第22話〜現実〜
「・・・ふぅ。」
「これで・・・二匹目ね・・・。」
二人は思いのほかスムーズに、魔物(とはいっても見るからに弱そうな奴)を二匹狩ったところだった。
「思っていたより楽ね、ここの魔物を狩るの。」
「うんっ、でも油断は出来ないよ。」
「そーね・・・ところでさっ、肉ばっかじゃ体に悪いと思わない?野菜的なものも必要よね?」
「まぁ・・・そうだよね。」
「でしょ!?そうと決まればさっそく採りに行きましょうよっ!ここにくる途中に食べられそうなのを見つけたのよねぇ〜!」
そういうと、エリアルは来た道を走って帰り出した。
「あっ!?ちょっとエリアルッ!!この魔物たち、どうするのさ!?」
フォルカはエリアルを引き止めようとしたが、既にエリアルの姿は見えなかった。
「・・・持って帰らないと、あの二人・・・怒るよね。」
目からあふれそうになった涙を拭い、フォルカは倒した魔物たちの方へ歩きだした。
「えっと〜・・・確かこのあたりにあったとおもったんだけどなぁ〜。」
エリアルは辺りを見回し、行きに見つけた『食べられそうな植物』を探す。
「おっかしいなぁ〜・・・確かに見たんだけどなぁ・・・・・・あっ!」
エリアルの目に写る、地面から少しはみ出ている、朱色の根・・・。
そう、エリアルが見つけた植物とは『ニンジン』だった。
「良かった、私の見間違えじゃなかったぁ〜・・・んっ?」
エリアルの目に、ニンジンとは違う、奇妙な物体が目的物の隣にあることに気付いた。
白くて、何だかふさふさしてそうで・・・。
(・・・何、あの毛玉(?)。)
次の瞬間、毛玉(?)の形が変わる。
まるっこい形をしているのは変わりないが、誰もが見たことのある真っ白く立った耳と、口元から覗く二本の歯が、エリアルの頭にある生物を連想させた。
(・・・ウサギ?)
エリアルの思った通り、確かにあの生物はウサギの外見をしている。
しかし、ウサギと呼ぶにも何かが違った。
なにせ・・・あんなにも図体が大きく(軽くエリアルの二倍はあるように見える)、チャームポイントの前歯は完全に獲物を刺す凶器に変わっている。
これに、『キャアッ、可愛い!!』と言って抱きつこうものなら、確実に殺られる。
(私って・・・ムチャクチャついてない。)
自分の運のなさを恨みつつも、エリアルはゆっくりと後方に逃げようと後退る。
すると、足元から・・・
-----パキッ。
「っ!!?」
足元から、乾いた音がした。
足元に目線を落とす。
・・・木の枝が折れていた。
(なっ、なんてベタなっ!)
次の瞬間、ウサギの方から言葉では表しきれないような雄叫びが聞こえた。
・・・こちらの存在が、完全にばれてしまったのだ。
「・・・やるしかないって訳ね。」
エリアルは、短パンのポケットから自分の素器を取り出し、展開した。
(大丈夫よ・・・さっきだって魔物を倒せたんだから・・・。)
エリアルは素器を構え、ウサギの方へ意識を集中させる。
ウサギは、こちらに向かって来ているようだが、動きは決して速くはない。
むしろ、遅いくらいだ。
(これくらいの移動速度なら・・・。)
「私一人でもやれるっ!」
そういってエリアルは、ウサギの正面へ走った。
自ら自分の方に向かってくるエリアルは、いわばウサギの格好の的である。
好機と言わんばかりに、ウサギは前歯の狙いを定める。
そして、ウサギは前歯をエリアルに向かって振り下ろした。
エリアルは、待っていたと言わんばかりに笑みを浮かべ、前歯をすれすれで回避。
ウサギは突然のエリアルの回避行動に、バランスを崩して前方に倒れる。
エリアルはすぐさまブレーキをかけ、ウサギの方へ再び走った。
・・・今度はあいつを、ウサギを仕留めるために。
「どりゃあぁぁっ!!」
エリアルは、素器をウサギの腹部に突き刺し、力をおもいっきり込めて右側に切り払った。
ウサギから、断末魔が聞こえる。
「・・・っはぁ・・・はぁ。」
エリアルは、荒くなっていた呼吸を整える。
「なっ・・・なんだ、私も・・・強くなってるじゃない。」
ウサギの方を見る。
・・・動かない。
「・・・ふぅ。」
エリアルはホッとして、展開していた素器をしまう。
-----その刹那っ。
"ヴァギャジャアァァアッ!!"
