表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/47

第23話〜檻の外へ羽ばたく者、とどまる者〜



私は・・・一人で部屋の隅に座っている。



ここは檻・・・閉じこめられてはいるけれど、言い方をかえれば危ない物から私を守ってくれる『盾』となる。



ここにいれば安全・・・そう思っていた。



・・・つい最近までは。



昨日、ナイトが二人の・・・フィニカとドールの『よからぬ考え』を教えてくれた。



『二人は君を・・・殺そうとしているんだ。』



話が本当なら二人は・・・。



ナイトが来てから、誰も会いに来なくなった。



・・・このまま、誰も来なければいい。



少女・・・クラスは、心にそう思った。






話を聞いてから、二日経った夜。



何も変わらない壁を、クラスはぼーっと見つめていた。



「・・・・・・。」



ただ時間だけが過ぎていく。



目線を扉を方へ向ける。



扉は、全く開く気配がない。



「・・・・・・。」



今日がやっと終わる。


そう思った時・・・。



-----コッコッ。



廊下から、二人分の足音が聞こえた。



「・・・・・・っ。」



恐る恐る耳を傾けると、足音がどんどん近づいてくるのがわかる。



(・・・どうか、通り過ぎて下さい。)



クラスは強く願った。



しかし、近づいてくる足音は、自身の部屋の前でピタッと止まった。



ノックを二・三回してきたが、彼女は返事を返さずに就寝を装った。



だが、相手側はクラスが起きていようが寝ていようが関係ないらしく、返事がないとわかれば、ドアノブを回し、扉を開けてきた。



入って来た二人のうち、片方の男性が、



「・・・起きているんだろう、クラス。」



と言ってきた。


クラスは、ゆっくりと振り向き相手側の顔を確認した。



「フィニカさん、ドール・・・。」



二人は、思っていた通りの『今一番会いたくない』二人だった。



「・・・二日ぶりだな、元気にしていたか?」



ドールが、珍しく話を振ってくる。



・・・けれど、返事はしない。



「・・・どうした?」



「・・・別に、お二人こそこんな夜中に何の用ですか?」



素っ気なく答え、質問で返した。



「いや・・・少し聞きたい事があってな。」



フィニカが、短く答えた。


「手早く済ませたいから、さっそく聞くが・・・いいか?」



彼は、二日前と変わらない優しい声と、暖かな笑顔で話しかけてきた。



・・・この笑顔をしている人が、私を殺そうとしている人なんて・・・信じられないくらいの、笑顔で・・・。



「では一つ目の質問、これは今感じたことなんだが・・・。」



彼の優しい目付きが、急激にどことなく寂しさを秘めたものに変わった。


「なぜ俺達に殺気をだす?もうお前に危害を加えない事はわかってもらえたと思ったんだが。」



「・・・敵であることに変わりはありません。」



その言葉に、一瞬間が空く。



そしてすぐ・・・



「そうか・・・、では次の質問だ。」



と言った。


気のせいかも知れないが、彼が少し寂しそうに見えた。



「・・・お前は、ここから外に出たいか?」



「えっ・・・。」



クラスは、驚きが隠せなかった。



自分をここに連れて来た人が、ここから出たいかと言ってきたからだ。



「・・・出られるなら外に出たいですが、ここの警備は極めて難しいものですし・・・。」



「はっきりと言ってもらいたい・・・外に出たいのか、出たくないのか?」



・・・本音を言うと、外に出たい。



フォルカやエリアルに・・・会いたい。



「外に・・・出たいです、しかし・・・ナイトのことも心配ですし・・・。」



ナイト・・・自分のことを気に掛けてくれるクロム。


彼は、いつもこちらに笑いかけてくれていた。



そんな彼を置いて・・・行けるわけがない。



「・・・。」



ドールが、クラスの目の前まで近づいてきた。



そして、ゆっくりと口を開き、思いもよらない一言を言った。



「そのナイトが先日・・・フォルカとエリアルを襲った。 正確には、二人と仲間のアルフィと僧侶をだ。」



「!!」



彼が・・・二人を、襲った!?



