第20話〜僕の兄に愛を込めて〜
「・・・ぜぇ、・・・ぜぇ。」
出だしでいきなり、息切れしててすいません。
でも・・・本当につらいんです、死にそうなんです。
「・・・大丈夫?フォルカ。」
「大・・・丈夫・・・だよ・・・エリ・・・ア・・・ル。」
「そんな消えかけた声で言われても、説得力がないわよ。」
でも・・・、エリアルの言葉で少し元気がでて・・・。
「どうしたボウズッ!その程度で疲れたとか言うんじゃねぇだろうな!?」
「体力なさすぎだよ!フォルカお兄ちゃんッ!!」
・・・身体中の活力が削ぎとられた。
何であの二人は、あんなに元気なんだ。
理由はとても単純、彼らの荷物を僕一人が持たされているからだ。
「ぜぇ・・・なんで・・・僕だけ・・・。」
「知らないのフォルカお兄ちゃん?男の人は常に『じぇんとるまん』じゃないといけないんだよ、『じぇんとるまん』は『れでぃーふぁーすと』を心がけてるから、女の子に重い物をもたせちゃいけないんだよ〜。」
「・・・レディファーストって・・・女の人に順番を先に譲るとか・・・そんなんじゃなかったっけ?・・・それに・・・ウェルトさんは・・・女性じゃないし・・・。」
ウェルトは、フォルカに指を差し、こういった。
「俺はっ、穣ちゃんらの荷物を持とうと思った!だがなっ、ボウズの・・・インドア系もやしっ子ボディを見てたら『俺がアウトドア系信者ボディに鍛え、救済せねば』という神としての使命感が芽生えてしまった!なのでっ!今からボウズに体力をつけ、ボウズが倒れて今日一日(別名・第20話)が終わるなんていうベタなオチを回避する!ありきたりな一日の終わり(第20話の終わり)なんて神である俺に相応しくない、絶対にそんな事させるかぁ!!」
「・・・なんか目的がずれてるような・・・。」
「うるせぇボウズッ!!細けぇこと気にしてたらハゲるぞっ!!」
「えぇっ!?」
フォルカは、咄嗟に頭を両手で押さえる。
その反応を見て、ウェルトは腹を抱えて笑った。
「あ〜っはははははぁ!!!」
「ひっ・・・ひどい。」
「・・・フォルカ、あんたさぁ・・・本っ当フィニカさんだっけ?・・・あの人と真逆って感じね。」
「エッ・・・エリアル、兄さんの事は・・・。」
フォルカの顔には、焦りが満ちあふれていた。
次の瞬間、フォルカはこちらにフォルカなりの全力疾走で走ってきた。
そして、小声でエリアルに言った。
「どうしてここで兄さんが出てくるんだよ!?・・・絶対にあの二人にいじられるよ〜・・・。」
「あっ・・・ごめん。」
エリアルは謝った・・・けど刻すでにおそし!!
ウェルトとユニィの方を見ると、スッゴく気持ち悪く・・・何というか、まとわりつくような視線でにやけ顔の二人がいた。
「フィニカってぇ〜・・・確かフォルカお兄ちゃんのお兄さんの名前だよねぇ〜。」
「ほぉ〜〜・・・ボウズには兄貴がいたのかぁ〜、さぞかしボウズに似ていじりが・・・鍛えがいがあるんだろうなぁ〜〜・・・。」
今、『いじりがいがある』っていいかけたよあの人!
「私ィ・・・超気になるなぁ〜〜、フォルカお兄ちゃんのお兄さんの事。」
「詳しく教えてもらおうか、ボウズゥ〜〜。」
ううっ・・・いつもよりも優しい口調なのに、いつもよりも怖いよ・・・。
「どうしたボウズ?早くお前の兄貴の事を教えろよ・・・。」
「教えてくれないなら・・・フフッ。」
笑って誤魔化したけど、あれに入る単語は、きっと僕を恐怖のどん底にたたき落とせるような単語に違いない。
・・・仕方ない、詳しくは無理だけど・・・あやふやにでも兄さんをイメージできるくらいアバウトな情報を教えよう。
「・・・えっと・・・賢くて、運動神経抜群で、とっても優しい兄さんだよ。」
「ありきたりで面白くない。」
「外見の情報をよこせ。」
うわっ!?急に口調が冷たくなった!?
