隠し子?いいえ義息子です
翌日宰相閣下改めルーク閣下の元へバナナケーキを届けた。
勿論ダルクくんの分もある。
「くれぐれも!く・れ・ぐ・れ・も!陛下達に言わないように!
言ったら次からダルクくんの分しか用意せんからな!」
「わ、わかった」
念押しした後に陛下達にかりんとうを届ける。
陛下達になんも無しって訳じゃないよ?
白蜜・黒蜜・塩の3種類を用意してある。食べ比べて自分好みを見つけるといいと思うんだ。儂は3種類とも好きだけど。
あくまでもおやつなので量は少なめにしたけどね。
陛下も妃殿下も王太子殿下も喜んでくれた。うん王太子殿下も・・・
おかしい、こうやって政務室で顔を合わせる事はあっても言葉を交わしたことはないんだが。
そもそも儂頻繁に政務室だの執務室だのに入ってるけどいいんだろうか。
まぁそれも引っ越すまでの事だし、気にしないでおこう。
さて用事も済んだし何して過ごそうかと考えながら歩いていると、護衛の騎士くんに話しかけられた。
「マォ殿、少し相談をしたいのですがお時間いただいても良いでしょうか」
なんだろうか。
「いいよ。じゃぁ何処かで座って話そうか」
食堂が近かったので食堂で話を聞く事にした。あそこならお茶も飲めるしな。
コルディにお茶を貰って席に座る。騎士くんにも座るように促す。
お、今日のはほうじ茶だ。旨い。
「で。どうした?」
「マォ殿は近い内に獣騎士団の方へ移動されますよね。
その時自分をこのまま護衛として連れて行ってもらえませんか」
聞けば陛下や閣下の間では儂にこのまま護衛を付けるべきという話が出ているらしい。
いらなくね?と一瞬思ったが、儂に接触を図るお貴族様がおるらしく城内の今は阻止出来ていても獣騎士団に移動すると警備面も手薄になるので心配しているのだとか。
ん~・・・騎獣達も居るし心配いらんと思うんだけどな。
でも任務とかで全員が出払う可能性を考えれば確かに不安な面もあるか。
「こういった言い方は失礼かもしれませんが
マォ殿は亡くなった母を思い出すのですよ。
母は冒険者をしておりましたがなかなかの男勝り・・・ゲフンゲフン
豪快な人でしたので」
なんとなく察した。
「それに体の心配をしていただいたり母と過ごして居る様に思えて。
母に出来なかった孝行の1つとして
このまま護衛をさせていただけると有難いのですが」
まぁ確かに新たな人が護衛につくよりはいいと思う。
時々一緒にお茶を飲んだり、ちょっとした雑談をしたりと最近では懐いて・・・馴染んできた事だし。
最初の頃は儂と陛下や閣下とのやり取りにもオロオロしてたけど今では慣れてきたみたいだし。
「儂の護衛となると今までの様に前線で活躍とかなくなると思うけどええんかね」
「私もそろそろ35になりますし前線は若い者に譲ってもいい年頃かと」
儂からすりゃ35なんてまだまだ若いんだがな。でも平均寿命60って事を考えると体力のピークも過ぎてるって事か。
「儂はいいけど、条件が1つあるかな。
人前はしゃーないけど他に人が居ない時は砕けた喋り方にして欲しい。
母親代わりなんだろ?儂も息子が出来たと思って接するからさ」
「よろしいので?