「っ!!!?」
突如ウサギが動きだし、体を起こし、ウサギ特有の脚力で巨体を宙に浮かせた。
「なっ!?」
エリアルが気付いた時には、すでにウサギの体は落下を始めていた。
ウサギの体が地に落下した時、地震に似た強い振動が起きた。
「きゃっ!?」
その振動に、エリアルの体は、先ほどのウサギとまでは行かないが宙に浮いた。
地面に右肩から落下し、強打する。
「っ!!!」
エリアルは、痛みに顔をしかめた。
しかし、そんな事はお構い無しにウサギがエリアルの方に前歯を向ける。
「くっ・・・そ、まだ・・・動けたなんて・・・。」
エリアルはそういって立ち上がろうと両腕に力を入れるが、右肩の痛みが思うように力を入れさせてくれない。
ウサギの前歯が、こちらに振り下ろされた。
回避は・・・間に合わない。
エリアルは、目を瞑る。
そして思う、『せめて痛くないように』と。
・・・その時。
「エリア〜〜ルッ!!」
フォルカの声が聞こえた。
(フォルカ・・・逃げて、私達じゃこいつは倒せない・・・。)
-----キイィィィンッ!
エリアルの耳に、何かがぶつかり合う音が聞こえた。
「・・・?」
エリアルは目を開ける。
目の前に写ったのは・・・
「・・・フォルカ。」
「だっ、大丈夫?エリアル。」
自分の素器で、ウサギの前歯を防いでいるフォルカの姿があった。
「このぉぉぉっ!!」
フォルカは、素器を振り上げて前歯ごとウサギを押し返す。
ウサギは、バランスを崩し頭から倒れる。
「エリアルには・・・指一本触れさせないっ!!」
・・・なんだろう、フォルカが主人公らしく見える。
そんな事を思っていたら、フォルカの素器が、白く光出した。
・・・フォルカの気持ちを感じ取ったかのように。
「うおぉぉぉっ!!」
フォルカが、光出した素器を構え、ウサギの方へ走る。
「くらえっ、『光刃衝!!」
光る素器を、ウサギの胸部に突き立てる。
そしてその突き立てた素器が放っていた光が、炸裂してウサギから奇声が上がる。
ウサギは倒れ、今度こそピクリとも動かなくなった。
「・・・ふぅ、大丈夫?エリアル。」
「えっ・・・うん・・・フォルカ、今のって何?」
「それが・・・よくわからないんだ、ただエリアルを守りたいって思ったら・・・素器が急に光出して、今の技の名前ややり方が浮かんできたんだ。」
「・・・そう。」
エリアルは、短く答えた。
そしてそのまま、自分の中に思いを張り巡らした。
(フォルカ・・・一緒に旅をし始めた時には剣を一苦労だったのに、もう追い抜かれたの?そんな・・・。)
クラスと二人でいたときには、はっきり言ってクラスに頼りきりだった。
だから、フォルカが一緒に旅をしたいって言った時には、叩いちゃったけど嬉しかった。
フォルカには悪いけど、自分より頼りない人が来たから・・・ずっと上でいたかったんだ。
でも・・・追い抜かれてしまった。
また、自分を甘やかしてしまった。
「・・・エリアル?」
「・・・えっ!?」
「大丈夫?くらい顔してるけど・・・。」
「・・・大丈夫、・・・ねぇフォルカ。」
「なに?エリアル。」
私・・・もう自分を甘やかさない様に頑張るよ。
もうあんたを追い越す事は出来ないかもしんないけど・・・頑張ってあんたと肩を並べて戦える様になるから。
だから・・・
「負けないからねっ!」
「?・・・何に?」
「フフッ、ほら早く!ウェルトたちが待ってるっ!」
そういってエリアルは、フォルカの倒したウサギの方へ走った。
・・・今日一番の笑顔を浮かべて。
クラスは黙って床に座っていた。
最近は、フィニカとドールが頻繁に会いに来てくれるので、退屈はしていないからだ。
「・・・そろそろ二人のどちらかが来る時間ですね・・・。」
「今日はどちらでしょうか?」と呟きながら、ずっと待っている。
しばらくして、コンコンッとノックする音が聞こえた。
「どうぞ・・・。」
ゆっくりと扉が開く。
入って来たのは・・・。
「久しぶり、クラス。」
「あっ・・・ナイト。」
「覚えてくれてて嬉しいよ。」
クラスと同じ、スティアセイヴを持たないクロム・『ナイト』だった。
「元気そうで何よりだよ・・・。」
「ナイトこそ、最近見なかったので・・・元気そうで何よりです。」
「ず〜っと会いに行きたかったんだけど、仕事が忙しくってね・・・。」
そういって、ナイトが少しはにかむ。
「・・・寂しくなかった?」
「大丈夫でしたよ、フィニカさんとドールが来てくれてましたし・・・。」
「フィニカとドールが?」
ナイトが急に、クラスの肩を掴み、こういった。
「いいかいクラス、彼らに心を奪われてはダメだ。」
「えっ?・・・どういうことですか?」
「彼らは君を・・・殺そうとしているんだ。」
「私を・・・殺す?」
フィニカの楽しそうに話す姿も、ドールが最近見せてくれるようになった微笑みも・・・私を殺すための嘘?
クラスは、しばらく何も喋れなかった。