叫んでダバァ
新しく書き始めました。
目に留めて頂きありがとうございます。
いつもの様に畑仕事を終えて家に帰る途中だった。
グラッと地面が揺れて地震かと思った次の瞬間には腹部に激痛が走っていた。
条件反射的に腹部を押えれば ぬるっとした赤い物が手に付いた。
血だと認識した瞬間ドサリとその場に倒れ込んでしまった。
(何? 地震の揺れで何かが落ちて来て刺さった? それとも通り魔?)
いやそもそもがこんな僻地に通り魔なんてまず居ないだろう。
ならばこれはどういう事なのだろうか。
状況を把握しようにも体に力も入らない。声も出せない。息が苦しくなる。
何やら周囲が騒がしくなった気がする。
騒がしく?
いやいや、鹿や猪は居たとしても隣家まで4㎞なのでそれはおかしい。
周囲を確かめようとしても視界がぼんやりとし始めてよく見えない。
(あ~、眼鏡どっかに落ちたんかな・・・)
探そうと思い手を動かそうとしても力が入らない。
おまけに段々と寒くなってきた気もする。
(確か失血死するときって体温下がるんだっけか)
そんな事を考えている内にどうやら意識は遠ざかったらしかった。
次に意識を取り戻した時はどこぞのベットの上だった。
あからさまに自分の家の天井や煎餅布団とは違うふかふかのベットだ。
(あれか、死後の世界で雲のベットとか?
無いな・・・儂そんなメルヘンじゃねぇしな)
取り敢えず状況を把握すべく周囲を見ようと体を動かせば
(いったぁぁぁぁい 駄目だこれ 動かしたら駄目なヤツ)
大人しくするしかないと思った。
しかしそうなると気になるのはトイレの事だった。
(もよおしたらどうしよう、ナースコールは・・・
無いよなぁ どう考えても病院とも違うよなぁ)
しばらくはその心配はなさそうだが、不安ではある。
さてどうしたものかと考え始めた時扉の開く音が聞こえた。
「誰?」
と問いかければ人影が近づいて来るものの眼鏡がないのでぼんやりとしか見える訳ない。
「お目覚めになられましたか?傷の具合は・・・よろしい訳ありませんよね」
感情の無い声が掛けられる。医師?ではなさそうだ。なんとなく。
「声を出すのもまだ辛いと思いますので、そのまま聞くだけで大丈夫です。
まずはこの状況ですが。
ここは王城内にある貴賓室の一室となります」
(王城?! 貴賓室?! え? 何故そんな場所に儂がおるんかね?)
「貴方はこの国の諸事情に巻き込まれまして、
異次元の国より強制的に招かれました。
いわゆる召喚というものによってですね」
(異次元?強制的に招かれた?
強制的に招くってそれ言い換えれば拉致とか誘拐だよな)
「召喚したのは我が国の第二王子殿下でしたが、暗殺者が殿下を狙った瞬間と
あなたが具現した瞬間が重なり殿下の代わりに貴方が刺されてしまった
という結果になりました」
(要するに異次元に拉致られて身代わりに刺されましたよと。
なんじゃそりゃぁぁぁぁ! )
叫びたい衝動をぐっと我慢する。
叫ぶ、つまりは腹筋に力が入る訳で傷口に響くからだ。
「幸い急所は外れて一命は取り留めましたが、しばらくは安静が必要となります。
回復するまではこの部屋をご利用ください。何か御用がある場合は
そこのベルを鳴らしていただければ手隙のメイドがやってまいりますので」
言うだけ言うとさっさと立ち去ってしまった。
普通「何かご質問は」とかあるのではと思うが、歓迎されていないのだけは理解した。
回復するまではと言った。回復すれば追い出されるという事だろう。
しかも用があればベルを鳴らせ?手隙のメイドが来る?
