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第34話〜ライシェス〜



大地を、勢い良く駆け抜ける音が複数聞こえる。



「はぁ・・・はぁ、ナイトは?」


「姿は見えないけど・・・追って来てると思う」



フォルカの問に、エリアルが答える。


エリアルの言う通り、ナイトは風素スティアの使い手なので、高速移動なんかは得意分野なのだ。



「みんな頑張って!!もう少しでアルフィの村だから・・・きゃあっ!!」



ユニィから、声があがる。


足を止めて振り向けば、ナイトがユニィを持ち上げていた。



「アルフィの村ねぇ・・・また面倒な所に行こうとしてるね。あんなちんけな所に、クラスを連れていかせる訳にはいかないよ」


「・・・っ!ワタシの故郷を馬鹿にするな!!」



ナイトの一言に、ユニィは怒りが爆発した。


そんな彼女を黙らせるかの様に、ユニィを掴んでいる手に力を入れる。


力を入れるにつれ、ユニィの首が絞められる。



「あっ・・・うぅ・・・」


「ユニィ嬢ちゃん!!」



ウェルトがナイトに近寄る。


そしてナイトに対し、何発も拳を放つ。


それをナイトは、ユニィを盾にすることも無く、いとも簡単に避けた。



「・・・なんか、この前戦った時と違うね。手加減のつもりかい、僧侶?」



避けながら、ナイトが呟く。



「シェリナーから聞いたよ、君・・・彼女に造られたんだってね」


「何言ってんだよクソガキ・・・俺は神だぜ?ヒトを造る事はあっても、造られるなんてこたぁねぇよ!!」


「減らず口をっ!!」



会話を遮るかの様に、ナイトはウェルトにユニィを投げつける。


ウェルトは、ユニィを抱き抱える様にして受け止める。


しかし、予想以上に一撃が重く、力が完全に戻っていないウェルトの体は、ユニィごと地面から離れた。


そのまま二人は、後ろに立っていた木に激突した。



「・・・ユニィ嬢ちゃん、大丈夫か?」


「うん、ウェルト兄ちゃんが抱えててくれたから・・・平気だよ」



木に当たる際、ウェルトはユニィのクッション代わりになり、ユニィへのダメージを軽減させていた。



「さぁ、僧侶・・・この前の仕返しをさせて貰うよ」



いつの間にか、ナイトは二人の目の前にいた。


ユニィを蹴り除け、ウェルトの前に立ち、風素スティアの変換を開始。


使おうとしているのは、光線状の風。


ミセットタウンの地面に、跡をつくる程の威力の風である。



「やめろぉーっ!!」



ナイトの背後の方から、フォルカとエリアルが素器を構え、走ってくる。


それを見て、ナイトは表情を曇らせる。



「虫がぁ・・・僕の邪魔をするなぁーっ!!!」



変換の終わった風素スティアを、フォルカ達の方に放つ。



「『ブラスト・ストーム』ッ!!」



放たれた光線状の風を、フォルカ達は左右に分散して回避。


すぐに二人は、ナイト目がけて走る。



「ハアァァアッ!!」



先に足の速いエリアルが仕掛けた。


エリアルの素器はナイフ型、距離を積めて斬撃を繰り返す。



「くっ・・・虫のくせに」


予想外のエリアルの斬撃に、ナイトは少しうろたえる。



「フォルカッ!!」


「うんっ!」



次の瞬間、エリアルの斬撃の嵐から、フォルカの斬撃にバトンタッチされた。



エリアルの時ほどの手数はないが、今までのひ弱だったフォルカとは思えない程の鋭い斬撃が繰り出されていた。


パターン化してナイトに避けられない様に、フェイントも自分なりに加える。



「くっ・・・少しはやるようになったじゃないか」



ナイトの言葉に、フォルカは反応を示さない。


今集中力を切らすと、必ず流れを止められると分かっているからだ。


暫くの間、素器の風を斬る音が響く。


すると、フォルカの素器が突如光りだす。



「っ!?」



突然の輝きに、ナイトは思わず目を反らす。


フォルカはその隙に、素器の振りを少し大きくし、勢い良くナイトの腹部を斬り付けた。




「ぐぁあっ!!」



ナイトは、その場に片膝を付く。


そして、フォルカを睨み付けながら、こういった。



「・・・やるじゃないか、だけど・・・この程度じゃあ僕を倒せな・・・っ!!?」



