宰相閣下の意外性②
「そうと決まればさっさと貴殿の・・・
名前で呼んでもよいだろうか?」
「どうぞ?」
「ではマォ殿の処遇なのだが、これを決める為にもまず鑑定を受けて貰いたい。
鑑定結果によって考えていこう。
出来るだけマォ殿の希望に添える様にはしたいと思う」
「解りました、鑑定を受けるにはどうすれば?」
宰相閣下は部下くんに目で合図を送る。
「僭越ながら私が鑑定を行わせていただきます。
こう見えて鑑定スキル持ちなのですよ?」
こう見えてと言われても儂には普通の人にしか見えんので何とも言えない。
「では少々失礼しますね」
そう言って手を握られる。むぅ、すまんねこんなゴツゴツした手で。
ほんのりと手が暖かくなり、その温かさが徐々に全身に広がる。
部下くんの表情が・・・驚いたり困ったりと忙しそうな事になっている。
大丈夫か?何か変な結果でも出たのだろうか。
「はい終わりました。お疲れ様です」
儂よりあんたの方が疲れてそうだが。
「閣下、率直に申し上げますと」
「うむ、なんだ?」
どきどき・・・
「前代未聞で混乱しております!」
えぇぇ、何が前代未聞なんだろうか。
「まず ギフトと呼ばれる称号をお持ちなのですが
その称号が おかん となっております。おかんとは何でしょうか?」
「薬缶の一種であろうか?いや薬缶がギフトでは意味が解らぬな」
称号おかん・・・なんだろうか心当たりが無くはない・・・
ゲームを始めとする色々な所で最終的にはおかんと呼ばれたしな。
というか、ここでもおかんか。称号がおかん・・・なんか微妙じゃね?
「おかん と言うのはですね。母と言う言葉の方言ですね」
「なるほど?そのおかんの詳細は見えなかったのか」
「残念ながら見えませんでした。
そして魔法の適正は全属性ですがすべてランクⅠでした」
魔法にはランクがあってⅠ~Ⅴまでに分かれるそうなんだがⅠは最下位らしい。
「全属性がまず稀なのにランクはⅠとな!確かにこれは前代未聞・・・」
つまり多くの人は1~2つの属性を持ち、3つあれば上々。
4つ以上だと王城務めの上位魔法職に付けるというか強制的にそうなるらしい。
そして4つ以上の属性持ちはほぼすべての人がランクⅢ以上だそうな。
このランクが高ければ高いほど高度な魔法が使えると言う事らしいんだが。
そう言われてもなぁ。元々魔力も魔法も存在しない世界から来てる訳だし。
「尚且つ魔力量は測定不能です」
「それは魔力が無いと言う事か?」
「いえ、莫大過ぎて測定不能と言う事です」
マジか。そないに魔力量あるのか。儂に?
「魔力と言うのは体に流れる血液と同じで誰しもに存在します。
量の多い少ないの差はありますが。しかし測定不能な量は私も初めてです」
「でもランクはⅠなんだよね?」
「Ⅰですね」
「ごめん、訳がわからん」
「大丈夫です、私にも解りかねます!」
「私にも解らんな」
「でですね」
まだ何かあるのか。
「固有スキルを持ってらっしゃるのですが
それが・・・」
部下の人がそっと閣下の耳を塞ぐ。
「タマ潰し」
ぶほっ 盛大に吹いて咽た。なんで固有スキルがそれ?
確かに若い頃、凄く若い頃に若気の至りで潰した事はあったけども!
「心当たりはございますか?」
今の反応で察したよな?察してそれ聞くか。いい趣味してんな。
「無きにしも非ず」
幸いにも聞こえてない閣下はキョトンとしている。
「とこんな感じですね」
「自分の事ながらこの鑑定結果で処遇決めれる気がしないんだが?」
「正直私もこんな結果だと思っておらず」
「誰も予測できませんよこれ」
結局は3人で話し合い
全属性持ちと言う事は伏せて表向きは一般的な火と水の属性持ちとする事にした。
2属性持ちならランクⅠもそこそこ居るらしいのでよかった。
勿論陛下にはすべてを報告する事にはなる。ん?、それ駄目じゃね?
クイクイと部下くんの袖を引っ張り耳打ちする。
「陛下にタマ潰しを伝えるのはマズイんじゃないか」
「ご安心ください、そこは旨く濁します」
さすがだ、任せた部下くん。
「やはり市囲で暮らすのは止めておく方がよいな。
しかし城内はマォ殿が好まず・・・」
「閣下 獣騎士団が飼育係を募集してましたよね。
マォ殿の求める環境に少しは近いのでは?」
獣騎士団・飼育員・・・騎獣が居るって事か。その世話係!いいね!
「だがあそこは・・・いやそうだな、まずは見て貰うか。
職が決まれば身分証の発行も出来るしな。」
とそのまま獣騎士団の見学へ向かう事になった。
何故宰相閣下までが付いて来るのか、仕事はいいんだろうか。
徒歩で移動するには少々遠いとの事で乗り物に乗って移動している。
そう乗り物・・・馬とか馬車ではない。
しいて言うならフワフワの毛が生えたダンゴムシ?
