何故滝をイメージした
昼飯を終えて目的の朽木や倒木も手に入れ、予定外の猪肉も手に入れ獣舎に戻って来た訳なんだがね。何故か訓練中の騎士達の視線が儂に集まっている。何故だろうか、木を担いでるからか?それともどっか汚れてるのかと一応自分の服を確認するが大丈夫そうだ。
「おかん、別に服が汚れてるとかじゃないから」
アルにそう言われて安心した。じゃぁなんで儂に視線が集まってんだろうか。
そう思っているとコルディが慌てたようにこちらに向かってくる、モファームに乗って。
「マォ!ボアを狩って来たって?!処理は任せろ!」
ん? 処理って調理するって事か?んじゃ自分の分以外は任せようか。
なんせ大物だったから肉の量はたんまりとあるしな。
「んじゃコルディ任せた、後ろのモファームに積んであるからよろしく」
「おう、任せとけ!って ぅおっ、もお捌いてあるじゃねぇか!」
何を驚いてんだか、早めに捌く方がいいだろうに。
ジャックが何やら説明している。コルディがマジか!と叫んでいる。
意外と大声だなうるさいよコルディ。
「マォ、お前が捌いたのか嘘だろ。モンスターだぞこれ」
「何言ってんだ、ちょっと大き目の猪だろこれ」
ん?・・・ モンスター? いやどっからどうみても猪だったような?
ちょっと目付きが悪くて牙が長かったけど猪・・・だよな?
「おかん、ボアはモンスターだ。まさか知らなかったのか」
「んむ、知らん! 見た目が猪っぽかったし!捌けばどれもただの肉だ!」
なんだその(えー・・・)みたいな目は。
いちいち気にしてたら捌けんこなるだろ。
「普通の女性なら悲鳴を上げるんだがな、実はマォはおと・・・」モゴモゴ
アルが慌ててコルディの口を押えた。
なんか言いかけたよなコルディ。なんだって?
「おかん、こいつの事は気にしなくていいから獣舎の床材入れ替えてしまおう」
確かにそうだな。早めに終わらせないと日が暮れてしまうしな。
ジャックとアルで倒木を運び込み止まり木用に組み立てて貰う。
閣下とダルクくんには朽木にトンネルを開けて貰う作業をしてもらってる。
儂は木を叩き割ってウッドチップとおがくずを作っている。出来上がったウッドチップとおがくずは風魔法で乾燥させておく。適度な湿気は必要だけど湿気が多すぎるとすぐカビるからね。
そして作り終えて気が付いた。この作業、獣舎の中でやった方がよかったんじゃね?運ぶのが大変じゃないか・・・
「運ぶなら皆にやらせればいい」
リオルの一声で訓練中の騎士たちが集まり運んでくれたのですぐに終わった。訓練中にすまないね。
そうして夕方にはなんとか仕上がり、どっかのペットショップの飼育ケースの様な内装が出来た。これで少しは過ごしやすくなったと思う。
「凄いな、まったく別物の獣舎みたいだ」
「あの子達は騎獣、つまり魔獣なんだよね?だからこの程度でいいだろうけどさ。
これがペットとして飼育される蛇や蜘蛛になってくると温度管理に湿度管理。
大変なんだぜ?」
「なるほどなぁ」
「そうか一般の蛇ならペットとて飼えるのか。そうか、飼えればいつでも・・・」
「はい、却下ですよ閣下。どうせあなたは世話もろくに出来ないんですからね!
私やマォ殿の手間を増やさないでくださいね!」
いい事を思いついた!みたいな顔をして飼う気になってた閣下の意見を速攻で却下したダルクくん。気持ちは解る。儂もこれ以上めんどうな事増えるの嫌だし。
本日の作業はこれにて終了!
