第15話〜騎士と僧侶 1〜
「・・・・・・んっ。」
薄暗い部屋の中、一人の少女が目を覚ます。
少女は、緑色のショートヘアーと深紅の眼が印象的な『クロム』だった。
「・・・エリアル?・・・フォルカ?」
少女は辺りを見回す。
しかし、見えるのは部屋の壁と扉だけ。
「ここは・・・クロムの研究施設・・・。」
クロムである少女は、この部屋に覚えがあった。
自分が『クロム』として生まれ変わった場所・・・。
それでいて、自分が処分されかけた場所・・・。
「どうしてここに・・・。」
そう口にした時、一つの場面が頭の中によみがえった。
その場面は、フォルカ達とともにフォルカの兄・フィニカとクロム・ドールと戦闘しているところだった。
「そうか・・・私はあの人達に・・・。」
「目が覚めたか、No.6502153。」
背後からの声に、少女はとっさに後ろを向く。
そこには、先ほど思い出したフィニカとドールが立っていた。
少女は戦闘態勢をとる。
「お前と闘うつもりはない、俺達は確かめたいことがあるだけだ・・・No.6502153。」
「私はクラス・・・クラス・ゼロアークです。」
クラスと名乗った少女は、二人を睨み付ける。
「・・・やはり他のクロムとは何かが違うようですね、フィニカ様。」
「ああ、クロムが自分の名前のことくらいで相手を睨み付けるなんて、普通はありえんからな。」
フィニカの言う通り、普通クロムは自分自身の名前くらいで感情をむき出したりしない。
だがクラスは、二人に『怒り』をむき出し、睨み付けたのだ。
「・・・不良品だからでしょうか?」
「・・・分からんが、普通じゃないのは確かだ。」
「・・・不良品なら、さっさと処分した方がよいのでは?私はスティアセイヴもブレスレットもない、欠陥だらけ・・・あなた方の汚点では?」
クラスが少し怒りのこもった声で言った。
(やはり何かが違う・・・スティアセイヴがないからか?)
「ああ、お前が居れば関係のないフィニカ様まで汚名を着せられるかもしれんから早く処分してやりたいが・・・施設長からの命令なのだ、お前を殺さず捕獲しろというな。」
「私を・・・?」
クラスは戸惑った。
クラス自体、施設長と話したこともなければ見たことすらない。
それなのになぜ、施設長は私を捕獲したのだろう?私はクロムとして生まれ変わって数日で欠陥が・・・スティアセイヴがないことが判明し処分されかけたのに・・・。
「それはキミが特別な存在だからたらだよ、No6502153・・・いや、今はクラスだっけ?」
フィニカとドールの背後から声が聞こえた。
三人は、一斉に声のした方を向く。
そこには一人、十四〜十五歳くらいの見た目をした少年が立っていた。
「はじめまして、僕は『クロムNo.6502154』・・・マスターからは『ナイト』って呼ばれてるんだ。」
「No.6502154・・・私の次に生まれ変わったクロム・・・。」
「そっ、キミやそこにいる・・・え〜っと、ドールだっけ?キミたちよりは強いし、ヒトに近いんだよ僕。」
「・・・・・・。」
ドールは黙り込む、怒りも感じない・・・ただ黙り込んでいる。
「新人クロムがドールにため口をきくな、ドールはNo.4790084、お前よりもはるかに先輩なんだぞ。」
「フィニカ様・・・。」
フィニカの言葉に、ドールの表情がほんの少し緩む。
「ふ〜ん・・・フィニカだっけ?キミだって半年前に入った新人なのにドールにため口じゃん。」
「それはフィニカ様が私のマスターだからだ・・・それにお前、クロムなら他人のマスターにも礼儀を忘れるなと教えられなかったのか?」
「教えられた気はするけど・・・僕にはコレがあるから関係ないんだ。」
