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第29話〜ディスペア 後編〜


「・・・変わったな」


青年は口を開く。



「昔のお前は、他人の事などどうでもよかったが・・・」


「・・・るせぇ」



ウェルトの口も開く。


しかし、発する言葉の一つ一つに確かな殺意が感じられる。



「お前に俺の何がわかるっていうんだよ? 初めて面合わせたお前がよぉっ!!」



ウェルトの怒り声と共に、おぞましい程の殺気が溢れる。


ウェルトはその場にエトを下ろし、ゆっくりと立ち上がった。



「その上エトをクロムにして殺すだぁ・・・? 笑えねぇよっ!!!」


「!?」



次の瞬間、ウェルトの足元から大量の光素スティアが発生した。





「ウェルトさんっ!」


フォルカが彼を呼ぶが、全く届かない。


(ここは・・・危険だっ!)



フォルカは司祭とシスターの方を見る。


エリアル達は、一般の人達を安全な場所に避難させるため誘導に向かった。


自分はこの二人の誘導を任されており、ウェルトの守りたい存在に違いない彼らは確実に守らなければならない。


ならば、彼が安心出来る様に二人をこの場から逃がさなくては・・・。


そうおもい、司祭とシスターの手を取った。



「二人とも、早くこの場を離れましょう」


「だけどっ、ウェルトとエトが・・・」



シスターの言葉に、一瞬手が止まる。


残念だが、エトは出血量を見る限り助かる望みは薄いだろう。


ウェルトも頭に血が昇っているのか、こちらの声が全く届かない。


そんな二人を置いて逃げるのが、彼女らは嫌なのだろう。


「僕だって・・・」



フォルカの口が動く。



「僕だって・・・ウェルトさん達を置いて自分だけ逃げるなんて嫌です。 でも・・・でもっ!今の僕らじゃウェルトさんの足手まといにかならないんですよ!なら・・・足手まといにならないように、この場から離れるしか・・・ないんです」


