第33話〜道中〜
「・・・ふわあぁ〜っ」
メンバーの一人が、大きなあくびをする。
あくびをしたのは、フォルカ達の中で最年長のウェルトだった。
「珍しいわね、ウェルトがあくびするなんて」
「確かに・・・初めて見た気が」
エリアルの一言に、そういえばとフォルカが反応する。
「たかがあくびだろ?そんなの、俺じゃなくてもするだろうが」
そういってウェルトは、首をゆっくり左右に傾ける。
曲げた時に、何かが折れるような音が響く。
「あっはははは!!ジジイ臭いよ、ウェルト兄ちゃん!!」
「それに比べて、ユニィはすごく元気ですね」
クラスの一言に、ユニィはその場で両手を勢い良く上下に振った。
「ふぅ〜ふふんっ♪今ならウェルト兄ちゃんにも勝てそうな気がするわぁ〜ん♪」
「いや・・・さすがにそれは無理だろう」
ドールの言葉に、「やってみなきゃわかんないもんっ!」とユニィが抗議する。
「ドール嬢ちゃん、そういってやるな。確かに今の俺じゃあ、ユニィ嬢ちゃんに勝てねぇかもな〜」
「・・・どういうことだ?」
ドールがウェルトの方を向く。
それを合図に、ウェルトは全員に話した。
ディシアのこと、自分のこと、そして―エトのことも・・・。
「・・・エトは、ウェルトのスティアになったってこと?」
「更に、ウェルトさんはあの青年―ディシアの弟だと・・・」
「ああ・・・」
ウェルトの目に、強い意志を感じる。
その目は、嘘は言っていないと物語っている様に見えた。
「まだ完全にエトのスティアと一体化出来てねぇから、光素スティアを扱えねぇんだ。だから悪いが少しの間、俺は非戦闘要員だ」
「・・・わかりました、ウェルトさんの分まで僕が頑張ります!」
フォルカが、ウェルトに宣言する。
「フォルカじゃ頼りないから、私が二人分頑張るわっ!!」
「エリアルッ!?」
エリアルにあっさり宣言を撤回されたフォルカは、驚きが隠せなかった。
そんなフォルカを見て、してやったりと言わんばかりの笑みを、エリアルは浮かべた。
「二人がいた所でそんなに足しにならないよっ!だ・か・らぁ〜、私のファイアで敵をみ〜んな黒焦げにするんだからぁ〜〜〜!!」
「「ユニィッ!!?」」
二人を押し退けて、ユニィが手足をジタバタさせながらエリアルの発言を撤回する。
「ちょっとユニィッ、フォルカはともかく・・・私はちゃんと戦えるわっ!!」
「とか言って・・・散々魔物に絡まれてやられそうになったのは、どこのだれかなぁ〜〜ん?」
「ううっ・・・」
本当のことを言われ、グサァッと聞こえてきそうなくらい、精神的にダメージを負う。
その様子を暖かい目で見る者と、冷たい視線を送る者がいた。
「エリアル達・・・楽しそうですね」
「急ぐと言っていたのに・・・呑気な奴等だ」
ドールがため息をつくと、クラスはクスッと笑う。
「・・・?何が可笑しいんだクラス」
「いえっ・・・余程フィニカさんを元に戻したいんだなと思って」
「クロムとして当たり前のことだろう?」
「そう・・・ですね。クロムなら当たり前なんですよね」
笑っていたクラスの、表情が変わる。
その表情を見て、ドールはハッと何かに気付く。
「あっ・・・いや、お前のことを悪く言ったつもりは・・・」
「分かってます。ドールはそんな事言うクロムではありませんから・・・」
そういってクラスは微笑もうとするが、上手く表情がつくれない。
ドールの不安が、徐々に大きくなる。
「ドール、そんな不安そうな顔をしないでください。本当に大丈夫ですから・・・」
そういって、ドールに対して手を伸ばそうとした。
しかし・・・、手はドールに触れる事はなかった。
触れるより前に、見覚えのある少年に握られていたのだ。
「駄目だなぁ〜、ドールは・・・クラスに気を使わせるなんてさ」
「っ!!」
「貴様はっ!!」
ドールが咄嗟に水素スティアを収束させるが、相手側は既に収束が完了していた。
「『ブラスト・ストーム』っ!!」
緑色の光線が、ドールめがけて放たれる。
ドールは、瞬時に収束した水素スティアを術式に変換。
『アクア・ウォール』を発動させ、凝固させると、見事に氷の壁が完成した。
光線が壁に衝突する。
その瞬間、壁は砕け、光線は風となった。
「クラスッ、ドールッ!」
フォルカを筆頭に、残りのメンバーが集まる。
彼らの目に映ったのは、クラスの手をとる少年の姿だった。
フォルカ達は知っていた。
この少年は・・・。
「「「ナイトッ!!」」」
「久しぶりだね・・・まぁ、君たちみたいな害虫に覚えて貰ってても嬉しくないけど」
四素騎士の一人、『狂嵐のナイト』だった。
彼の顔は、恐ろしいほど満面の笑みを浮かべていた。
「クラスは渡さんっ!」
そういってドールは、いつの間にやら収束していた水素スティアを変換。
するとドールの足元に、まるで影の様な水溜まりが出現する。
その水溜まりを利用し、ナイトのいる方向へ猛スピードで接近する。
ナイトはそれを、クラスを抱えたまま後方へジャンプし、距離をとる。
着地した時、ピチャッという音が聞こえた。
いつの間にか足元に、ドールの水溜まりが伸びていた事に気付いた時には、もう遅かった。
「『凝固』!!」
ドールの声に反応するかの様に、水溜まりは一気に凍り付く。
ナイトは足首までを凍り付けにされ、自由を奪われる。
その一瞬の隙に、ドールは一気に距離を詰め、ナイトの腕を蹴りあげる。
その時、ナイトから離れたクラスの体をしっかりと捕まえ、無事救出する。
「このっ!!」
ナイトは空いた両手より、風素スティアを圧縮したものを、数発打ち出す。
それを水素スティアでつくった壁で防いだり、避けたりして、ドールはクラスと共に無傷のまま着地した。
「まだまだ修業が足らんよ・・・青二才が」
そういってドールは、フォルカ達の方へ移動し、ゆっくりとクラスを下ろす。
「お前なんかに・・・この僕が負けるものかあぁ〜〜〜っ!!」
ナイトがそう叫んだ瞬間、彼の自由を奪っていた氷が砕ける。
「ちぃっ、『昇華』!!」
ドールの声と共に、凍っていた氷が、全て水蒸気に変化した。
「急げっ、長くはもたんぞっ!」
「うんっ・・・ユニィ、アルフィの村はどっちに行くの!?」
「・・・こっち!!!」
ユニィの指差す方向に、一同は走り出した。
「くそっ!目眩まし程度で・・・っ!!」
ナイトは、風素スティアを利用して、辺り一面の水蒸気を払う。
そこには既に、フォルカ達の姿はなかった。
ナイトは目を閉じ、静寂を生み出す。
すると、微かに足音が聞こえた。
「そっちかっ・・・」
ナイトは風素スティアを使い、高速で移動した。