第36話〜休戦 1〜
「はいはい皆、どぉ〜んどん食べてねぇ」
「はぁ〜い、いただきまぁ〜〜すっ!!」
ユニィが元気良く返事をして、食事を始める。
しかし、この食卓には今、もの凄く気まずい空気が漂っている。
第一に、フォルカはエリアル消失によってテンションが恐ろしく低い。
そんなフォルカの目の前では、ニッ君ことニグレドが黙々と食事している。
「ちょっと、そんなにじろじろ見ないでよ。食べずらいじゃん」
「お前の様なちんちくりん、誰が見るか。私が見ているのは、お前の隣にいるフィニカ様だ。この自意識過剰娘が」
「ニグレドお兄ちゃん見てたの?キモッ・・・やめてよね、オバサン」
「黙れっ、私はまだ20歳だ・・・断じてオバサンではない。分かったか、このまな板娘」
セレンとドールは、口が開くたびに、互いの心をえぐりとる様な罵り合いを繰り広げていた。
「・・・ウェルトさん」
「んっ?何だ、クラス嬢ちゃん」
クラスが、ウェルトに話しかける。
「何というかその、私・・・食事は楽しくするものだとずっと思ってました」
「まぁ・・・普通はそんなもんだろう」
「ですが・・・現状は、重苦しい空気が支配してしまっています。はっきり言って、もの凄く食べにくいです」
クラスの意見に、「確かにな」と言ってウェルトは同意した。
そして、ウェルトはフォルカの方を見て、顔をしかめさせてこういった。
「俺的には、ボウズがいつまでもウジウジしてるのが・・・イライラするぜ」
「ウェルトさん・・・」
そう言うと、ウェルトは立ち上がり部屋から出ていった。
「・・・」
クラスは、フォルカ達の方を向いた。
彼女的には、やはりエリアルのことで傷ついているフォルカが心配だった。
しかし、今の彼にどんな言葉を言えばいいのか・・・クラスはしらなかった。
(だれか・・・知らないでしょうか?今のフォルカを励ませる方法を)
そんな事を考えていると、ニグレドが立ち上がった。
その時、クラスは何かを思いついた。
クラスは、今にも部屋から出ようとしているニグレドに駆け寄った。
「あのっ・・・少しだけ、お話しませんか?」
「話?・・・どうしてだ」
「えっと・・・貴方なら、分かるんじゃないかと思って・・・」
しばらく、ニグレドは黙り込む。
そして、セレンの方を見て、こういった。
「セレン、少しクラスと話をしてくる」
「うんっ、分かったぁ〜っ!!」
セレンは即答して、再びドールと言い合いを始める。
その返事と同時に、ニグレドは部屋から出た。
慌ててクラスも、彼の後を追った。
その様子をフォルカは見ていたが、すぐに俯き、エリアルを失った時の痛みを、胸に無理矢理しまいこんだ。
「・・・で、話とは何だ」
部屋を出たあと、話を聞かれない為に、クラスはニグレドと外に出た。
そして、ニグレドは冷たい声でクラスに聞いてきた。
「実は・・・傷ついたフォルカを励ますには、どうすればいいですか?」
クラスの質問に、ニグレドは小さくため息をはく。
「俺には関係ないことだ、聞く相手を間違いすぎだ」
「いいえ、間違いではないと思います。だって貴方は・・・フォルカのお兄さんですから」
クラスの返答に、ニグレドは唇を軽く噛む。
そして、少し強めの口調でクラスに言った。
「この前言ったはずだっ!仮に俺がアイツの兄だとしても、今の俺はニグレドだっ!!」
「ですが・・・私達には、貴方がフィニカさん以外のものに見えないのです」
クラスの一言に、言葉が詰まる。
ニグレドからしたら「そんな奴は知らない」と否定したかったが、何故か口がそれを拒否した。
「お願いします、私に・・・フォルカを元気付ける為の助言を下さい」
クラスの頼みを聞いた時、頭の中に一つの情景が浮かんできた。
ぼやけてはいるが、少年が二人いるのとは分かった。
片方の少年が、自分より少し小さなもう一人の少年の両頬を引っ張る。
“わっ!いっ・・・痛いよ兄さん”
“お前がくよくよしてるからだろっ!ほらっ、くよくよしてないで笑えっ!”
そういって少年は、摘んでいる両頬を、軽く上に持ち上げる。
すると、くよくよしていた少年が、まるで笑っている様に見えた。
“いいかっ!苦しいから、悲しいからってくよくよしてたら、強くなれないんだぞ!?だから笑えっ、笑えば苦しさなんてぶっ飛んじまうからさっ!!”
少年はそういって、満面の笑みを浮かべた。
「・・・頬を」
「・・・頬を?」
ニグレドのいったことを、クラスは繰り返して言う。
「頬を・・・つねって、無理矢理にでも笑わせてみたらどうだ?」
「・・・それって、昔フォルカにやってた事ですか?」
「・・・何となく、思いついただけだ」
そういうと、ニグレドはクラスから顔を反らし「早く行け」とユニィの家を指差した。
「・・・助言、ありがとうございました」
クラスは、お辞儀をして家へと戻っていった。
「・・・・・・」
ニグレドは、無言でその場から動かない。
「俺は・・・あのガキの・・・兄?」
自分という存在が分からないことに、少しだけ不安感を抱いた。
「はぁっ!!」
ウェルトは、村から少し離れた場所で、魔物と交戦していた。
四方から、獣型の魔物が飛び付いてくる。
ウェルトはそれを身を低くして回避。
そのままの態勢から上空に両手を掲げる。
次の瞬間、ウェルトの上空にいる魔物達の腹部辺りに、白い魔方陣が出現。
その魔方陣から、白光の光線が撃ちだされる。
その光は、魔物達の腹部を貫通、そのまま地面へと落下した。
「・・・やっとエトのスティアが馴染んできたか」
そういって立ち上がると、背後から気配を感じた。
振り返るとそこには、自分とよく似た青年が、木にのさがっていた。
「・・・よぉ、ディシア」
「俺のこと、思い出したんだな・・・ウェルティオ」
そういってディシアは、軽く微笑む。
「ああ、やっと自分の事を思い出したぜ、バカ兄貴」
「ふっ・・・言ってくれる、だがそれもお前らしくていい」
そういってディシアは、背を向けて歩きだした。
「もう行くのかよ?」
「俺の自由時間は、短いんだ。遅れたらシェリナーが色々とうるさいからな」
そういって、ディシアは足元に光素スティアを展開。
移動準備を、ものの数秒で完了させた。
「・・・お前の無事が知れて、よかった」
「心配かけたな・・・」
次の瞬間、ディシアの姿はすでになかった。
「・・・さて、俺もそろそろ帰るか」
ウェルトは、ディシアが向いていた方向とは逆を向き、ユニィの家に向かって歩きだした。