第14話〜神《おれ》のお導き〜
「あのぉ・・・僧侶さん?」
フォルカがいつも以上に弱々しく、僧侶の男に聞く。
「んっ?何だボウズ、トイレならその辺の茂みで・・・」
「違います!!」
僧侶の男は「冗談だよ冗談」と言って軽く笑い飛ばした。
・・・絶対僕の反応を楽しんでる、この人・・・。
「僕が聞きたいのは、本当にこの道が出口につながっているのかです。何だか道がどんどん狭くなってますし、何か嫌な感じがしますし・・・。」
「ああっ、その事か。それについては大丈夫、全くもって問題無い。足元をよ〜く見てみろ。」
「「「足元?」」」
三人が一斉に足元を見る。
そこにあったのは・・・魔物の手や足だった。
「うわああぁ!!」
「キャアアア!!」
フォルカとエリアルの体が、驚きの余り十センチほどはね上がった。
「ななっ何ですかこれ!?」
「何って・・・どっからどう見ても魔物達の手足だろう?」
「それはわかってるのっ、聞きたいのはなんでそんなものがあるかよ!!」
「そんなの・・・考えなくともわかるだろ?・・・そう、俺が森の入り口からおまえらに会うまで蹴散らし続けたからだ!これが本当の『獣道』ってな!!」
彼は、僕らに指を差しながらシャレと思われることを言った。
ああ・・・スッゴく「今のシャレどうよ?」的な瞳でこっち見てる。
正直、笑えるところは一つもない。
こんなにレベルの低いシャレも、久しぶりに聞いた気がする。
「ぷっ、くくく・・・。」
それにあのひと、自分が言ったシャレで笑ってる。
本当に僧侶なのだろうか、あの人・・・。
あっ、エリアルの顔が引きつってる。
「・・・ぷっ、あははははは!!『これが本当の獣道』だってぇ!僧侶様最高に面白〜い!!」
「「なっ!?」」
「おお!穣ちゃんにはわかるか、俺の神掛かったこのシャレが!!」
嘘でしょ、ユニィ・・・。あれが・・・面白いだなんて・・・。
笑いどころが微塵もないシャレ。
それを聞いて、腹を抱えて笑う二人。
その姿に・・・
「ちょっといい加減にしてよねっ!こちとら森から出られなくてイライラしてるんだから!!」
エリアルがついに怒った。
「えぇ〜、いいじゃんエリアルお姉ちゃ〜ん。僧侶様の獣道で外に出られるんだし・・・。」
「その獣道が、普通じゃないのが問題なんでしょうが!!」
エリアルが、両手にグッと力を入れて怒鳴った。
その時だった。
---ぐうぅぅぅ〜〜---
「・・・・・・えっ?」
「あぁ〜もう、無駄な体力使わせないでよ・・・。」
エリアルはお腹を押さえて、少し恥ずかしそうに言った。
「そういえばエリアルだけ、一口サイズのミミズ(?)焼きを食べてないんだっけ?」
「あんなもん、食べれるわけないでしょ・・・。」
フォルカの一言に、エリアルは嫌なものを思い出したと言うような苦い顔をした。
「なんだ、なんかピリピリしてると思ったら、腹へってたのか・・・じゃあ腹ごしらえも兼ねて休憩すっか。」
「まじっ!?いやったぁぁ〜〜!!」
エリアルが両手を上に突き上げ、喜んだ。
「でも・・・食べられるようなものあるの、僧侶様?」
ユニィの一言に、エリアルの動きが止まる。
「安心しな穣ちゃん、この森は俺の庭みたいなもんだ、食べ物はすぐ手に入るぞ!」
「さっすが〜!頼りになるわぁ、僧侶様最高〜!!」
先ほどの僧侶さんへの怒りは、何処に消えたのだろう。
エリアルは、そう思わせるくらい喜んだ。
そんなエリアルをおいて、僧侶の男はてくてくと獣道に向かって歩いて行った。そして、獣道のすでに通った方にある魔物の手をヒョイッとつまみ上げた。
まさか・・・・・・。
「ほらっ、栄養化の高い肉だぞ〜!食って元気出しな!」
「・・・・・・。」
エリアルが止まる。
「んっ?どうした・・・あぁ、嬉しさの余り声が出ないのか!礼はいらんぞっ、神は困っている奴を助けるものだからな!!」
彼は親指を立て、ウインクをした。
エリアルの体が震えだす・・・まずい。
「・・・だっ・・・。」
「だ?」
僧侶の男は、様子の違うエリアルの方に耳を傾けた。
「誰が魔物を食うかっ、こんのボケ僧侶がぁ〜!!!!」
「!!」
エリアルの突然の大声に、さすがの彼も目を見開き驚いた。
そりゃそうだ・・・エリアルにとって、「三角コーナーのものでよければ食べる?」と言われたようなものだ。
「なんだっ!?何が不満だ、言ってみろ!!」
