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王妃殿下の愚痴

目を覚ますと部屋の隅に待機していた侍女らしき人が近寄って来た。


「お加減はいかがでしょうか?ぬるめの白湯の用意が有ります。

 お飲みになられますか?」


確かに喉が渇いた気もするし、先程の様に吐血しても困るので貰う事にした。

喉に染みるかと思ったがそんな事は無かった。

おや?という表情が出ていたのだろう。


「治癒術を施されたと伺っております。いくぶんか痛みも抑えられているかと」


いくぶんか、どころか喉の痛みはまったく感じない。

治癒術、ヒールだろうか。魔法が存在すると言う事だろう。凄いな魔法。

ゲームや小説、映画。空想の物だと思っていた物が存在する世界か。

儂にも使えたりは・・・しないんだろうなぁ。


「体に優しい食事の用意もございますが召し上がられますか?」


そう言えば、どのくらいの時間が経ったのかは解らないが腹も減った気がする。

元々が畑仕事の帰りだった訳だしな?

・・・・

ちょっと待て。畑仕事の帰りなら・・・作業着だったはず。

さすがにモンペとかじゃないけど、ツナギに長靴、しかも泥だらけ・・・うわぁ。

少しばかり遠い目になったと思う。


「いかがなされました?何か違和感や痛みでもございましたか?」


「あ、いえ。そうではなく。

 私が身に着けていた衣服などはどうなったかなと思いまして」


「左様でしたか。それでしたらば。

 修復を試みたのですが何分(なにぶん)素材も未知の物ですし、穴も大き過ぎておりまして。

 血痕も完全には落とすごとが出来ず。申し訳ありませんが処分するしか・・・」


まぁそうだよね、きっと貫通しただろう刺し傷の穴に血痕。儂でも捨てる。

となると、着る物が無い気がする。さて困った。


「代わりの衣装を用意してございます。確認なさいますか?」


代わりをご用意・・・・は有難いけど嫌な予感しかしない。

何故ならここは王城。いわゆる庶民な服なんてきっと無いだろう。

だがまずは見ない事には始まらない。

もしかしたら儂の着ていた衣服で察してくれたかも。


「見て見たいですね」


「ではご案内いたします」


そっと支えてベットから抜け出るのを手伝ってくれた。

歩くとまだ傷が引き攣れる感覚があるが痛みはさほど無い。

案内されたクローゼットを開けば


「うげっ・・・」


こんな声を出して申し訳ないとは思う、思うが出てしまったものはどうしようもない。

ハハハ、王城に居るような人達に庶民感覚を察してとか無理だよなぁ。

ドレスなんだよ、ドレズがズラーと並んでいるのだ。乾いた笑いが出てしまう。

確かに西洋の王朝時代だと初老の人でもフリフリレースとかリボン付いてたりのドレスも着ていただろう。もしかしたらピンクのドレスだって着ていたかもしれない。

だがしかし、儂は無理。絶対無理。背は高い方だし日焼けもしてるし普段からズボンしか履かないし。


「お気に召しませんか?」


侍女は不安げな表情になっている。

それはそうだろう、うげっと声を出したきり固まってしまっているのだから。


「あ、いえその。

 非常に申し訳ないのですが・・・

 ドレスと言う物に縁が無い生活をしておりましたので。

 出来れば、庭師とか農夫とか平民が着るようなズボンがありがたいのですが・・・」


「ズボンでございますか・・・」


「スカートと言う物自体が学生の頃でしか履いた事もなくてですね・・・」


「左様でございましたか。

 では少々衣装部へ相談するのでお時間をいただいても?」


「あ、靴も出来れば踵が高くない物があると有難いです」


「承知いたしました」


結果、着替え馬見つかるまで再びベットの中で過ごすことになる。

さすがにこのネグリジェ風の寝着ではおちおち座る気にもなれなかった。

ついでに食事もお願いした、さすがに何か胃に入れないとマズイ気がする。

喰わないと回復力も落ちるし。


と思ったのに・・・

今度は王妃殿下が目の前に座っている。

何事だろうかと思えばまず謝罪された。


「本当に、本当にごめんなさいね。

 謝って済む事ではないと解ってはいるの。それでも謝らせて頂戴。

 身勝手にも貴方をこの世界、この国に招いてしまった事もだけど

 老婆だのババァだのとあの愚息・・・もう1発殴っておくべきだったかしら」


物静かな落ち着いた女性のイメージだった王妃殿下が・・・今なんと?