「そんな・・・。」



「信じられないのなら・・・これを見ろ。」



そういってドールが、一枚の紙を取り出した。



「それは・・・奴の事を極秘に調べた時に、奴の部屋から見つけた物だ。」



紙を受け取り、見てみる。

そこには、『ナイト・任務内容』と書いてあった。



さらに目を通して見ると、思わず息をのむ内容が記されていた。



『クロム研究施設長より、私のクロム・ナイトに任務を与える。私達の最重要機密・クラスと関わったものを全て排除せよ。』



「最重要機密・・・私が・・・。」



クラスはわからなくなってしまった。


何が真実で、何が嘘なのかが。


そして・・・自分が何者なのかが・・・。



「クラス・・・。」



フィニカの優しい声が聞こえる。



「・・・信じられないかも知れないが、そこに書かれている事は事実だ。」



「・・・・・・。」



「事実だからこそ、お前をここに置いておくわけにはいかないんだ。 だから・・・。」



クラスの目の前に、手が差し出される。


そして、彼はこういった。


「俺達と一緒に外に出よう、クラス・・・。」



「私は・・・。」



フィニカの方を見る。


彼は手を差し出したまま、こちらの返事を待っていた。



私の返事は・・・。



「私は・・・外に出たいです。 フォルカ達とまた一緒にいたい。」



檻の外を選んだ。


彼の手に、そっと自分の手を重ねる。



すると、フィニカの顔には優しい笑顔が浮かび、手を離さぬ様に握ってきた。


クラスも、それに答える様に握り返した。



彼は、ドールの方を向き、こういった。



「ドール、クラスに作戦を。」



「はい、フィニカ様。」


彼の方を見て頷くと、ドールはこちらを向いて作戦を話してくれた。



「私達は今から、物資の補給の際用いられるエレベーターを目指す。 そこは外に直接つながっているから、脱出はそれほど困難ではないだろう。」



「わかりました。」



彼女の返事に、ドールも軽く頷いた。



「よしっ、二人とも行くぞ!」



三人は気配を消し、廊下を移動する。


その時・・・廊下に設置されていたランプが、クラスが通り過ぎた途端に赤い光を発し、大きな音が鳴り始めた。



「っ!?」



「しまった、クラスのバッチかっ!」



そういうと、彼は目にも止まらぬ速さで、ナイトが彼女に渡したバッチを取る。

しかし、時既に遅し。


後方から、いくつもの足音が聞こえてきる。



「フィニカ様、急いでこの場を離れましょう。」



「わかってる、急ぐぞっ!!」



「「はいっ。」」



三人は再びエレベーターのある方へ走りだした。



しばらく走り続けていると、十組近くの研究員とクロムが進行方向上に出てきた。



「反逆者めっ、ここは通さんっ!」



「・・・緑髪以外・・・排除する・・・。」



そういって、十体程のクロムがこちらに猛スピードで突撃してきた。



「フンッ、ろくに戦闘もした事ないヒヨッ子どもが・・・。」



ドールが二人の前に出る。

彼女の両手には、既に『水素スティア』を収束させていた。



「私達を止められると思うなっ!」


左手の蒼光が強くなる。


左手を、接近してくるクロム達に突き出した。



「『水壁アクア・ウォール』!!」



クロム達の体を、壁の様な水が包み込む。


思うように体を動かせない彼らに対し、彼女の右手はまだ輝き続けている。



凍結フリーズ』!!」



そう叫んだ瞬間、水だった壁が氷柱へと変化し、クロム達の自由を奪う。



「『昇華ヒート』!!」



氷柱が一瞬で高温になり、蒸発。



その際に上がった水蒸気から、クロム達の姿が確認出来た。


彼らの体の所々に、焼け焦げた後がある。



「なっ!?」



研究員達の顔に、驚きの表情が浮かぶ。


「ドールは水素スティアの扱いはエキスパートだ、お前達では勝てんさ。」



「すいませんが・・・通らせていただきます。」



「!!?」



いつの間にか二人が自分たちの近くにいたことに動揺し、護身用に持っていたナイフ型の素器を取り出す。


しかし、すでに技の構えをとっていた二人を、止められるはずがなかった。



クラスの両足に紅光が収束する。



「いきますっ、『炎脚えんきゃく』!!」


地面に両手をつけ、逆立ちの様になったと思うと、両足を勢いよく回転させる。

しかも足には炎素スティアが収束しているため、一瞬で足が炎に包まれる。



「はあぁぁっ!!」



炎の灯る足で、二人の研究員を蹴り飛ばした。


廊下の壁に激突した二人の胸部には、はっきりと火傷が残った。



一方フィニカは、三人の研究員を相手にしていた。


左右から来た研究員を、槍を横にし相手の動きを一瞬止めて、右斜め上方向に回転して二人をほぼ同時に切り裂いた。



「ドールッ!」



「はい、水素スティア放射っ!」



ドールから放たれた蒼光が、彼の槍に宿り輝き始める。



「なにっ!?」



「これが素器の使い方だっ!!覚えておけっ!!」



持っていた槍を、自分の前で回転させる。



「水素スティアッ、展開!!」



フィニカがそういった時、回していた槍から水が出現。



その水が渦となり、研究員を飲み込む。



渦の中心のわずかな隙間、そこに何かが見えた。



見えたのは・・・。



「ぐわあああっ!!!」



槍を手にした青年だった。


「『水龍槍・すいりゅうそう・たか』。」



フィニカが通り抜けたときに水が止み、研究員が床に落ちた。



(・・・すごいです。)