「フォルカ君・・・」



シスターの肩に、手が置かれる。


振り返ると、それは司祭の手だった。



「司祭・・・」


「・・・逃げよう、我々は戦えない」


「・・・はい」



ようやく二人は、フォルカの誘導について来てくる決心をした様だ。


フォルカはホッとし、二人の誘導を開始した。





「スティアをそれなりに解放したか・・・だが」



青年の足元からも、光素スティア特有の白光が溢れだす。



「俺も・・・お前に追いつく努力はしたんだ、そう簡単に負けてはやれんぞ」



青年の右手に、光素スティアが収束する。


その光はブレード状に形成され、硬化する。



「スティアブレード・・・行くぞ」



青年が瞬時に風素スティアを収束させ、一歩前進する際に高速でウェルトの方に接近し、ブレードでの斬撃を仕掛ける。



それをウェルトは、自分の前に両手を交差させ防いだ。


「・・・?なぜ切れない、素手で防いでいるなら切り傷くらいはつくはず」



そういった瞬間、青年は気付いた。


ウェルトは、両手に薄い光素スティアの障壁を展開していた。



「そんな事まで出来る様になったか・・・厄介なものだ」


「・・・・・・」



ウェルトは答えない。



「なら・・・これでっ!」



青年は逆の手にもスティアブレードを形成。


連続で何度も障壁を斬り付ける。


手だけではなく、高速移動をして回り込み、頭や胴、足にも攻撃を仕掛ける。



しかし、どれも彼を掠める事はなかった。


避けられ、防がれ、流される。



「くっ・・・」



さすがの青年も、少し焦りの表情を浮かべていた。



早くこいつを倒さないと・・・。


そんな焦りが後押しして、次の一撃に力がこもる。




「ハアアァァッ!」



右方向と左方向の両方向から、力のこもった一撃が繰り出される。


ウェルトはそれのブレード部を、素手で止めた。


「っ!?」



その時に浮かべていた顔は・・・確実に青年を殺すと物語っていた。


「次は俺の番・・・だな」



彼は静かに言った。


その瞬間、青年の両手に展開していたスティアブレードが折れる。


「なっ!?」



青年が驚いた瞬間、右頬に強烈な殴りが入る。


青年の体は、いとも簡単に地面から離れた。



「くっ!!」



体をひねり、地面への着地を試みるが、ウェルトがそれを許さない。


着地する瞬間、ウェルトは右手に光素スティアを展開していた。


青年の爪先が地につくのとほぼ同時、彼の右手が拳をつくり、青年の頭を下方向に殴り、頭を地面へ叩きつける 。



「・・・っ!!」



叩きつけられる痛みに、青年は声にならない声をあげる。


立ち上がろうと試みるが、痛みで思うように立ち上がれない。



「く・・・そ・・・っ!」



足音が近づく。


音を聞いた感じ、そこそこ早足で接近している。



「最後に聞こうか、なんでエトをクロムにした?」



ウェルトの質問に、青年は答える。



「俺のご主人は気まぐれでね・・・あの子をクロムにしたのも、なんとなくだと聞いている」



その解答に、ウェルトの顔が更に引きつる。


それと同時に、ウェルトの右手に高出力の光素スティアが収束される。



それが無言で放たれようとした瞬間・・・。




「ウェ・・・ルト、ダメ・・・」


「エトッ!?」



死んだと思われた少女が、彼の前に現れた。


少女は口を開く。



「ウェルト・・・コロシチャダメ。 カミサマハ、ワルイコトヲシタヒトノコトハ・・・イキテツグナイヲサセルッテ、ウェルトガオシエテクレタンダヨ」


「・・・っ!」



次の瞬間、右手に収束されていた光素スティアが空気中に拡散した。


自分が彼女らに教えたこと・・・それを自分が出来ていなかった。


ウェルトは、思い出させてくれたエトを、力強く抱き締めようとした。


しかし、寸前でガクッと力が一気に抜け、その場に倒れこんでしまった。



「・・・・・・」



青年は立ち上がっていた。


そして、エトを見つめている。



「なるほど・・・お前らがあいつの生きる目標か」


「・・・・・・?」



エトが首を傾げる。


そんなエトを見て、青年は薄く笑う。



「・・・アナタッテ、ウェルトニソックリ。ワライカタモ、フンイキモ」



そういってエトは、青年の方に近づいた。



「俺はこいつみたいに、命をかけて守るものなんてないさ・・・だから、こいつには勝てないんだろうな」


「・・・ソレガ、ウェルトトタタカッテルトキニ、ウゴキニマヨイガアッタリユウ?」


「・・・そうかもな」



青年は、ウェルトの方を見る。


彼は、ピクリとも動かない。



「少女、あいつはもうじき体内スティアが尽きてくたばる」


「ウェルトガ・・・シンジャウノ? ソンナノイヤダヨ」



エトはうつむく。



「・・・助ける方法はある、しかしそれはお前が犠牲にならねばならない」


「ギセイ・・・モウダレニモアエナクナルノ? ソンナノイヤダヨ」



青年はエトの肩を持ち、首を横に振る。



「そうじゃない、お前はあいつの体内スティアとしてあいつと一緒に生き続けるんだ」


「ウェルトト・・・イッショニ・・・。 ウンッ、ソレデウェルトガタスカルナラ・・・」



エトの同意を得たところで、青年はエトの足元に白い光を放つ魔方陣を出現させる。


エトはウェルトの顔の近くに行って、彼の顔にそっと小さな手を当てた。


『ウェルトトアソンダトキノコト、イマデモオボエテルヨ』



ウェルトからの反応はないが、エトは話し続ける。




『モウイッショニアソベナイケド、ウェルトノソバニズットイルヨ。ダカラ・・・』



少女の体はほとんど光になっていた。


それなのに、彼女の顔からはなぜ笑顔が溢れているのだろうか。


そんなエトは、最後にこういった。



『今までありがとう、ウェルト。 大好きだよ』



そう言い残して、少女は完全に光となった。


その光は、ウェルトへと入っていく。



エトの暖かな光に、気を失っているはずのウェルトの目から、涙が零れていた。


青年の姿も、もう無かった。




数分後、フォルカ達は倒れているウェルトを見つけた。



彼の顔にあった涙腺を見て、一同はウェルトに何があったのか分からなかったが、苦しい思いをしたのだということがどことなく感じられた。


青年は森の開けたところで足を止める。



「あの子クロムはどうだった?」



突如響く女性の声。


青年が見たのは、四素騎士フォースナイツのシェリナー・レリクシアの姿だった。



「貴女の思惑通り、僧侶を倒すまではいきませんでした」


「そう、やっぱりね」



シェリナーの顔に、笑みが浮かぶ。



「ニ十年前に放ったあの子と、こんな形で再開するなんてね。 貴方も嬉しいでしょ、ディシア」


「・・・・・・」



ディシアと呼ばれた青年は、黙り込む。



「そうよね、兄弟といってもいいくらいの存在と死闘を繰り広げてきたんだから・・・辛かったんでしょう?」


「あいつは、こちらを覚えていませんでしたので平気です」


「そう・・・」



おさまらない笑みを、シェリナーは隠そうとしない。


そして、こう呟いた。




「・・・必ず貴方を私の物に戻してあげるわ。ウェルト・・・いえっ、ウェルティオ」



シェリナーの含み笑いが、静かな森に響いた。




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