鶏の名前
閣下の部屋だか家だかは隣接しているのだと思ったら、なんのこたぁない。
渡り廊下挟んだ真横だった。なんでやねん!
思わずダルクくんを睨んだら
「同居となるよりマシでしょう?
必死になだめて説得したんですからね!」
と言われてしまった。確かに同居となれば細君に申し訳が無い。
「閣下に奥様はいませんよ?」
おらんのかい!優良物件だと思うんだがな。
ハッ、まさか人に言えない性癖があるとか・・・
「マォ殿、何か変な誤解をしてます?」
「いや、大丈夫誤解はしてない。たぶん」
まぁね、嗜好なんぞ人其々・・・気にしないでおこう。
と、荷解きを始める。とはいえ荷物量は少ないからすぐ終わりそうだ。
「おかん、これは何処に運べば?」
アルが重い荷物を運んでくれている。さすがは男子、力持ちだ。
「それは二階に運んどいて」
「了解」
二階には寝室兼私室が小さな居間っぽいスペースを挟んで2つある。
儂とアルの部屋になる訳だ。
そして部屋には内窓が付いており、そこから獣舎が見下ろせるようになっているから便利だ。
ベットや収納はすべて作り付けになっているから家具を持ち込む必要もないので助かる。大型家具を二階に運ぶのは重労働なので老体にはきついんだよ。特に膝が。
自分で言っておいてちょっと落ち込んだ。
以前処方してもらった薬のお陰で視力は眼鏡がなくても平気にはなった。
これは本当にありがたいし嬉しい。視界がぼやけてるのは辛いからね。
膝や腰に効く薬もあったりしないかな。確かサプリとかだとコンドロイチンとかグルコサミンがいいって聞いた気がする。コンドロイチンは鳥皮や軟骨にも含まれてるけどグルコサミンは何が原材料なんだろうか。あ、甲殻類だ甲殻類の殻が原材料だから儂飲まないんだった。
鳥皮に軟骨とくれば思い浮かぶのは焼き鳥。今度コルディに軟骨とかあるのか聞いてみよう。
荷解きも終わったので早速獣舎へと行ってみる事にした。
タランチュラっぽいのが2匹 サーペントっぽいのが3匹 モスラっぽいのが2匹 デカイ焼き鳥・・・鶏が1匹。こないだ鶏なんていたっけか。
相変わらず目をキュルルンとして手には名札を持っている。
カカオ・チョコ・クッキー・ビスキュイ・サブレ・モルト・ホップ・ここまではまぁなんとなく解る。犬猫につける人も居たし。でもさ・・・鶏にササミってどうなん?・・・本人(本鳥)意味判ってなさそうだからいいのか?
それにしても・・・
「毎回それ持って挨拶してんの?」
首輪とかにネームタグつけりゃいいだろうに。
「お、片付いたのかマォ殿」
リオルが顔を出した。ちょうどいい聞いてみよう。
「殿いらんよ、マォでいい。
ところで、この子等って首輪とか付けんの?」
「首輪・・・」
「リボンとかでもええだけどさ。
毎回新規メンバーにこうやって名札見せてくれてるけど首輪やリボンに
ネームタグ付ければよくね?」
「なるほど、確かにそうだな。よし何か用意する事にしよう」
「今まで首輪とかリボン無くてよく野良と間違われなかったな」
「ん? いや間違われる事もあるぞ」
「おぉーい!じゃぁ対策考えろよ」
「ハハハ・・・」
ハハハ じゃねぇんだわ!ズボラか?ズボラなのか。それとも忙しくてうっかりしただけなのか?まったく・・・
気を取り直して獣舎内を見て回る。
モルトやホップ・ササミも地面に寝てるのかこれ。止まり木はないのか。
クッキー・ビスキュイ・サブレにしたって流木とか朽木あったほうがいいだろ。
カカオやチョコだって身を隠せる場所欲しいだろうに。
馬や牛と同じ環境にすんなやぁ!
「リオル・・・これさ飼育環境整えてもいいかな?」
「ん?今までずっとこうだったが駄目なのか?」
「駄目というか・・・
自分が戦場でもなく家の中で床で寝ると考えたらリオルはどう思う」
「そりゃ家にいる時くらいはゆっくりベットで眠りたいさ、当たり前だろ」
「だろ?この子達だって同じだよ。
この獣舎はこの子達にとっては家になるんだろ?
だったら環境整えてやらないと疲れも取れんし健康にも悪いと思うが?」
「なるほど、マォは詳しいな」
「いや詳しくはない、専門職じゃないし。ただ飼ってた事があるだけだ。
あ、儂の世界じゃここまでデカいのいねぇからな?」
「なるほど、飼ってたのか。では何を準備すればいい?」
「んー、自分の目で確かめて選びたいから
明日非番の子連れて山に行ってもいいかな?」
「わかった、外出許可は取っておこう。山の位置はわかるのか?」
「この子等に聞きゃわかるだろ」
騎獣達がうんうんと頷いている。慣れてくると可愛いと思えるから不思議だ。
今夜はこのままで我慢してもらい、明日はちゃんと整えるからと騎獣達と別れて家に戻る。と言っても真横だけどな。
「おかんは騎獣が怖くないのか?」
「ん?アルは怖いん?」
「いや怖くはないが。
普通の女性は嫌がるものだがおかんの世界ではそうでもないのか?」
「普通は苦手なんだろうなぁ。
ほら儂僻地にすんでたからさ
山にも近かったし蛇とか虫とかはそこら辺に居たんだよ。
毒を持ってるのは論外だけど、特にきにせんかったなぁ。
子供達が小さい頃は色々と飼ってたし。鶏なんかは今でも・・・
あぁぁぁ、餌ぁぁぁぁ・・・」
また思い出したやんけ。あのクソ王子鶏に襲われて髪の毛むしり取られてしまえ!
「おかん?」
「ああ、すまん。ちょっと飼ってた鶏が餓死してないか心配になっただけ」
アルの眉が八の字に・・・
「イザとなったら地面掘って脱走してるだろうし、大丈夫だと信じておこう」
「夢で餌撒きでもしてみるか」
「!! それいいかも?よし想像しながら寝てみよう」
その後はアルと一緒に夕飯を食べてのんびりした。
TVとかネットの娯楽がないから本を読むか喋るかなんだけど。
正直暇だ・・・ なにか娯楽が欲しいとは思う、が向こうの文化を持ち込むのもどうかと思うし。それなら・・・絵でも描くか?人物画は苦手だけど風景画や動物なら書くのは好きだ。よしそうしよう。
・・・ うん、紙も鉛筆もなかった。明日宰相に貰おう。宰相なら持ってそうじゃし。
寝る前にしっかりとイメージした。
あの僻地の家に居て鶏に餌をやっている儂を。
なのにこんな時に限って見やしねぇ・・・チクショウ。
読んで下さりありがとうございます。