「どうしたクラス、ぼーっとフィニカ様を見て。」


「いえ、私にもあのような事が出来るのかと思いまして・・・。」


「まぁ出来るだろう、脱出したら私が教えてやろう。」


「はい。」



二人は、フィニカのいる方へ走りだす。



早くここから脱出するために・・・。






「はああぁっ!」



槍を横に振る。



新たに来た増援の最後の一人を、たった今仕留めた。


「ふぅ・・・ここまで数が多いと、さすがに辛いな。」



「フィニカさんはヒトですから、あまり無理をしないでくださいね。」



クラスがそういって、こちらに気を遣ってくれた。



「フィニカ様、ありました。」



ドールが、小さな扉を指差す。


扉の側にスイッチがあるので、エレベーターで間違いないだろう。



「急いで入ってくれ、増援が来てしまう。」



「はい。」



始めにクラス、次にドールがエレベーターの中に入る。



「さぁ、フィニカ様も早く。」



振り返り、自分のマスターへ手を差し出す。



しかし、彼はこちらに背を向けて立ったままでいた。


「何をしているのですかっ!?お急ぎ下さい、増援が来ますっ!!」


「ドール、このエレベーターの操作法を覚えているか?」


「もちろんです、外側にあるスイッチを・・・っ!!」


「そういう事だ・・・。」


彼はこちらを向かず、話し出した。



「このエレベーターは物資を運ぶ為のもの、普通ヒトやクロムが乗るものではないからな・・・外側にしか操作出来るとこがないんだ・・・だから。」



「フィニカ様を残して行けませんっ!私も共に・・・いえっ、私が残ります!ですから早くこちらにっ!!」



彼女は叫び続ける。


少しして、彼はこちらを向く。



ドールは、彼が来てくれると思い、ホッとする。


しかし・・・




「増援が来たようだ・・・ドール、クラスを頼む。」


「っ!!?」



フィニカは開閉スイッチを押し、再び背を向ける。



エレベーターの扉が、閉まり始める。



「フィニカさんっ!!」



クラスの叫びも、彼には届かない。


そんななか、扉の僅かな隙間から何かが入って来た。


「これは・・・私のブレスレット。」



それと同時に、フィニカの声が聞こえてきた。



「それをとられてしまったら・・・お前を巻き込んでしまうからな。」



「・・・・・・。」



「ドール、最後の命令だ・・・。」



彼が、顔だけこちらに向けた。



「自分の意志で・・・生きるんだっ!」



彼の不器用な笑顔が見えたのと同時に、エレベーターの扉が閉まった。



「・・・行ったか。」



多くの足音が近づいてくる。



「俺の体は・・・どれくらいもってくれるか・・・。」



足音が止まる。


そこには数十体のクロムと、マスターが立っていた。


フィニカは、振り返り槍を構える。



そして、彼らを睨み付けてこういった。


「・・・こいっ、お前達の相手は俺だ!!」






エレベーターがどんどん下降していく。


そのエレベーターの中に、クラスとドールは立っていた。



「・・・フィニカさん、どうか無事でいて下さい・・・。」


「フィニカ様が助かる可能性は・・・ゼロにひとしい・・・。」


「えっ!?」



彼女の一言に、驚きが隠せなかった。



「あれだけのクロム相手に、ヒトであるフィニカ様が勝てるわけがない。」


「・・・・・・。」



しばらくの間、静寂に包まれた。



しばらくして、ドールが口を開く。



「フィニカ様は私に『自分の意志で行動し、生きろ』と言ってくれた・・・だから私は自分の意志で、フィニカ様の分までお前を守り抜こう。」



「ドール・・・。」



エレベーターが止まる。



「クラス・・・私に捕まれ、扉が開いた瞬間一気に突き抜ける。」



「はい・・・。」



クラスは、彼女の左腕に捕まる。



ドールの足元には、すでに蒼光が収束していた。



エレベーターの扉が・・・開くっ!



「・・・今だっ!!」



突如、ドールの足元から一直線にヒト一人歩けるくらいの氷の道が出来る。



その上を、ドールとクラスは猛スピードで滑っていく。



「敵がいませんね。」



「外にはまだ、詳しい情報が流れていないらしいな・・・。」



二人はどんどん加速し、施設から離れていく。



彼が・・・フィニカが助かるという、僅かな希望を願いながら・・・。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