第35話〜アルフィの村〜
一体、どのくらい走っていただろう。
何秒、何分、何十分、人によって体感速度は違うが、かなり走り続けたのは確かだった。
「みんなお疲れぇ〜、ここがアルフィの村だよ」
ユニィは、胸を張って言った。
この前ユニィが言った通り、あるのは家と店だけで、来た人を目で楽しませるようなものは何もない。
「・・・ユニィ嬢ちゃんが言った通り、すっげぇシンプルなとこだな」
「わぁ〜・・・家が半円状です」
半円状の家も十数件しかなく、住んでいる者の少なさがうかがえる。
「家なんて住めればいいじゃん!形なんて不要っ!・・・っていう考えの結果、この形状になったんだよ」
ユニィは、何とも雑な理由を並べて、指でVサインをつくる。
「・・・家の壁に炎素石を何個か埋め込んであるな」
ドールの質問に、ユニィは「待ってましたっ!」と言わんばかりの笑みを浮かべて、説明した。
「それはねぇ〜・・・昔からやってる呪いで、火事を防ぐって感じのヤツだよ〜っ!!」
「へぇ〜・・・面白いですね、フォルカ」
クラスが、フォルカに話題を振る。
しかし、フォルカは無反応だった。
「・・・・・・」
「・・・フォルカ?」
クラスは、下を向いているフォルカの顔を覗き込む。
フォルカの顔は・・・何とも酷い顔をしていた。
目元は泣き過ぎたのか赤く腫れていて、目は覗き込んだクラスを見ようともしなかった。
それに・・・何ともいえない脱力感のある顔だった。
「・・・フォルカ」
「・・・っ、ユニィ嬢ちゃん、嬢ちゃん家はどこだ?」
フォルカを見るなり軽く舌打ちをして、ウェルトはユニィに聞いた。
「今から案内するよ、ついて来てっ!」
ユニィが、勢いよく走り始める。
その後を、残りのメンバーは慌ててついていった。
少しして、一件の家の前にユニィは止まった。
そして、扉を二・三回ノックする。
すると扉は開き、中から誰かが出てきた。
「はぁ〜いっ!ようこそいらっしゃいました☆素石の依頼ですか・・・ってえっ!!」
「セッ、セレンちゃんっ!!?」
扉を開けて出てきたのは、ユニィの母ではなく、セレンだった。
「どうしてママの家にセレンちゃんがいるの!?」
「アヤさんに素石を貰いに来たの。そしたら、ついでにお手伝いしてって言われて・・・アヤさんのお願いを断る訳にはいかないから、手伝ってるの」
「そうだったんだ、セレンちゃん・・・ママは今家に居る?」
ユニィの質問に、セレンは微笑みながら答えた。
「アヤさんは今、素石を採りに行ってるよ。もうすぐ帰ってくると思うけど・・・」
セレンがそういった次の瞬間、扉の近くに漆黒の陣が出現する。
陣より黒光が溢れ、柱の様に陣から黒光は放たれ続ける。
そしてその黒光の柱は、一瞬にして拡散した。
その中には、二人の人がいた。
その片方は・・・。
「ママッ!!」
ユニィは片方の人に、おもいっきり抱きついた。
「あらあらっ、何処かで見たことある可愛らしい女の子だと思ったら、ユニィだったのねぇ」
ユニィの母親は、ハキハキと喋るユニィと逆で、何ともおっとりした口調で温かさを感じた。
「ママ・・・ずっと家に帰らなくてごめんなさいっ!!」
「確かに手紙とか来なかったから心配だったけど、セレンちゃんが事情を話してくれたから、今は無事帰って来たことを喜ばせてもらうわぁ」
「ママッ・・・」
「でも、次からは出かける時にはちゃんと私に言うこと・・・いいわねぇ」
ユニィは元気一杯に返事をし、再び母親のアヤに抱きついた。
すると、アヤと共に現れた、もう片方の人が口を開いた。
「・・・アヤさん、これは家の中に置いておいていい物か?」
「それは・・・このまま外に置いて、この土地のスティアを取り込ませるわぁ」
アヤと会話している人物を見て、ドールとフォルカは大声で叫ぶ様に言った。
「フィニカ様っ!!」
「兄さんっ!!」
二人の言葉に、呼ばれた人物は振り返る。
雪の様に白い髪、それと対象的な黒衣。
そして、彼の顔を隠してしまっている、黒い仮面。
「またお前達か・・・」
フィニカと呼ばれたが、今や自分はニグレドだと、彼は冷たくいい放った。
「あららぁ、セレンちゃんだけじゃなく、ニッ君とも知り合いだったのねぇ」
緊迫した空気の中、アヤのおっとり口調と天然混じりのセリフを聞いて、一同は一気に肩の力が抜け落ちた。
「・・・ふぅ、ここね」
声の主、シェリナーは辺りを見回す。
すると、赤と青の交じり合った障壁の中に、座り込んだナイトがいた。
「シェリナーか・・・早かったね」
「貴方の素術が暴走したのを機械が感知したから、呼ばれる前から此方に向かっていたの」
「さすが・・・だね」
シェリナーは右手に炎素スティア、左手に水素スティアを収束させる。
少しして、障壁の周りに両手のスティアを拡散させる。
シェリナーのスティアは障壁と接触すると、その接触した部位を、まるでパズルの様に崩していった。
そして一分も経たない内に、ナイトを苦しめた障壁は全て崩れた。
「・・・解素術くらい、覚えておきなさい」
「そうしとくよ」
そういうと、ナイトは立ち上がった。
「スティアを補充しに、一旦施設に戻れ・・・とのことよ」
「・・・わかった」
施設の方向に歩き出したシェリナーの後を、ナイトは黙ってついていった。
(・・・マスターに、何て言われるだろう)
そんなことを考えながら、帰り道を渋々と歩き続けた。