悩める国王
私はエルフィン・ド・ウォール 今年で37になる。
まだ若いつもりでは居るが最近頭頂部が涼し気になってきた気がしなくもない。
すべては愚息である第二王子のせいではあるのだが。
数日前の事。第二王子のやらかし報告を受け駆けつけてみれば
ベットに寝かされた血の気の無い顔色の女性が居た。
付いて来た侍女長に確認されれば治療とも呼べないような処置しか施されておらず
侍従に治癒師を連れてこさせれば、治癒術が掛りにくいと言う。
ならばと医師も連れて来させ双方の治療を試みる。
ようやく一安心出来る状態までになった時には力が抜けて腰から崩れ落ちた。
『 王たる者いかなる時でも冷静に対応せよ 』
母上の言葉ではあるが、この状態は無理ですよ母上。
何処たるかも解らぬ世界に召喚された瞬間刺されて倒れる
それはいか程の恐怖だったろうか。
もしかしたら恐怖を感じる間もなかったかもしれない。
はぁ・・・
思わず溜息がでてしまうが、さすがに今は誰も咎めない。
先程魔導士長から上がった報告によれば次に召喚術が発動可能となるのは200年後になるだろうとの事。
長寿の種族であれば存命かもしれないがその可能性は低いと考えていいだろう。
さて、今後の対応をどうしたらよいものか。
考えながらその女性が目を覚ますまで付き添う事にした。
宰相や侍従に止められはしたがこれは王としてではない父としてそうしたいのだと無理に納得して貰った。この不始末は親が責任を取らねばならん。が一個人としてまずは詫びたかった。
女性が目を覚ました後 謝罪と説明を簡単にさせてもらった。混乱や怒号も無く
1つ願いがあると言う。可能な事ならばと了承すれば
「目を閉じて両手で耳を塞いで100まで数えて下さいませ」
と言うではないか。怪訝に思いながらも言われたと通りに目を閉じ耳を塞ぐ。
っざけんじゃねぇぞこのクソガキがぁぁぁぁ!
ビクッと肩が揺れた。もしかしたら尻も少しは浮いたかもしれない。
しかも耳を塞いだところで丸聴こえなのだが。
人払いをしておいてよかったと思った。
息継ぎもせずに叫びきったその女性はニコリと微笑み
「ふぅ、少しだけスッキリしました。ケホッ ゴホゴホ」
吐血した・・・
「だ、大丈夫か! 誰か! 医師を!治癒師を呼べ!!」
「大丈夫ですよこれくら・・・ ダバァー」
「うぉあっ・・・ タオル!タオルを!!」
大丈夫ではないだろう!
落ち着いて下さい でもないだろう!
待て!待ってくれ!そこに突っ伏すな!血だまりに顔をうずめるな!
誰か・・・誰か早く来てくれー!
その後駆けつけた治癒師と医師の診断で
乾燥した喉の状態で大声を上げ叫んだので喉の血管が切れたのだろうとの報告があった。
これは私の失敗であろう。寝起きだから喉が渇いていてあたりまえだ。先に水を勧めるべきだった。
次に間を覚ました時はまず水だな、次に温かい飲み物か軽い食事を勧めよう。
そう考えながら執務室へ戻り一息つく。
それにしてもあの第二王子はどうすべきか、処遇に頭を悩ませる。
アレはいつからあのような分別の無いおかしな思考をするようになったのか。
兄弟姉妹皆同じように分け隔てなく育てたはずだが・・・
「陛下!アレはもう駄目です私には理解出来ません!」
珍しく王妃が声を荒げて入室してきた。
どうしたのかと問えば
「僕は兄上達と違って素晴らしい知識と経験がある
前世の記憶があるんだとか訳の分からぬ事を言い出しましたのよ!
しかも僕の為にボンキュッボンの聖女は必ず現れるとこれまた訳の分からぬ事を言い出しますし、
自分の召喚で具現した女性に関しては・・・口にしたくありませんわ。
思わず私・・・扇を投げつけてしまいました!」
扇を・・・投げつけ・・・それはまた王妃らしくもないな。
それだけ怒りが収まらなかったという事なのだろう。
美しかった王妃の髪もアレのせいで白い物がチラホラ見える様になってしまった。
しかし前世とは・・・古史にでも影響されたのだろうか。
確かに340年前には前世の記憶を持つ者が現れたと言うがその者は幼き頃より大人びた発言も多かったと記されている。
アレにその気配はなかったが・・・
「そうそう、件の女性ですが先程私もお会いしてきましたの。
私、あの方とは仲良くできそうですわ、と言うより仲良くなりたいですわ」
ほう、珍しい事もあったものだ。
そなた、あまり女性との相性はよくないだろう。
嫉妬心が強すぎるとも言うが・・・ゴホンッ
「謝罪の時についつい第二王子の愚痴を洩らしてしまって。
そうしたらうんうんと頷きながら理解してくださったの。
侍女たちの手前長くは話せませんでしたが
きっと私達共感できる部分が多い気がしますのよ」
王妃よ・・・ そんなに愚痴が溜まっていたのか。
まだ伏せっておる怪我人に愚痴をこぼすほどだったのか。
これはじっくりと聞いてやったほうがよいのかもしれんな。
「ところで王妃。
アレの処遇をどうしたものかと悩んで居るのだが」
「困りましたわね。ずっとこのまま自室に軟禁とも行きませんし。
そう言えば彼女が
やはり一度会って直接文句を言いたい とおっしゃってましたわ」
「気持ちは解らなくもないが、正直アレがまた暴言でも吐いたらと思うと」
「私もそう言いましたのよ? そうしたら彼女・・・
その時はどつくから大丈夫 と朗らかに・・・
どつくとは何でしょう?陛下御存じで?」
「いや、私もわからんな・・・」
ならばと護衛騎士を付けた上での対面を許可することにした。
勿論 私と王妃も少し離れた場所から見ておくつもりだ。
なぜなら どつく の正体が知りたい。
読んで下さりありがとうございます。