第1話~赤眼の少女~
「・・・・・・、ふぅ。」
------パタンッ。
少年は読んでいた本をゆっくりと閉じた。
「やっぱりすごいなぁ~・・・、カルヴィドさんは。」
少年は、本を強く抱きしめた。
本は厚く、少し色あせている。
よく見ると、ページの端がところどころ折れ曲がっているので、何度も読み直している事がわかる。
「フォルカ~ッ、そろそろ下りて来なさい!朝ごはんが片付かないでしょう~!!」
扉越しに、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「は~い、母さん!」
フォルカと呼ばれた少年は、本を元あった本棚にきちんとしまいドアノブに手をかける。
しかし、フォルカの動きは止まり、自分の机に駆け寄った。
そして一言、
「必ず追いつくからね・・・、兄さん。」
と机の上の写真立てに笑いかけた。
そしてゆっくりとまた、ドアノブに手をかけた。
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「いただきま~す!!」
フォルカはまず、スープを口に運んだ。
味はいつも通り、自分好みの母の味だった。
前をチラッと見ると、母が嬉しそうにこっちを見ていた。
「ふふっ、そんなにおいしそうに食べてくれるなんて・・・作った甲斐があるわ。」
「・・・だっておいしいんだもん、母さんのスープ・・・。」
フォルカはそう言うと、再びスープを口に運び出した。
母は何も言わず、ただこちらを見ているだけ・・・。
静かな時間が続く・・・。
この沈黙を先に破ったのは、
「・・・、フィニカが家を出て・・・もう半年がたったわね・・・。」
母の一言だった。
スープを口に運んでいたスプーンが止まる。
そして、そのままスプーンをテーブルに置いて、
「・・・、うん。」
と、短く答えた。
「本当にすごいわよね、フィニカは・・・。自分だけの力で大都のクロムの研究チームに入っちゃうんだもの。」
大都・・・というのはこの世界、テュルキュミアの中で一番大きく、発展した都市の事。
フォルカの兄・フィニカはそこのトップクラスの研究チームのメンバーに、半年前になったのだ。
「うんっ、早く僕も兄さんみたいに大都に行ってクロムの研究チームに入りたいんだ!!」
フォルカにとって、フィニカの存在は憧れであり、目標だった・・・。
---兄のようになりたい---
その気持ちがフォルカの支えであった。
「フォルカならなれるわよ、なんたってフィニカの弟ですもの。」
「ありがとう・・・、母さん。」
フォルカは微笑み、食べかけの食事を食べ始めた。
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「いってきま~す!!」
「いってらっしゃい、フォルカ。」
母に手を振り、家を出た。
フォルカは鞄をしっかり肩にかけ、走り出した。
出会った人にはきちんと挨拶をして、家と家との間の狭い路地を通りぬけ、坂を駆け上がり、村の外の丘に来た。
心地の良い風が、フォルカの灰色の髪を優しく撫でた。
「よしっ、始めるぞ!!」
フォルカは丘に一本だけ生えている大きな木のそばに座り、鞄の中に入れておいた勉強道具を取り出した。
ふとフォルカは横を見た。
あったのは、自分の鞄だけ・・・。
(当たり前か・・・、兄さんは半年前に大都に行ったんだもの・・・。)
半年前までは兄・フィニカもここで一緒に勉強していた。
わからないことがあったら教えてくれたし、答えがあっていたら一緒に喜んでくれた。
そんな兄いなくなったのだから、違和感を感じるのも仕方がないと自分に言い聞かせていた。
・・・・・・、今日までは。
母の何気ない一言が、抑えていた気持ちを爆発させたのだ。
母や村の人の前では笑っていられた。
しかし、一人になってしまうこの時間が・・・この優しい風が・・・フォルカの感情を押し出してしまったのだ。
「・・・、兄さん・・・会いたいよ・・・。」
目に熱い何かがこみ上げて・・・、こぼれた。
自分でも気づいた、これは・・・・・・
「な・・みだ・・・。」
こぼれたものの正体がわかったとき、一気にこぼれ出した。
長いようで短い半年という時間が、いつの間にかフォルカの中に寂しさを生んでしまっていた。
「兄・・・さん・・・、に・・・さん・・。」
あにの事を口に出し続けるが、どんどんはっきり言えなくなっていく・・・。
フォルカは自分の感情に押しつぶされそうになった。
------その時っ。
背中の方から風を感じた。
(・・・、あれ?)
フォルカはその風に違和感を感じた。
先ほど髪を撫でた風はフォルカの前から後に吹いていた。
しかし、今吹いている風は後から感じる。
その上、言葉では言い表せない何かを感じる。
(なんだろう・・・。)
フォルカは後ろを確かめようとする。
すると・・・、
------びゅんっ!!!
何かが自分の横をかなりの速度で通りすぎた。
「!?」
フォルカはすぐに前に向き直った。
フォルカの目に映ったのは・・・。
緑色の短い髪の毛・・・、黒いノースリーブで丈の短いワンピース・・・。
そして・・・
「赤眼の救世主・・・。」
赤い眼をした女の子だった・・・。
第一話を読んでいただきありがとうございます。
終わりの方は、考えるのにとても苦労しました・・・。
キャラの外見イメージが伝われば、嬉しいです。
次の話はいつ更新するかは未定ですが、読んでいただければ嬉しい限りです。