オーガ
「 ・・・ 」
今儂の目の前にはオーガがいる。
緑の巨人だからたぶんオーガで合っていると思うんだ。
たしかにもう少しでケイルの町に近づくんだがね? まさかこんな場所で遭遇するとは思わないじゃん・・・
ケイルの町付近まで後1時間。
休憩がてら町に寄るかどうするかの相談をする事になった。
話し合いの前にちょっと所用を足しに茂みの中に行った訳だよ。手頃な場所を見つけて用を足そうとしゃがんだらね?先客が居て冒頭の状態な訳だ・・・
お互いに半尻でしゃがんでいるので叫ぶことも出来ずにいる。
少し考えるそぶりを見せてオーガがゼスチャーを始めた。
自分 あっち お前 そっち 親指立ててグッ
なるほど、何事も無かったことにしてお互い立ち去ろうと。OK!
儂も親指立ててグッとしておいた。
オーガと並んで用を足すとか・・・初体験だよ!
用が済んだのでもとの場所に戻ればアルとルークが考え込んでいる。
「どした?何かあったん?」
「いや、先程崖崩れの場所を見て来たんだがな。
復旧作業は始まっても居ないし討伐隊も募集は掛かっているが
冒険者達の反応がイマイチなんだよ」
「他の町から集まった冒険者達も反応がイマイチなんだよなぁ」
「キエルで話を聞いた時には冒険者達も乗り気だった気がしたんだがな」
「このままここで考えてもどうにもならん。俺が町で話を聞いてこよう」
アルが聞き込みに出掛ける事になったのでその間儂等は待機。
しかしなにがどうなってんだ、復旧作業も討伐も始まってないとか。
町の人々の生活とか大丈夫なんかな。
儂も台風のせいで国道が土砂崩れ起こして陸の孤島になった経験があるけどさ、物流1週間止まってえらいめにあった事があるんよなぁ。
* * * * *
こちら町の中にやって来たアルノー。
まずは冒険者ギルドに向かう事にした。冒険者やハンターがどうなっているのかを確認する為である。
運が良ければまだ顔見知りの者が居るかもしれない。顔見知りの者が居ればより詳しい情報も得られるだろうと思ったのだ。
「お前・・・アルノーか?」
ギルドの建物に入ればさっそく声を掛けてくる人物がいた。
見覚えはあるような気もするがなにせ20年以上前の事だ。
誰だったか思い出せずにいる。
「思い出せなくても無理ないか、俺だよ。よく川で一緒に遊んでたバズだ」
しばし考えて思い出す、川でずぶ濡れになりよく一緒に母に怒られていた・・・
「バズか!」
そう解れば面影はあるような気がしなくもない。
それに・・・おたがいすでにいい歳のおっさんである。
「久しぶりだな、今は王城で騎士になったんじゃないのか?」
「ああ、騎士は引退したんだ。故郷に戻って母や仲間を弔おうと思ってな」
「あー・・・」
「土砂崩れで通行止めと聞いたが復旧のメドはたっていないのか?」
「それがなぁ。大きな声じゃ言えないんだがな」
どうやらどこぞの阿呆貴族が森で狩りをしている最中に出くわしたオーガに手を出したらしい。しかもそのオーガは子育て中だったようで傷付けられたのは子供のオーガだったと言うのだ。
母オーガが貴族を追いかけようとして足を滑らせたのがキッカケとなり土砂崩れが起きたのだそうだ。
この町周辺のオーガは比較的温厚な種なので町の住人であれば適度な距離を取り無暗に驚かせないようにし上手く共存している。
我が子が傷付けられたら、そりゃ怒ってあたりまえだと思うアルノーである。
崖崩れが起きた場所は元々が地盤が緩んでいたのだろう、運が悪かったのだろうな。
「そんなもんだから討伐と言ってもその貴族が騒いでるだけで
俺達としてはオーガの怒りが収まるまでそっとしておいてやりたいんだがなぁ」
さっさとその貴族を追い出せばオーガだって少しは気が収まるかもしれない。
が、住人達が貴族を追い出せる訳もなく・・・
(まいったなこれ。おかんが知ったら激怒しそうじゃないか・・・)
「バズ 町としては今後どうするつもりなんだ?」
「建前として冒険者の募集は掛けている。
集まった冒険者やハンターには事情を話して納得の上で待機して貰っている。
貴族の対応は町長が頑張っているところだ」
「そうか。解った、俺の方でも少し考えてみよう」
「すまんな」
「いや、俺も早く故郷に帰りたいからな」
情報を得たのでアルノーは町を後にした。
どうするか、ありのままを話すべきか。だがおかんは激怒しそうだし。
そうなったら俺は止める自信がないと溜息をつくのであった。
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