そういうと、ナイトは首に巻いている黒く短いマフラーの下から何かを取り出した。
「「!!」」
「?」
クラスは、ナイトの取り出したバッチのようなものを見て首を傾げる。
フィニカとドールは、驚いた顔でナイトを見続ける。」
「それは・・・?」
クラスがナイトに聞く。
「これはね、施設長に仕えるクロムにしか与えられない特別なバッチだよ。つまり、僕はそこねの二人よりずっと格上の存在なんだよ。」
「「・・・・・・。」」
二人はただ、黙り込んでいた。
「さっ、僕はクラスに用があるんだ・・・そこをどいてよ『お二人さん』。」
「・・・はい。」
「・・・・・・。」
フィニカは返事を、ドールは無言で、クラスの前から体を動かした。
ナイトがゆっくりと、こちらに足を進めてくる。
「私に用とは?」
「はいっ、これ。」
差し出されたのは先ほどナイトがだしたバッチと同じ型のものだった。
「これはキミのだよ、クラス・・・。」
ナイトはクラスが受け取らないので、自分でクラスの胸元にバッチを付けてあげた。
「なぜ私がこれを・・・。」
「言ったでしょ?キミは特別な存在だからだよ。」
バッチを付けると、ナイトはヒトのようにクスッと笑った。
そして・・・
「・・・施設長はどうして僕にナイトって名付けたと思う?」
と聞いてきた。
「・・・夜にクロムになったからですか?」
「フフッはずれ、理由は・・・僕より先にクロムになった『お姫様』を守るためだよ。」
「・・・・・・?」
クラスは首を傾げる。
その姿に、ナイトはプッと笑うと、クラスに背を向けて歩きだした。
「だから大人しく待っててね、今からお姫様に付いた虫を退治しに行って来るから。」
「虫・・・?」
「そっ・・・だから待っててね、お姫様。」
ナイトはクラスに一礼すると、三人のいる部屋を後にした。
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「ほらっ、ここが俺の住まう町・・・つまり神の住まう町『神タウン』だ!」
「あの〜ここに『ミセットタウン』って書いてありますけど・・・。」
「ここに住む奴らは信仰熱心でな、朝昼晩っ、日に三度っ、俺を崇めているんだ!」
「ウェルトじゃなくて『神』をでしょ・・・。」
「さっ、メシでも・・・おっと買い物するなら俺御用達の『神商店街』がオススメだ!ここはいいぞ〜・・・俺の求めるものは九割方揃う素晴らしいところだ!」
「あっ、入り口に『ミセット商店街』って書いてある〜。」
「そしてぇ〜・・・ここが神である俺が食事を行うことが許されたありがた〜い食堂『神食堂』だ!!」
「すごく年期の入った、和風テイストあふれる渋いお店ですね・・・。」
「まぁ、食事できるならどこでも・・・。」
「ヘイ親父ィィ!『神そば』を頼む!!こっちの三人には『神カレー“星の神様”』をくれてやれぇ!!」
「あぁっ!また来やがったな食い逃げ野郎が!!そんなに天ぷらそば食いたけりゃいい加減ツケ払えゴラァ!!」
「うるせぇ!俺が食してやろうと言ってるんだ、ありがたいことだろう!?神へ供物を捧げるのはこの町の常識だろ!?あと、天ぷらそばじゃねぇ『神そば』だ!!」
「ヒト様の店の商品名を勝手に変えるんじゃねぇ!それにちゃんと代金払ったらいくらでもくれてやるよ!だからツケ払え!!・・・あっ、そっちの三人はカレーでいいかい?」
「はっ、はいカレーでお願いします・・・おいくらですか?」
「カレーは一人三百・・・。」
「おい親父ィ!?俺の熱狂的信者その一・その二・その三から金を巻き上げるってのか!?いくら親父でもそれは許せねぇな!!」
「なんか私ら、無断飲食するようなヒトの信者にされてる!!」