殴るとか言ったような・・・


「妃殿下。お言葉使いが・・・」


「あらやだ、ごめんなさいね。ホホホホホ

 でもねぇ、貴方をそんな言い方するなら私だって老婆と言う事になるのよ。

 たとえ幾つであっても、女性にそれを言うのは許せないわよ。

 ねぇ侍女長あなたもそう思わなくて?」


え? そこで侍女長に振る? 


「左様でございますね、

 あの言葉はすべての女性を敵に回す言葉と言っても過言ではございません!」


侍女長も同じような事言われた経験があるのだろうか・・・

言葉に力が入って居るような・・・


「育て方を間違えたのかしらねぇ。

 もっと女性に対するマナーを叩きこむべきだったわぁ。

 そもそもね、聞いて下さる?」


とここから怒涛の愚痴があふれ出た。

他の子供達は素直で優しく聡明なのに第二王子だけが異色なのだと。

物語や史実書、古史の世界にあこがれ妄想癖があるだの

自分が特別だと思い込み努力を疎かにし兄弟姉妹を見下すだの

選民意識が強いのか民を大切にせず臣下も大事にしていない

自分に耳障りの良い言葉しか聞き入れない等々

それは確かに愚痴を言いたくもなるだろうなと思い相槌を打ちながら聞いていたのだが

最後に聞いた言葉でつい素が出てしまった。


「自分は前世の記憶を持って凄いのだから聖女が自分の妻になって当たり前だ

 なんて・・・」


「馬鹿じゃね?頭沸いてる?」


言った後でマズイとは思ったが後の祭りである。

ピシッと王妃殿下の動きが止まった。

これはさすがに不敬とか言われるんだろうか。


「やっぱり?やっぱりそう思うわよね?よかったわぁ

 ほら使用人達は皆思っても口に出来ないでしょう?

 私だけがそう思ってイライラしてるだけなのかと不安でしたのよ?

 共感してくれる人がいて嬉しいわぁ

 本当に我が子なのかと疑いたくなるくらいなのよ?

 見た目だけなら王家の特徴があるのだけれどもね?

 性格や物の考え方は先王様や王太后様、陛下とも似ても居付かないし。

 勿論私とも似て無いわよぉ?

 口先だけで威張り散らして分が悪くなるとすぐに側近の後ろに隠れるのよ

 私も陛下も何度も注意しているのだけど駄目なのよねぇ。

 そして今回の件でしょう?これはもう無理だと思ったのよ!」


な、なるほど。

取り合えず儂が苦手と言うか嫌いな部類の人間なんだと言うのは理解した。

そして王妃殿下のうっぷんが凄いのも理解した。


「王妃殿下、1つお願いがあるのですが良いでしょうか」


「なにかしら、私で叶えられることであればよいのだけど」


「その愚の骨頂たる第二王子に直接文句を言いたいのです。

 なんといいますか、こうもやっと感がありまして?」


「わかる!わかるわぁ。私も言い足りないもの。

 解ったわ!私から陛下にお願いしておくわね。

 でも、また貴方に暴言を吐くかもしれないから心配だわ」


「大丈夫です、我慢できなければどつき倒すんで!」


「じゃぁ大丈夫ね!」


何故かすこぶるご機嫌になって帰っていったけど・・・

よほどストレス溜まってたんだろうか。

そして どつく は通じるんだ・・・



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