なんとなく達成感があるし体も動かしたから今日はぐっすりと眠れそうだと満足していたのに。
なにやら外が騒がしい。何かあったんだろうか。
「おかんは裏口から家の中へ。会わない方がいい」
気にはなったがアルの表情が真剣、いや少し強張っているので素直に家の中に入った。後から説明してくれるだろうし。
あれ、閣下とダルクくんも裏口から入って来た。何がどうした?
「少々めんどうな事になりましたね閣下」
「そうだな。まったくめんどくさい」
「どっかからクレーム、難癖つけられたりしてんの?」
「まぁそうですねぇ」
話を聞いてみれば虫嫌いのおぼっちゃん騎士がわめいているらしく、そこそこ有力な貴族おぼっちゃんなので対応に困っているんだそうな。
嫌いなものはしょうがないと思う、思うが何故に嫌いなものが居る場所に来るのだろうか。近寄らずに気にせず関わらずでおればいいと思うのだが。
「そのぼっちゃん騎士の親ってさ、城務めしちょらんの?」
「確か財務の事務次官殿でしたか」
予想以上にお偉いさんだった。
その人に言い聞かせて貰うとかは・・・そこまで子供じゃないか。
もしかしてその人も虫嫌いだったりとか?
「事務次官ご本人は至って真面目で人柄の良い方ですよ。
虫嫌いでもありませんし、公私は分けておられます。
念の為に言っておきますが」
なるほど。親と子が同じ性格とか思考って訳でもないしなぁ。
事務次官さんも苦労してるのかもな、案外。
「虫などこの世からすべて滅んでしまえばいいんだ!」
突如聞こえた叫び声。同時に家もとい獣舎が炎に包まれた。
は? 意味がわからん。
「これはマズイです、閣下 マォ殿 逃げましょう」
「え?やだよ。火消さないと獣舎燃えちまうじゃないか!」
とは言ったが儂のランクⅠ魔法でどこまで消せるものなのか。
考えるのは後にしてまずはやらないと火の回りが早い。
魔法はイメージが大事だと聞いたので儂が思い浮かべたのは・・・
白糸の滝だった。ちょ、これじゃない!水量が!!
次に思い浮かべたのがナイアガラの滝だった。
ドドドッと轟音と共に地響きがしてドシャーっと水流が現れた。
例えるならゲリラ豪雨かバケツの水をぶちまけたのかって感じだろうか。
お陰で炎は消え去ったし獣舎も少し焦げた程度で済んだ。済んだけども・・・
敷き詰めたばかりのウッドチップとおがくずが流れ去った・・・
儂の今日の労力がぁぁぁぁ。いや滝イメージしたの儂だけども。
「マォ殿、もう少し手加減というものをだな・・・」
「わぁー・・・地面ぬかるんでますよ、これ後始末が大変そうだなぁ」
儂だってここまでになるとは思わなかった。
落ち着いてみれば何故滝をイメージしたのか。それこそスコールやゲリラ豪雨でも良かったんじゃないかと思ったが後の祭りである。
「な、なんだこの水は!何処から湧いたんだ!僕の邪魔をするな!」
まだわめいている。押し流されてないのか残念。
獣人達は魔法が使えない。だからこそ魔法で炎を打ち放ったんだろう。
中に人が居たらとか考えてもいないんだろう、むかつく。
「儂ちょっとどついてくるわ」
「ま、待てマォ殿。どつくのはいい、止める気はないが手加減をだな」
「手加減要る? 一応相手は日頃から鍛えてる騎士なんだろ?大丈夫じゃね?」
「いやそうとも言えぬ。例のアレ、鎖骨が折れていたぞ」
「・・・
鎖骨って細いから折れやすいし?」
「いやいやいや、頼むから手加減を」
「へいへい・・・」
返事をしながら手のストレッチでパキポキ鳴らす。
ダルク君が後ろを向いて耳を塞いだ。何故に。
閣下も目を閉じて耳を塞いだ。だから何故に。
読んで下さりありがとうございます。




