第24話〜ただいま、さよなら〜
「はああぁっ!」
「どうしたボウズッ、もう限界かぁ!?」
「まだまだぁ!!」
修業をするため、この場に留まり三日が経った。
ウェルトの教え方が上手なので、フォルカは少しずつだが確実に戦い方を身につけていった。
「ほらっ、振りが遅せぇぞっ!しっかりしろボウズッ!!」
「〜〜〜〜〜っ!!!」
「お前のためにこの神さんが神木(という名のそこいらに生えていた木)を徹夜で削ってやったんだからなぁ!!」
「とは言っても・・・この木刀、ムチャクチャ重いし・・・これを削る音が気味悪くて、全然寝れてないし・・・。」
そういいながら、剣先がだんだん下がっていく。
「くぉらボウズッ、剣先を下げるなっ!振れぇ!振って両腕にガッチガチの筋肉を装着するんだっ!!」
「きっ・・・筋肉は装着するものじゃないで・・・。」
「真面目に突っ込むなっ!そんな暇があったら振るんだボォォォウズッ!!」
「ひっ、ひいっ!!」
ウェルトの恐ろしいオーラに、ビビりながらも剣を振り続けた。
「・・・よし、私達も始めましょユニィ。」
「はぁ〜〜いっ!!」
ユニィが術式を展開して、スティアを変換し始める。
すると、体の周りに紅光が集まり、輝きを増す。
ユニィは両手に子供が『カウボーイごっこ』をする時などに使う、指鉄砲をつくる。
「いっくよぉ〜!『ユニィ・カノン』!!」
紅光が指に集まり、先端から弾丸サイズの火球を連続発射する。
威力と弾速は、あくまでも修業なので抑えてはいる。
しかし、弾速は普通のヒトには「速い」と感じるくらいの速度が出ている。
エリアルは瞬時に素器を展開、素早い動きで数発の火球を切り裂く。
「・・・三十六、三十七・・・。」
「はぁ〜〜いっ、本日ラストの特大サイズだよぉ!!」
ユニィは両手を合わせてひとつの指鉄砲をつくる。
その先から今までの火球の中では一番大きなサイズをつくり、射出した。
「負けるかぁ〜〜っ!!」
エリアルは火球に向かって加速。
素器が輝きを放つ。
彼女は火球の横を、真横に素器を振り通過。
すれ違った次の瞬間、火球は細切れになった。
「『光連刃・・・ってね!」
そういってエリアルは、ユニィに親指を立てていった。
「やったねエリアルお姉ちゃん!今までで一番タイムが早かったよ!!」
「本当にっ!?やったっ!!」
エリアルは、ユニィとハイタッチをする。
笑い合っていた時、思わぬ一言が飛び出した。
「ところでさ・・・エリアルお姉ちゃんもウェルト兄ちゃんに実戦的な奴をやってもらえばいいのに、どうして私とやってくれるの?」
「それは・・・。」
エリアルの言葉が詰まる。
彼女に下手なことは言えない・・・。
そんな気持ちが、エリアルの中に渦巻いた。
「・・・エリアルお姉ちゃん?」
「えっ?」
「大丈夫?なんかぼーっとしてるけど・・・。」
ユニィが心配そうにこちらを見てくる。
そんな彼女の頭を軽く叩いて、笑顔をつくりこういった。
「大丈夫よ・・・後ウェルトと修業しない理由は、ユニィと修業した方が私には合ってると思ったからよ。」
「へぇ〜、ちゃんと考えた上で私と修業してるんだぁ〜〜っ!!」
ユニィは、なんだか嬉しそうに微笑んだ。
その笑顔に、エリアルの顔には自然と笑顔が生まれた。
「・・・なんだか楽しそうですね。」
二人を見て、フォルカはそうおもった。
「ああ・・・だがっ!俺はお前をあんなビニールハウス栽培で育った野菜達の様に優しく、温かく修業するつもりはさらっさらねぇ! 肥料も水もろくに与えられねぇ・・・ど根性系野菜も尻尾巻いて逃げ出すくらいの厳しさで、みっちりしごいてやるぜボウズッ!!」
「例えわかりづらっ!しかも、そんなことされたら僕まず無事に帰れないっ!!!」
「そんな弱音を吐くなっ!仮にも俺の修業について来てるんだか・・・っ!?」
急にウェルトの無理理論が止まる。
「どうかしました?」
「・・・何かくるぞ。」
「何か?」
耳をすましてみると、何かが氷の上を滑る様な音が聞こえる。
「っ!」
いきなりウェルトが、フォルカの体を突き飛ばす。
何事かと思い顔を彼の方に向けると、自分が立っていたところに突如、氷の道が出現。
その上を、高速の何かが通る。
しかしその何かが、フォルカ達の目の前でピタッと止まる。
何かの正体は、フォルカが忘れようにも忘れられない存在だった。
「・・・ドールッ!!」
「・・・探したぞ、フォルカ。」
とっさに素器を構えるが、すぐに剣先が下がる。
何故ならドールの後ろにいたのが・・・
「・・・フォルカッ!」
「ク・・・ラス?」
フォルカとエリアルの、一番会いたかったクロムだったから・・・。
そこには消えかけた電灯があった。
そこには灰色の壁があった。
その壁には赤い液体が付着していた。
その床には数十体のクロムが倒れていた。
その近くにはマスター達も倒れていた。
その中に一人だけ立っているものがいた。
「・・・くぁ・・・はぁ・・・。」
苦しさに満ちた声が、広い廊下に哀しく響く。
体の至るところには、生々しい傷ができており、見てるだけでも痛々しかった。
「うっ・・・フォ・・・ルカ・・・。」
彼は壁に寄りかかる。
彼の着ていた純白の服も、今では己の血と返り血で深紅に染まっている。
「ぐっ・・・・・・。」
徐々に視界がぼやけてくる。
それは、己の限界が近いことを物語っていた。
彼は震える手を伸ばす。
そこには何もないけれど・・・。
「父・・・さん・・・俺も・・・そろそろ、限界・・・みたい・・・だ。」
---約束、守れなくてごめん・・・。---
段々痛みを感じなくなってくる。
(・・・フォルカ、こんな駄目兄貴で・・・ごめんな・・・。)
そうおもった時・・・
「残念だけど、まだ死なせないよ。」
誰かの声が聞こえた。
声の感じからして少年の様だが、もう誰なのかを判別する気力でさえ残っていなかった。
「君はね・・・彼女を再びこちらに引き入れる為の駒になって貰うんだからさ・・・。」
「・・・あっ・・・・・・。」
その言葉と同時に、彼の・・・フィニカの意識は遮断された。
「・・・シェリナー、彼を運ぶの手伝ってよ。」
「ふふっ、重いものを運ぶのは男の仕事よ・・・ナイト。」
「・・・君って奴は。」
二つの影は、フィニカを見下ろし続けた。
新たな脅威が・・・動き始める。