「なに!?あんたらもウチの経営を追い込むつもりか!!」
「そんなつもりはありません!ホラ、三人分のカレー代です。」
「あぁ、まいど・・・すぐに用意してやるから待ってろ!!」
「おう、早めに頼むぜ・・・俺の『神そば』をな!!」
「あってめぇ、我が物顔でウチの椅子に腰掛けるんじゃねぇ!!」
「フッフッフッ・・・考えてみろ親父、俺が座った椅子だぜ?安くてもツケがチャラになってお釣がくるような値はつくぜ!」
「んなわけねぇだろ!そんなんは神になってからいいやがれ!!」
「なってから?それは違うぜ親父ィィ・・・俺は生まれた時から神になることを約束てんだ!親父には見えんのか、このあふれんばかりの『神オーラ』が!!」
こんな台詞ばかりのやりとりが、この後も長く続いた。
「あ〜美味しかった〜!」
四人は食堂を後にし、ミセット商店街を歩いていた。
「うんっ、私は辛口派なんだけど・・・あの甘口カレーは絶品だったよ〜。」
「『甘口カレー』じゃない、『神カレー“星の神様”だ!!」
やり直しっとユニィに言うと、は〜いと言って・・・
「あの『神カレー“星の神様”』は絶品だったよ〜。」
と、言い直した。
ウェルトは、満足そうな笑みを浮かべた。
(真面目な時と適当な時の差がここまで激しいヒト、初めてだよ・・・。)
「よし、おまえらこっちこい!」
そういうと、ウェルトは走りだした。
あわててフォルカ達もウェルトを追いかけた・・・が、ウェルトの脚力に子供である三人がついていける訳がなかった。
「はぁ・・・はぁ・・・、ウェルトさん・・・速すぎ・・・。」
「見失っちゃったよ〜・・・。」
「私たちのこと、もう少し考えでよね・・・。」
しばらく辺りを見回しウェルトを探していると、ある店から大きな(ユニィの半分位)袋を持って出てきた。
フォルカたちはウェルトの元へ行き、こうきいた。
「その袋・・・何ですか?」
「神たる俺が、貧しき民を救うためのもんだ。ホラ、ボウズはこれを持て!」
「うわぁ、重!?」
ウェルトに渡されたのは、ウェルトが持っているのと同じくらいの大きさの袋だった。
「よくこんなのもの持てますね・・・。」
「んっ?これが重いだと!?お前どんだけ華奢何だよ!よしっ後で特訓だ!覚悟しとけよボウズ!!」
「ひぃっ!!」
フォルカの反応を見て、ウェルトは大声で笑った。
そして、笑いがおさまったころに・・・
「んじゃ、穣ちゃん達でこいつを頼むぜ!」
と言うと、自分の持っていた袋をエリアルとユニィに渡した。
「二人で持ったら軽いだろ?んで三人にはそれを持って行ってもらいたいところがある!」
「行ってもらいたいところ?」
「おう、ユニィ穣ちゃん・・・クレヨンと紙貸してくれるか?」
「うんっいいよ〜・・・はいどうぞ!」
サンキューと言うと、ウェルトはサラサラと何か書き始めた。
しばらくして、フォルカに紙を差し出してきた。
フォルカは荷物を置き、紙を受け取る。
そこには、青のクレヨンで簡単な地図が描いてあった。
・・・下手で分かりにくいけど。
「・・・この何重にも丸してあるところに行けばいいんですか?」
「ああ、俺は少し用があるから先に行っててくれ。な〜に、俺の知り合いって言えば丁重にもてなしてくれるから大丈夫だ!」
「あっ・・・はい。」
「ウェルトの用って・・・何なの?」
「たいしたことじゃねぇよ、だから先に行ってろ。」
「うんっわかった、ウェルト兄ちゃん!」
ユニィの言葉を聞くと、「またあとでな!」といって走り去ってしまった。
「・・・行こうか、この場所に。」
「うん・・・。」
三人は重い袋を持って、ウェルトの描いた地図の示す場所へと歩きだした。