鞍は付いているしフワフワの毛に覆われても居るけれど所詮虫は虫。
しかもデカイ。それがカサカサと移動する。気分はナウ〇〇。
その内慣れるのだろうか・・・
宰相閣下は嬉しそうだ。
「やはりたまには外で体を動かさねばな!ハハハッ」
体を動かすなら徒歩の方がと思うがあんな嬉しそうな顔をしているのに言えない。
なお儂は部下くんと一緒に乗っている。
さすがに1人は無理!操縦できる気がせん。
思ったよりも移動速度は早くて10分くらいで獣騎士団の場所に着いた。
正直予想外すぎて言葉が出てこなかった。
獣騎士と言うから騎獣騎士かと思ったのに。世話係ともいってたし。
確かに騎獣も居るけども、乗ってる騎士も獣人だった。
しかも皆身長2m超え。でけぇよ!
「よう親父殿。珍しいなどうした、何か用か?」
親父殿?誰が?部下くん? フルフル首を振っている。違うのか。
ならば宰相閣下? え、耳も尻尾もねぇよな?狼ぽくもないし。
いや目付きは鋭いから狼ぽいか?
「騎士団長のリオルだ。我が息子でもある」
「ん?こちらの方は・・・黒髪黒目。なるほど噂の招き人殿か。
お初にお目にかかる。獣騎士団団長リオル・ハーウェイだ」
「初めまして。マォです。どうぞよろしく?」
周囲の騎士達から視線を感じる。
どうせまたババァが何しに来たとか思われているんだろうか。
別に気にしないからいいけど。連呼されたらどつくだけだし。
「リオル、世話係の求人を出していただろう。決まったのか」
「いや、まだだ。俺達の見た目もだが騎獣に驚かれてなかなか決まらん」
確かにケモ耳と尻尾だけのタイプではない、二足歩行の動物って感じだ。
それはそれでかっこいいと思うんだがな。では騎獣が問題なのか。
「騎獣は何処におるんじゃろか」
「見て見るか?」
「見てみたいね」
「こっちだ」
案内された獣舎?に居たのは大型蛇サーペントらしきものと大型蜘蛛タランチュラらしきものともう1種類はなんだろう・・・モ〇ラ? 蛾か。
それらが複数ずつ居る。そりゃ普通の人なら怖がるかも。
そんくらい怖がってたんじゃ畑仕事は出来んので儂は平気。
まぁデカイから慣れるまでは大変・・・じゃなかった。すぐ慣れた。
怖くないよ怖がらないでねと言わんばかりに精一杯可愛い表情を作ってネームの木札を手にしている。健気じゃね?これで怖がったら失礼だし可愛そうじゃねぇか。
「どうだ、大丈夫そうか?」
「世話係との事ですが何をすればいいのかが知りたいかな」
「獣舎の掃除と餌の準備とこいつ等の遊び相手だ」
へぇ、遊び相手ね。 ・・・ 遊び相手?!
「遊ぶんですか?」
「俺達だって仕事の休みにはのんびりしたり遊んだりするだろ」
「ああ確かに。なるほど。了解しました、餌は何を?」
「基本雑食ではあるが此処好みがある。詳しくはそこの引継ぎ手帳に」
「どれどれ、少々拝見」
なになに、新鮮な大根が好き 採れたてのトマトが好き 朝採り胡瓜が好き ・・・
ほぼ菜食じゃないか!本当に? 前任者の主観はいってないかこれ。
などと思っている間に 宰相閣下は蛇と戯れていた。なにしてんだ閣下。
しかも手慣れてるな。
「ハハハ 久しぶりだな。なかなか来れずに悪かった。わかったわかった。
次は必ず生肉を持って来るお前は鳥が好きだったかな」
「「「 ・・・ 」」」
「閣下に聞いた方が早くね?」
「なにしてんだ親父殿は・・・」
「あのような閣下は初めて見ました」
「まぁ生き物との触れ合いって癒しだよな、うん」
「そうだな・・・」
「ではこちらはこちらで話を纏めてしまいましょう」
部下くん優秀。閣下はあのままにしておこう。楽しそうだし。
こうして儂の職場が決まった。
「住む場所ですがどういたしましょうね」
「あ、それなら儂ここの上がいい」
「ここの上ですか?」
「はぁ?! ここの上って獣舎の屋根裏か!」
「下にあの子達が居るなら安心安全だし?」
「しかし台所や風呂が無い」
「うーん、そうですね解りました。
でしたらいっその事獣舎の一部を改装してマォ殿の住いを作りましょう。
陛下も反対派しないでしょうし。いえ事後報告にしましょうか」
事後報告でいいのか?
「マォ殿、陛下に先に報告して御覧なさい。
それこそ離宮並みの住いが出来上がってしまいますよ」
離宮・・・
「うげぇ 勘弁してくれ・・・っと失礼」
「うげぇって仮にも女だろう・・・」
「仕方ないだろ、咄嗟に出たんだから」
「だから普通女がとっさに うげぇとか言わねぇよ」
「えー・・・」
「なるほど、ここにマォ殿の住いをね、陛下には事後報告か。
よし!では私の仮眠部屋も一緒に作ってくれ」
「「「 はいぃぃぃ?! 」」」
「休日にここで過ごすにはよいだろう、頼んだよダルク」
「はい閣下承知いたしました」
部下くんダルクと言う名だったのか、そして承知するのか・・・
読んで下さりありがとうございます。