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第28話〜ディスペア 前編〜




「ふぅ・・・着いたね、ミセットタウンに」



フォルカは荷物を地面に下ろす。


ミセットタウン・・・ウェルトと旅をするきっかけとなった町である。



「ん〜・・・」


「どうしたのユニィ?唸り声なんてだして」



突然ユニィが首を傾げる。


その反応にエリアルが気付き、顔を覗きこむ。



「なんかさ・・・この前と比べて空気が重くない・・・? 活気も若干なくなってる気がするし・・・」



ユニィの一言に、ドールとウェルトは顔をしかめる。



「・・・ユニィの言う通り、町にしては活気がなさすぎるな・・・」



「ああ・・・お前らはここで待ってろ、教会でちょっくら聞いてくる」



そういって、ウェルトは走って行ってしまう。



「あっ、ウェルトさんっ!!」



フォルカの呼び声は、もう彼には届かなかった。



「・・・行っちゃった」


「私達はどうしますか?」


クラスが皆に聞く。



「僕は・・・行くよ。いくら強いって言っても、ウェルトさんもヒトだから、危ないと思う・・・」



「私、フォルカの意見に賛成」



エリアルが、彼の意見に賛成する。



「私も〜っ!!」


「・・・同じく賛同させてもらおう」



続いて、ユニィとドールも賛成する。


フォルカはクラスの方を見る。


クラスは頷き、



「私も、ウェルトさんが心配です。行きましょう」



と言った。



全員は頷き合い、ウェルトの後を追って走り出した。





しばらく走っていると、商店街の手前で見覚えのある人物と出会った。


前にウェルトが紹介を兼ねて、ごちそうしてくれた(?)お店の店主だ。



「あっ、あなたは確か・・・」



「・・・ああ、あんたらはウェルトと一緒にいた・・・」



向こうもこちらを覚えていたようだ。


しかし、店主の表情はとても暗かった。



「・・・この町で、何かあったんですか?」



クラスは、彼に尋ねる。



「・・・この町は、大都の所有地になっちまったんだ。司祭とシスターが頑張って抗議してくれたが、ダメだった・・・」


「っ!!・・・なぜそのような事をしたか、わかりますか?」



驚きながらも、クラスは質問を続ける。


その様子を、皆は目をきらず見続けた。



「大都側の目的はわからないが・・・そのせいで、俺らは大都としか物質の供給が出来なくなっちまって・・・」


「そうですか・・・返答ありがとうございました」



そういってクラスは店主に一礼して、フォルカ達の元へ帰ってきた。



「・・・予想以上に深刻な問題でした」



「ああ・・・大都からしか物質が供給出来ないのは、辛いだろう」



ドールはチラッと、森の方を見る。



「大都との境にある森は、魔物だらけだもんね」



ミセットタウンと大都との境には、魔物の巣のような森がある。


フォルカ達はウェルトのおかげて奇跡的に森を抜けることが出来たが、普通の人にはまず抜けだす事はできない。



「早くこの事をウェルトに知らせ・・・キャッ!?」


急にエリアルが声を出して転けた。


どうやら、誰かとぶつかった様だ。



「ちょっと!どこ見て・・・!?」



エリアルは相手を怒鳴ろうとしたが、言葉が詰まる。


その相手が相手だったからだ。



「ウェ・・・ウェルト?」


その相手は・・・ウェルトにあまりにも似ている青年だった。


服装と少し幼い顔立ちくらいしか、違うところがないと言い切れるくらいだ。



「ウェルト?・・・誰だそれは」



青年は、冷たい視線でエリアルを見下ろす。


その視線に、エリアルは思わずゾッとした。



「あっ・・・いえ、あなたと知り合いがあまりにも似てて・・・」


「・・・そうか」



そういって、青年は早足でその場を去った。



「・・・何、今の人」



エリアルは両手に力を込めて、必死に震えをこらえる。



「ウェルトさんに似ていたけど・・・性格は真反対だったね」



フォルカがエリアルの自分の肩にかけ、彼女を立たせてあげた。



「でもさ・・・本当にそっくりだったね、ウェルト兄ちゃんに」


「はい、目の色も髪の色も・・・親族の方でしょうか?」



そんな推測を立てたその時・・・。



---ドゴンッ!!