・・・外見なら、伝えやすい言い方が・・・。
外見は、僕を大人びさせて、明るく強気にした感じです・・・。」
「何だよそれっ!兄弟そろって同じ様な面してんのか!?なんて面白みに欠ける兄弟なんだ!!」
「ちょっとウェルトさん、兄さんの悪口(?)を言わないで下さい!!」
「面白みに欠ける上、弟の方はブラコンかよ!? なんつうか・・・兄貴も大変だなぁ。」
「兄さんを同情するような言い方しないでください!僕、何も悪い事してませんし・・・。」
ウェルトさんを相手にすると、後の疲労感が半端ないから・・・出来るだけ話をそらしたい。
「フッフフゥ〜〜〜ン、ララルル〜〜ラァッ!」
急に、とてつもなくありきたりな鼻歌が聞こえきた。
鼻歌の主は、何とも楽しそうにお絵かきをしているユニィだった。
「〜〜〜っと、よしっ出来たぁ〜!」
ユニィが掲げた絵は、珍しく青色のほかに、黒色と赤色と紫色の、合計四色で描かれていた。
何を描いたかというと・・・。
「・・・ユニィ。」
「なぁ〜〜に?フォルカお兄ちゃん。」
「この・・・いかにもゲームとかでは魔王クラスはある、槍を持った上半身裸のムキムキな人はいったい・・・?」
「それはねぇ〜〜、フォルカお兄ちゃんのお兄さんだよ〜!」
・・・これが兄さんっ!?
確かに槍は持ってるけど・・・ユニィが描いた兄さん(?)は、槍なんかなくても相手をひねり潰しそうなくらい過剰な筋肉がリアルに描かれている。
「いっ・・・いったいどう考えたらこんな恐ろしい事になるんだよ!」
「だってぇ〜、フォルカお兄ちゃんの真逆って感じ何でしょ〜?」
「あくまで性格が逆なだけだよっ! 見た目は僕を大人びさせた感じって言っただろう!?」
「ぶぅ〜〜〜!!」
ユニィが、ほっぺたを膨らませ、明らかな不満を訴えてきた。
その時、ヒョイッとエリアルがユニィの絵を取った。
「ふぅ〜〜ん・・・これがフィニカさんかぁ・・・、似てんじゃないの?」
「本当っ!?エリアルお姉ちゃん!!」
「ちょっとエリアルッ!?コレのどこが兄さん何だよ!?」
「いやぁ〜、正直言うとフィニカさんの事さ・・・はっきり覚えてないんだよねぇ〜。 全身にモザイクがかかってるというか・・・。」
「モッ、モザイク!?」
なんてことだ・・・二人の相手がただでさえ大変なのに、エリアルまでボケ(?)に回ってしまうなんて・・・。
「・・・ユニィ。」
「んっ?なに、フォルカお兄ちゃん。」
せめて、イラストを描くユニィには・・・兄さんの外見をきちんと理解してもらおう。
「兄さんはね、黒い服はそんなに着ないんだ・・・それに、兄さんは私服の上に白い・・・。」
「白い・・・バスローブ!?」
「バッ・・・バスローブ!?」
どういう発想をしてるんだこの子はぁ!
私服の上に、バスローブ!?兄さんは変態かっ!?
「ほぉ〜〜、ボウズの兄貴はバスローブを着て、槍をぶん回すような奴か・・・こりゃ一筋縄じゃあいきそうにないな。」
「えっ!?ちょっ・・・バスローブは決定事項何ですかウェルトさん!?」
そんな兄さん、僕も嫌だ!
「なんか燃えてきたぜ・・・この調子でボウズの兄貴を完成に近づけるぞ!!」
「おぉ〜〜〜!!」
「あっ、私は聞いとくだけでいいわ。 あんたたちの発想にはついていけそうにないし・・・。」
「やっ・・・やめてぇ〜!兄さんを汚さないでぇ〜〜!!」
「・・・・・・。」
どれくらい時間が過ぎただろうか・・・。
未だに三人(しゃべっているのは二人)は、兄さんの捏造に励んでいた。
あれから、『食事の時にも槍は手放さない』とか、『風呂の時にバスローブを着たまま入浴』など、兄さん(彼らの想像内での)がどんどん変態の道をかけのぼって行ってる。
・・・僕が、止めないとっ!!
エリアルは、いつの間にか寝ちゃったし・・・もうあの二人を止めれるのは、僕だけだ!
・・・そりゃ、あの二人は反則級に強い(ウェルトさんが圧倒的に)けど・・・大切な兄弟が変態にされてしまったんだから、一発はやってやらないと!!
(・・・力を貸して、兄さんっ!!)