「全部が!!全てが!!なにもかもがぁ〜〜〜!!」
二人の会話が、徐々にエスカレートしてきた。
何だか僕、会話に入れなくなって来た。
「大丈夫だよエリアルお姉ちゃん!この魔物、見た目はアレだけど、焼いて食べたら牛さんとかわりないよ・・・多分。」
「何っ、最後の『多分』って!?自分で確認しないで他人に勧めるなぁ!!」
(まずいよ・・・エリアルの怒りが、最高潮に達しちゃった。こんなときにクラスがいれば・・・いや、僕がどうにかしなきゃ。)
フォルカは辺りを見回し、木のそばにあるキノコを見つけた。
色は・・・安全そうな茶色だ・・・。
(よしっ・・・。)
「エリアルッ、あそこの木のそばにキノコがあ・・・。」
「キノコ!?」
エリアルは、フォルカの指差した方を見て、目を輝かせ走り出そうとした。
「はいっ、ちょっとストップな・・・。」
僧侶の男が、エリアルの肩を掴み動きを止めた。
「何すんのよ、ボケ僧侶!!」
「ボケはどっちだよ、はらへり穣ちゃん・・・。」
彼の口調は、先ほどまでの明るく軽いものではなかった。
とても落ち着きがあって、それでいて少し恐怖が芽生えるくらい暗めの声・・・。
「ボウズに聞いた話によると、木の実取ろうとして木の魔物に襲われたそうじゃないか・・・そんなことがあったってぇのに、何も警戒せず木に近づこうって言うのか?あの時はまだ巻き取られただけですんだが・・・魔物はそんな奴らばっかじゃねぇよ、もう少し考えて行動しろ・・・。」
「あっ・・・。」
エリアルが黙り込み、うつむいた。
「そうだった・・・私馬鹿だよ、ついさっきまで魔物に捕まってたのに・・・その事忘れてまた皆に迷惑かけるところだった・・・。」
エリアルの反省した態度を見て、僧侶の男は微笑んで、エリアルの頭にポンッと手を置き、ぐしゃぐしゃっと荒々しく頭を撫でた。
「痛っ!!」
「分かればよろしい!あと、俺も大人気なかったな、悪ぃ・・・。」
「えっ、何が?全然大人気なくなんて・・・。」
「実は穣ちゃんが食おうとしてたキノコなぁ、毒がある奴だったんだよ・・・そんで穣ちゃん止める為に嫌なこと、引きずりだしちまったな・・・だから悪ぃ。」
そういうと、顔の前に左手を出して、謝罪のポーズをとった。
(謝るのは・・・私の方なのに。)
「さてっ、そろそろ行くか・・・穣ちゃん、悪いがもう少し我慢な・・・。」
彼の態度に、エリアルは思わず泣きたくなる。
自分を助けてくれたのも、出口へ案内してくれるのも彼なのに・・・私は彼に反発してしまった。
だけど彼は・・・「悪ぃ」と言って私に謝ってきた。
「僧侶様・・・。」
「ん?何だ。」
知りたかった、彼の名前を・・・多分二人もそうだと思うから。
「私はエリアル・ライシェスって言います、貴方は・・・?」
「んっ?俺か、俺はな・・・。」
すると突然、視界に光が広がった。
目をこらして見てみると、そこには草原が広がっていた。
「外に・・・出られたんだぁ〜!!」
ユニィが、大声を出して走り回った。
「待てよ穣ちゃん、森抜けたからって魔物はいるんだからよぉ。」
ハ〜イ、というユニィの声が聞こえた。
「あっ、あの・・・。」
エリアルが、申し訳なさそうに僧侶の男にたずねる。こんなに弱々しい彼女を初めてかもしれない。
「ああ、俺の名前だったよな。」
僧侶の男は、自分に向かって親指を立ててこういった。
「神の名前は必要ないと言いたいが、俺の名前は『ウェルト・レクセール』だ。」
「ウェルト・レクセール・・・。」
それが、あの僧侶の名前・・・。
「私はユニィッて言うの、よろしくねぇ!」
「おう、よろしく頼むぜ、ユニィ穣ちゃん。」
ウェルトは、笑顔でユニィに目線を合わせてハイタッチをした。
「あっ、僕はフォルカって・・・。」
「よろしくな、ボウズ。」
フォルカは、反論しようとしたが、ウェルトの笑顔の裏から滲み出ている威圧に負けた。
「そんなに落ち込むなって、お前が一人前になったら名前で読んでやらんこともない!」
「えっ・・・はいっ!!」
フォルカはこの先、ウェルトに一人前にならなきゃと思った。
「んで、黒髪がエリアル穣ちゃんだよな。」
「えっ、はい・・・。」
「敬語はやめろ、さっきみたいに元気なエリアル穣ちゃんの方が、俺は好きだぜ!」
歯をむき出し、ウェルトが笑った。
「・・・うんっ、よろしくウェルト!!」
エリアルの顔から、とびきりの笑顔がこぼれた。