお菓子が大好きなので異世界のお菓子に興味があるのだと笑った時は可愛く見えた。作ってあげたかったがまずは料理だ料理。
ゴルディは試食用のカット野菜と共に食材が乗った図鑑を用意してくれていた。
見た目が微妙に違うが名前と味はほぼ同じ。同じと言うか昔の味と言うべきか。まだそんなに品種改良されてない昭和の味と言えばいいだろうか。
儂にとっては懐かしい味だった。
調味料については有難いことに現代日本とほぼ変わらない。
味噌や醤油もあればマヨネーズにケチャップ、ソースまである。ありがたい。
「よく味噌や醤油まであったな」
「ああこれか、ダンジョン産なんだよ。どう使えばいいのかまだ試行錯誤でな」
「ダンジョン産・・・」
「そうか、マォの世界には存在しないのだったな」
食材やお菓子・料理の話をする間にコルディとはすっかり打ち解けた。お互い堅苦しいのは苦手だから敬称抜きにする事になったのだ。
「ダンジョン産て事は割と手軽に入手できる?」
「出来るぞ、しかも安価だ。使い慣れない物だからな」
「なるほど、それはラッキー。日持ちする物だし買い溜めしてもよさそうだな」
「と言う事はマォは使い道を知っているのか」
「そうだね。祖国の伝統的な調味料とでも言えばいいかな」
「そうか、何か作って貰う事は可能だろうか」
「じゃあさコルディもこの国も一般的な料理作ってよ。食べ比べてみようぜ」
他の料理人達も興味津々にしている。
野菜は何があるかな、茄子がある。大根と人参もある ジャガイモもあるな。
「米ってある?」
「あるであります!」
「炊き方は知ってる?」
「竃で炊くであります!」
軍隊かここは! コルディ笑ってんじゃねぇよ。
「マォがほら例のアレを脅して大人しくさせたと聞いてな、皆緊張してんだよ」
なんじゃそりゃ。くくくっじゃねぇよ。脅してねぇし、クレーム付けただけだし!
コルディのだけ辛子増量にしてやろうか。
茄子の味噌田楽 肉じゃが 鳥のテリヤキ 大根の味噌汁 こんなもんだろ。
THEおかん飯 どやぁーと食堂のテーブルに並べたら
チョコンと王妃殿下が座っていた。いつのまに!
「通りかかったらいい匂いがするんですものぉ」
ですものぉ~じゃなくてだね? だったら自室に運ばせるとかすればよかろうに。
「だってねぇ? ここで食べる機会なんてないんだし?たまにはいいじゃない」
いいのか?侍女長・・・・ってあんたも座っとるんかい!
どうすんだこの状況と思いコルディを見れば・・・
あまりに突然の事で硬直してた。
そりゃそうか、いきなり王妃殿下が鎮座してるからね。仕方が無い。
「今回だけですよ?陛下や閣下に見つかった・・・ら・・・・」
見つかったよ早速双方に! うえぇぇぇ・・・
「なんですかその うえぇぇぇって顔は」
なんですかじゃなくて何故に此処に居るのかな閣下は。
「ふっ 宰相は歓迎されておらぬのでは? 職務に戻ったらどうだ」
戻ったらどうだじゃなくてそれは陛下もじゃないのか。
「なっ。そんな事はありません。私とマォ殿は騎獣仲間ですし」
はい? 騎獣仲間ってなんだ。いつ仲間になった。
「む、そんな物許可した覚えはない」
許可って仲間作るのに許可要るもんなのか?
「許可もなにも必要ないでしょう。
ささ妃殿下冷めぬうちに食べるとしましょうか。
あ、マォ殿陛下はお帰りだそうですよ」
いやいやあんたらさ・・・子供じゃないんだから。
結局 陛下王妃殿下 閣下の三人が食べつくしてしまい
コルディの口には入らず・・・
「マォ・・・この田楽ソースだけでも舐めてみていいか?」
いやいや待て待て。さすがにそれは切ないから止めてくれ。涙目になってるし!
あまりにコルディが哀れでもう1回作り直した。
「はぁぁんっま!味噌とはこんなにうまくなるのか。
この肉じゃがもテリヤキも最高だな!初めて食べるのに懐かしくなる味だ」
そうだろうそうだろう。お袋の味と言えば肉じゃが。子供から大人まで人気があるのがテリヤキ。田楽は酒の肴にもなるしな!
「料理長酷いで在ります!自分達が試食する分がないであります!」
「む? 作り方は見て解っただろう。自分で作れ。俺は食うので忙しい」
「「「「えぇぇ・・・」」」」
クルッ ジィーーー
ひぇっ、一斉にこっちを見るんじゃない。儂はもう作らんぞ。儂だって腹減ってるんだいい加減喰いたい。
コルディが作ってくれたのはオーソドックスなスープと何かの肉を焼いた物とマリネっぽい物だった。美味しいんだけど何かが物足りないような。特にスープは味がぼやけているというかなんというか。なんだろう?
「コルディ、このスープの味付けってさ何?」
「この国は基本塩と胡椒の味付けだな」
胡椒?胡椒入ってるのこれ、その割には・・・って丸っと粒のままかーい!!
「コルディ・・・1ついいかな?」
「ん?なんだ」
「胡椒はね、丸ごと実を入れるんじゃなくてミルで引いて粉状で使うんだ・・・」
「なん・・・だと・・・・」
キッチンに戻り乾燥した胡椒のみとミルが無かったのですり鉢とスリコギを持ってテーブルに戻る。
「見ててね?」
すり鉢に実を入れて ゴリゴリゴリゴリとすりつぶしていく。
ミルほどの細かな粉とはいかないけど粗挽きって事で。
「ミルがないからちょっと荒いけど。ほら匂い嗅いでみて。
その後で少しだけスープに入れてごらん」
ってそんなに顔を近づけたら・・・
「ふぇっくしょい!」
まぁお決まりだよな。
「近づきすぎだ・・・」
「おせぇよ・・・」
「入れすぎるなよ、本当に少量でいいんだからな」
「解った」
コルディは恐る恐るとスプーンの先にチョイと胡椒を付けスープへ落した。
くるくると混ぜた後に一口。さぁどうだ!
「これは! 味が引き締まった!うむ、旨いな」
他の料理人達もスプーンでマネをして味わい完成を上げている。
「肉や魚、ドレッシングにもこうやって粉状で使うとよいよ」
「なるほど、粉にするものだったか」
これでこの国の料理の質が少しあがるんじゃないか。
と満足して儂は素材図鑑と料理本を手にし部屋へ戻った。
読んで下さりありがとうございます。