そういったと同時に、ナイトの周囲に、赤と青の二色を発する、半円状の障壁が出現する。


ナイトは『ブラスト・ストーム』をぶつけてみたが、すぐに緑光となって、散るだけだった。



解素術かいそじゅつを使えないお前には、一生出ることは出来んよ」


「・・・ドールッ!!」



ナイトは、彼女の名前を恨めしそうに叫ぶ。


そんな子供じみた行動に、ドールは鼻で笑ってやった。



「ふっ・・・いくら凄んでも、何も出来ないなら恐ろしくないな」


「くそおぉおぉぉおっ!!」



心の底から悔しそうな声が響く。


そんなナイトの前に、クラスは立った。



「クラス・・・」


「ナイト・・・すいませんが、私はまだ貴方の所に行く訳にはいきません。・・・本当にごめんなさい」



そういって、クラスはフォルカ達の方へ走って行く。



「あっ・・・ああああっ、クラス・・・行かないで。君は・・・君はっ!」



障壁の外に、緑光が出現し集まる。



「なんだ・・・あれは」



ウェルトが立ち上がりながら言う。



「何だか、ものすごいスティアを感じるんだけど」



ユニィは、後退りしながら言った。



「みんなっ、走れ!!」



ドールが大声で叫んだ。


その声は、珍しく焦りを帯びていた。


一同はドールの言った通り、アルフィの村方向へ走り出した。



一方、ナイトの障壁周囲には、恐ろしい程のスティアが集まっていた。


その緑光は風となり、圧縮されていく。




「君はっ!僕とマスターのモノなんだぁぁあぁああっ!!!」



彼の叫びと共に、圧縮された風が打ち出された。


風は銃弾の如く、木を貫通して穴を開けた。



「なっ・・・何なのよアレはぁ〜〜っ!!」



走りながら、エリアルが叫んだ。



「感情に流され、力を暴走させたんだっ!ムチャクチャな事をする!」



ドールは解説しながら、水素スティアを圧縮し、風に対して射出していた。


エリアルは頷くと、走る事に意識を集中させた。




「みんなっ、左の道に行くよ!真っ直ぐいったら崖だから間違えないでね!!」



ユニィの言葉に、みんなは分かれ道を左に入る。


フォルカも曲がろうとした瞬間。



「フォルカッ!!!」



名前を呼ばれると同時に、エリアルに体を突き飛ばされた。


その刹那、エリアルの左肩を圧縮された風が射ぬく。


「エリアルッ!!」



エリアルの体は、崖の方へ向かい、落下する。


その前に、フォルカはエリアルの左手首を掴んだ。



「エリアルッ・・・!!」


「フォルカ・・・痛っ!」



エリアルは左肩から、出血していた。


早く引き上げて手当てしないと・・・。


そんな気持ちが、フォルカを焦らせた。


「うぅっ・・・」



エリアルは出血口を押さえている。


苦しそうな声も、聞こえてきた。



「エリアルッ、捕まって!!」



フォルカは左手を差し出した。


エリアルは、痛みを堪えながら、右手を伸ばした。



そして、フォルカの手首を右手でギュッと握った。


フォルカは、あとは引き上げるだけだと思った・・・次の瞬間。



「えっ・・・」



フォルカの手から、エリアルの手が滑り落ちる。


一瞬にして、手にあった安堵の温もりが・・・消えてしまったのだ。




「エリアルゥゥーーーーッ!!」



フォルカの叫びは、響くだけで、エリアルは既に見えなくなっていた。



「ボウズッ!」



ウェルトが駆け寄り、フォルカの体を引っ張る。


彼の体は、まるで車輪付きの荷台を引くかの様に、いとも簡単に動いた。


ウェルトは、そのままフォルカを引っ張り、皆の待っている方向へ走った。



「っ・・・、・・・」



フォルカは、自分の左手を見つめ続けていた。


肌色の皮膚に、絵の具をこぼしたかの様についている、エリアルの血。



「エリアル・・・、僕は・・・っ」



繰り返し頭の中に浮かび上がる、彼女の顔。



誰よりも優しく、負けず嫌いで・・・自分を支えてくれていた存在。



いつまでも消えない喪失感が、フォルカの胸の奥を締め付け続けた。





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