「「「!!?」」」



急に大きな爆発音が響いた。


町の人達のざわめきが聞こえる。



『何だ今の音は!?』


『教会の方から聞こえたぞ!?』


『行ってみるぞ!!』



その会話の中に、重要なキーワードが隠れていた。


『教会』・・・ウェルトが向かった方向だ。


フォルカの背筋に、冷たい物が流れるような寒気が走る。


ウェルトのことは心配しなくても大丈夫だろう。


しかし・・・先ほど会ったウェルト似の青年が妙に頭に残っていて、嫌な予感がするのだ。



「・・・みんな、行こう」


フォルカの言葉に、全員頷く。


そして人混みをくぐり抜け、教会へと向かった。




やっとの思いで、教会についたフォルカ達は思わず息を飲んだ。


目に映ったのは・・・入口の大破した教会、いつになく焦り気味のウェルト、そして・・・。



「ウェ・・・ルト、来テタンダ。早ク・・・皆ト遊ボウ・・・早・・・ク」



両目が赤く色づいた、教会にいた女の子だった。



「あの子・・・教会にいた・・・」


「目が赤いってことは、クロムなの?」



フォルカとエリアルは、見覚えのある女の子がクロムになっていることに、驚きが隠せなかった。


ユニィも、声にならないくらい驚いていた。



「いや、クロムと呼ぶには・・・あの子は不安定だ」


「・・・どういうこと、ドール姉ちゃん?」



ドールの発言に、ユニィが疑問をぶつける。


ドールは口を開き、こういった。



「クロムとは、ヒトの体にスティアセイヴをつけることによってなる、対アルフィの存在だ。 大体はクロムとなって生まれ変わるが、ごく一部稀に、スティアセイヴが体に合わず中途半端なクロムになったり、拒絶反応が生じることもある」


フォルカは女の子の方を見る。


確かにクロムと同様、赤目にはなっている。


しかし、発する言葉がかたことで、いまいち状況の把握が出来ていない様だ。



「エトッ、もう止めろっ!! お前はこんなことする様な奴じゃねぇだろうがっ!!」



ウェルトが叫ぶ。


多分『エト』というのは、あの女の子の名前だろう。


しかし、あの子には届いていない様で、エトはついにウェルトに戦闘を仕掛けてきた。



彼女の攻撃手段は、高速に繰り出される手刀だ。


しかし、高速でもウェルトの体をかすめることも出来ていない。


右、左、右、左と見せかけてまた右等のフェイントをするも彼は避け、はたまた双方にダメージがいかぬよう受け流す。



「すっ・・・すごい」



フォルカの口から思わず言葉が漏れる。


こんなことを言う状況ではないが、そういえるほどあの二人の動きは高度だった。


エトは手刀から、瞬時に拳に切り替え、ウェルトの顔面を打とうとする。


彼なら避けれないものではないはずが、ウェルトは避けず頬に彼女の一撃が入る。


エトがその手を彼の頬から離そうとした時、その小さな手を離すまいとウェルトが掴む。



「止まれっエト!! これ以上こんなことすんなっ!!」


「・・・コンナ、コト?」


エトの動きが止まる。


「ワタシ・・・ナニシ・・・テ」



急に拳が下がる。


やっと、届いたのだ。


エトに・・・ウェルトの思いが。


その嬉しさに、ウェルトの口元が思わず緩む。



しかし・・・。




「やはり、ヒトの世で生きたら貴様でさえ駄目になるか・・・」


「!?」



突如聞こえた、低い声。



その声と同時に、エトがこちらに倒れてきた。


小さな背中には、大きな切り傷がついていた。



「エトッ!?しっかりしろっ、エトッ!!」


「ウェ・・・ル・・・ト」


声がどんどん小さくなり、消えた。


どれだけ体を揺すっても、エトはもう喋らない。



「・・・ッ、エトオオォォオオォッ!!」



こんなにもエトのために叫んでも、ウェルトの目から涙が落ちることはなかった。

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