でしたら・・・他に人が居ない時に・・・
母さんと呼んでも?・・・いやさすがにそれは厚かましいか」
「ん~、儂自分の子達にもお母さんとか呼ばれた事ないんだわ。
だから母さんとか言われてもピンとこん、いつもおかんと呼ばれてたから」
「薬缶?」
「違うね・・・おかん。方言でお母さんて意味だよ」
「なるほど」
宰相といいダルクくんといい何故に薬缶になるかな。
「だからおかんと呼ばれるならいいかな」
「では・・・ おかん。これからもよろしく。
・・・
なんだか照れますね」
照れるな、こっちまで照れるだろうが。
「あ、儂等で勝手に納得し合ってるけどちゃんと上官や宰相閣下にも話通してね」
「そこは抜かりなくすでに許可は貰ってありますよ」
ふふっと笑う騎士くん、根回し早いな。そう言えば・・・
「ところで儂息子になる騎士くんの名前知らんのだけど・・・」
「あれ、言ってませんでしたか。アルノーと言います」
「アルノー・・・んじゃアルでもいいか」
「ふふっ 母もそう呼んでいましたので光栄ですね」
こんな感じで正式な専属護衛騎士と息子が同時に出来た。
息子が出来たと思うとは言った、言ったさ。
他の貴族への抑止力になるからいっそ養子縁組したらどうかと陛下が言い出してね?
アルもアルですでに両親は他界してるから自分はそれでもいいとか言い出すし
閣下は閣下でその手があったかとなにやらブツブツ言ってるし。
まさかこっちで騎士なんて立派な息子が出来るとは思わんかった。
そしてその夜また夢を見た。
「おかん何しちょん?! 隠し子おったん?」
「おらんし!隠し子ちゃうわ!」
「ばぁば、隠し子ってなぁに?」
「だから隠し子じゃないってば!」
ケラケラ笑う娘と孫。
「うちにとってはお兄が出来たって事かぁ。まぁ仲良うやりんさい」
なんでこんな夢見たかね?・・・夢で会えるだけマシだと思う事にする。
アルにこの夢の話をしたら
「それはなんとも不思議ですね
私も夢で見知らぬ女性と少女におかんを宜しくと言われたんですよ」
と言われた。そっちにも行ったんかーい!
というか本当に不思議な夢だ、まさか繋がってるとか? うん、無いな。
いや、次に夢で会ったら聞いてみよう。鶏がどうなったかを。
気になるんだよ、餌が。餓死してなきゃいいけどって。
そして住まいも完成し引っ越しの日がやってきた。
コルディは寂しくなるからちょくちょく遊びに来いと鍋一式をくれた。
王妃殿下はドレスを押し付けて来そうになったので丁重にお断りした。
陛下は儂専用にと小型のモファームをくれた。なぜか頭にリボンが乗せてある。いらなくね?取ろうとしたらイヤイヤされた。気に入っとんのかーい、じゃあそのままで。違和感あるけど。
珍しく閣下が居ないな、仕事でも忙しいんだろうか。
世話になった侍女や侍従達に挨拶をして出発。
新居に到着しここが我が家かと中へ入ったら閣下が座ってお茶飲んでたよね。
なにしてんすかね?
「なんでおるん」
「うむ、私も今日休みを取って引っ越して来た」
引っ越して来たって仮眠室じゃなかったけか。
「閣下ときたら城下の屋敷よりこちらの方が近いからと荷物運び込んだんですよ。
まったく急に言い出すからあわてて改装する事になって。
間に合ってよかったですよ、間に合わなかったまた・・・なんでもありません」
「と言う訳でよろしく頼む」
と言う訳でってどういう訳だろうか、そして宜しく頼むって何をだろうか。
「閣下は仕事は出来る方ですが私生活は手を抜く所謂ズボラです。
お手数ですが時々で構いませんので食事の世話をお願いできれば。
手間賃はお支払いしますので、閣下の給料から」
なるほど・・・意外だった。私生活も几帳面なイメージがあったのに。
まぁ別に世話を焼くのは苦ではない。
ゲームとかでも仲間内には世話焼きだったと思う。
だからこそおかんと皆から呼ばれたのだが。たまに兄貴とかも言われたけど。
さすがにここでは兄貴はないだろうと思う、思いたい。
なにはともあれ獣騎士団の世話係として騎獣達との生活が始まった。
読んで下さりありがとうございます。