手隙のメイドが居なければ来ないと言う事だし体動かすと激痛が駆け巡る
つまり動かせないし動かしたくないのにどうベルを鳴らせと、嫌がらせか。
(勝手に拉致っといて歓迎されてないとか意味判らん
ところで儂、治療らしき事はされとるんかね?されてない気がするんじゃけど)
痛み止めとか化膿止めとかくれよと思わなくもないが寝る事にした。
(病は寝て直す、病じゃないけど寝て治す・・・
自分で多少動けなければ何事も出来んからね)
実際は寝たと言うよりも意識を失っただけだった。
刺された場所は鳩尾の少し下あたり。
つまり呼吸する度に筋肉と同時に傷も動く訳で、痛みも走るのだ。
あれからどのくらいの時間が過ぎたのか。
寝ていたのか気を失っていたのかも不明であるが。
目を覚ませばベットサイドに誰かが座っていた。あの無感情男ではなさそうだ。
目を凝らして確認しようと試みるも・・・やはり見える訳がない。
なんせ 近視乱視老眼のトリプルである。眼鏡がなければすべてがぼやける。
まったく見えない訳ではないのが救いではある。
ぼやけてはいるが、なんとなくの輪郭などは見えるのだ。
と、その人物と目が合ったような気がする。ぼやけているから断言は出来ない。
「この度は非常に申し訳なかった」
開口一番に頭を下げられた。
どうやらこの人物は感情があるようで声が少し切羽詰まっている感がある。
「勝手に召喚術を発動したあげく暗殺者に狙われ
あまつさえ招き人に怪我を負わせ治療もおざなりとは・・・
重ね重ね申し訳ない」
なるほど、さっきの無感情男の説明よりはストンと理解出来た気がする。
ならば多少の治療はしてあるのだろうか。
どれ、と体を動かしてみる。
(うっ、痛みはあるが多少は楽になっちょるかも)
「ああ、無理をしてはならぬ」
そっと手を貸してくれゆっくりと上体を起こし
背中にクッションをいれ体制を整えてくれた。
「ありがとうございます。状況はなんとなく理解はしましたが
いくつか質問をよろしいでしょうか」
喋ろうと思えば敬語も標準語も一応は使える、一応はだが。
「可能な限りは答えよう」
「聞きたい事はまず3つ。
1つ、あなたは何方でしょうか
1つ、何故治療もされずにいたのでしょうか
1つ、私を召喚した当本人は何故に姿をみせないのでしょうか」
此処は何処とか召喚された理由は後回しでいい。
最初の質問は当然な質問な訳で、残りの2つについては疑問と同時に怒りもある。
答え如何では声を荒げるつもりもある。
「失礼した、最初に名乗るべきであった。
私は当国の王エルフィン・ド・ウォール。
貴殿を召喚したあの愚者の父でもある」
確かにあの無表情男は第二王子がとか言っていた気がする。
「治療も施さずにいた理由については・・・
貴殿の気を害するかもしれぬので控えたいのだが」
「構いません。気になるので教えていただきたいです」
「どうせ死にかけの老婆なのだから治療など無駄だ、捨て置け
などと言い放ったそうだ。まったく愚か者が・・・」
(老婆・・・そりゃアラ還で孫もおるけど白髪だってまだ少ないし!
拉致犯に老婆とか言われたかぁねえわ!)
声を荒げそうになった自分をドウドウと何とか落ち着かせ
3つ目の質問の答えを待った。
「本来ならば当本人にも謝罪をさせるべきではあるが
反省を促すために自室に手軟禁状態にある。
情けない事に今の状態では謝罪などしそうになくてな、すまない」
これは甘やかされて育ち我儘自己中全開と言う事かな。
「理解しました。それでは陛下1つお願いがございます」
「なんであろうか?可能な事であれば叶えよう」
「目を閉じて両手で耳を塞いで100まで数えて下さいませ」
と微笑んでみれば、不思議そうな顔をしながらも目を閉じ耳を塞いでくれた。
では 失礼して・・・
「っざけんじゃねぇぞこのクソガキがぁぁぁぁ!
拉致っといて老婆だから捨て置けとかマジありえねぇ!
そもそもが儂まだ老婆言われるほど年喰ってねぇわぁぁぁ!
なんか用があって呼んだんじゃねぇのか、あぁん?
それともあれか、嫁でも呼んだのかっつーの、くそがぁぁぁぁぁ!
召喚術ってそない誰でもがほいほい使えるもんじゃねぇんじゃねぇの?
誰か止めろよ、無理なら陛下に報告でもしろよ!
暗殺者が紛れてたって護衛は?警備は?どうなってんだよ!
しかもなんで儂が身代わりになっとんじゃい、訳わからーん!
クソガキ王子も護衛も警備も全員再教育した方がいいんじゃね?
もっとも儂がそんな心配する必要もないんじゃけど!
さっさと怪我治して元の世界に帰しやがれぇぇぇぇ!!」
一気に叫んでスッキリしたと思った。
ケホッ と吐血した。
弱った喉で叫んだものだから細い血管が切れたらしい。
「だ、大丈夫か! 誰か! 医師を!治癒師を呼べ!!」
「大丈夫ですよこれくら・・・ ダバァー」
「うぉあっ・・・ タオル!タオルを!!」
いやいや陛下落ち着いてくださいなどと言いつつ また意識を失ったようだ。
腹部の傷での出血と今の吐血できっと貧血なのだろうなと思う。
恐らく段々と砕けた喋りになりそうです、なんせおかんですし(*‘ω‘ *)