心の中で、兄さんに力を借りた。
そうだよ、いくら強いっていってもしょせんは生身・・・僕と(実力以外は多分)かわりないから、勝てないと決まった訳ではない。
僕は今、二人の後ろにいる。
先制攻撃を仕掛けるには、もってこいのシチュエーションだ。
・・・行きますっ!!
僕は、無我夢中に二人のいるほうに走った。
二人は話に夢中で、僕の存在を認知してない。
・・・普段、影が薄いからかな? なんか悲しい。
でも今は、そんな事関係ない。
あのウェルトさんにも、僕の存在を認知されていないんだから。
僕は、懐から素器を取り出し、スイッチを入れて展開。
昔、兄さんが木の棒を使って使用していた技・・・今なら使える気がする。
ウェルトさんが、僕の存在に気付いたらしく、振り返る。
しかし、僕はもうウェルトさんを素器でとらえられる距離にいた。
・・・兄さんをバカにした事を後悔しろ、食らえっ兄弟の絆パワー!!
「うおりゃぁぁっ!絆奥義っ!!『峰打ち』!!」
「なぁっ!!?」
そういって振りかぶった素器は、なんとウェルトさんの腹部にヒットした。
ウェルトさんが倒れる。
「えっ!?ウェルト兄ちゃん!!こっちに倒れてこない・・・ふみゅっ!!」
ユニィは、倒れたウェルトさんの下敷きにされた。
「やっ・・・やった、僕にも出来たんだっ!!」
僕は嬉しくて、つい叫んでしまった。
だって・・・あのウェルトさんとユニィを倒せたんだもの、嬉しいに決まっている。
「フォ・・・フォルカ、それ・・・。」
「・・・んっ?」
僕は、エリアルが指を差しているのを不思議に思った。
「どうしたの?エリアル。」
「うっ・・・後ろ。」
「後ろ?・・・・・・っ!!」
後ろを見ると、徐々に体を起こして、立ち上がろうとしているウェルトさんがいた。
「ひっ!?」
「ボォ〜〜〜ウズゥ〜〜。」
ゆっくりと、こちらに歩いてくる。
今、ウェルトさんの目には優しさが微塵も存在していない。
「不意討ちたぁやってくれるじゃねぇか、少しは見直した・・・だがな、俺を気絶させられなかったのがてめぇの敗因だボウズゥ!!」
ウェルトさんの右手に、白光が収束する・・・ヤバイッ!!
「さぁ特訓だボウズ・・・内容はとってもシンプルに、俺の攻撃をひたすら避け続けてもらおうかっ!!」
「えっ!?そんな・・・急に言われてもっ!!」
「問答無用っ!!喋る余裕があるなら手足を動かせっ、いくぞっ!!」
そういうと、白光の光線をこちらに射出してきた。
「うわぁぁ〜〜っ!!」
「この程度でビビってんじゃねぇぞっ!!」
すぐさまウェルトさんは、第二波を収束させて放とうとします。
・・・助けて、兄さん。
「・・・・・・っくしゅんっ!!」
「大丈夫ですか?フィニカ様。」
「ああ・・・だが、なぜ今日はこんなにもくしゃみが出るんだ?」
「風邪を引かれたか、何者かがフィニカ様の噂をしているのでは?」
寒気はしない・・・それに体も全くダルくない、風邪ではないから・・・ドールの言う通り、誰かが俺の噂をしているのだろうか?
「風邪だといけませんので、今日は温かくしましょう。 何か羽織れそうなものを探して来ます。」
そういうと、ドールは部屋から出ていった。
・・・他人はドールは冷酷だというが、そこいらのクロムよりも気のきく、良い奴だと思うんだがな。
ただ、彼女は戦闘向けのクロムだからな・・・家事などは少し苦手らしい。
でも、俺が教えてやったらすぐに覚える素直さがあるから、あいつはきっと・・・いやっ、絶対にいいクロムになる。
「・・・フィニカ様。」
「んっ、早かったな。」
彼女は、早足でこちらに来て、手に持っていたものを差し出してきた。
俺はそれを受け取り、ひろげる。
とてもきれいで、汚れ一つない、真っ白な・・・
「・・・バスローブ?」
「・・・すいません、羽織れそうなのはそれしかありませんでした。」
ドールがわざとこんなことをするわけがない・・・きっと、皆が揃いに揃って寒がりなんだろう。
俺は、ドールの善意に答えるために、今日一日バスローブを身につけて仕事をした。
書き始めて、早4ヶ月が経ちました。
小説の方も、二十話にいきました。
これからも、自分のペースで書き続けていきますので、読んでいただけたら嬉しい限りです。
読んでいただき、ありがとうございます。