第13話〜ミッドナイトフォレスト 後編〜
「それは本当か!?」
1人の兵士が大声で言った。
周りの兵士とは鎧の造りが少々異なるので、多分この兵士たちのリーダー的存在だろう。
「はい、これだけ探して見つからないのですからあの森に入ったとしか考えられません。」
「クソッ・・・大切な被験体がよりにもよってあの森に入るとは・・・。」
報告を受けた兵士は、フォルカ達が逃げ込んだ森の方をみて呟いた。
「化け物達の住みか・・・入って帰って来たものはいない死の森・・・『デミュニの森』に・・・。」
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「こんな奴、いていいわけ・・・?」
エリアルは立とうにも立てない状態だった。
---空腹の為でない力・・・初めて見た化け物に対する恐怖・・・。
これらが足に力を込めさせてくれないのだ。
すると木の化け物は触手と化した根を、エリアルの左足に巻き付けて持ち上げた。
「キャアアア!!」
「エリアルッ!!」
フォルカはとっさに素器を取り出した。
足の震えは、素器を強く握ることで無理矢理止めた。そして、エリアルと木の化け物のいる方へ走った。
「エリアルを離せぇぇ!!」
フォルカは素器を振り上げ、おもいっきり触手を切り付けた。
しかし、木の化け物はエリアルを離さない。
「きいてない!?」
「フォルカッ右側に避けて!」
「!!」
エリアルの声がしたと同時に、フォルカはフォルカなりの回避行動(顔面からのスライディング)をとった。
すぐさま自分のいた場所を見ると、触手が一本地面に突き刺さっていた。
エリアルの声がなければ、僕はあそこで串刺しになっていただろう・・・。
「エリアルッありがとう!助かったよ。」
「お礼言ってる暇があったら相手に集中しなさいっこのバカァ!!」
エリアルの言葉を聞いて、辺りを見回す。
そこには、触手をこちらに向けようとしている化け物がいた。
「フォルカお兄ちゃ〜ん!!」
ユニィの声が聞こえた。
思わずユニィの方を見ようとしたが、こっち見ちゃダメとユニィに止められた。
「耳だけかたむけてよく聞いて、私が『ユニィ・ファイヤ』使って燃やすから、術式の変換が終わるまで時間稼ぎよろしくねぇ〜!」
「わっ、わかった!」
そういうとユニィは術式を変換し始めた。
(早くエリアルを助けて、素術を使えるようにしないと・・・。)
フォルカは素器を正面に構え直し、
「さぁこい!!」
と強く言った。
すかさず木の化け物は、四本の触手をフォルカに向けて勢いよく伸ばした。
一本目、身体を突き刺そうとする触手を左に回避して、素器を振り下ろしなんとか切断。
二本目、フォルカの身体を絡めとろうと周りを囲んできた触手を斜め上に弾き、これもなんとか切断。
三本目、真っ直ぐこちらの首元を狙った高さで伸びてきた。
それに対しフォルカは身体を左に少し反らし、野球のバットを振るように素器をおもいっきり振った。
「ああぁぁぁ!!!!」
素器を振り終えたときには、触手は真っ二つになっていた。
そして四本目・・・・・・
「あれっ、こない?」
確かに見た時には四本あった、そのうち三本は勢いでだが自分が切った。
なら一本まだいるはずなのに・・・。
---その時。
「キャアアア!!」
ユニィの悲鳴が聞こえた。
「ユニィ!?」
ユニィの方を見ると、先ほどいた場所にユニィの姿はなく、その場所から百メートルほど離れた場所に、ユニィが倒れていた。
フォルカはユニィの元へ全力疾走した。
そして、息切れしながらもユニィの体をそっと起こしてあげた。
「ユニィ、しっかりして!!」
「ん・・・痛ぁ・・・。」
腰辺りから少量だが血がでている、先ほどの触手が自分ではなくユニィに伸ばしたらしい。
「どうしよう・・・。」
「大・・・丈夫だよ、フォルカお兄・・・ちゃん。」
そういうが、ユニィの表情と声は辛そうだった。
「フォルカ!ユニィ!逃げてぇぇ!!」
エリアルの声が聞こえた。 木の化け物が、こちらに向けて再び触手を伸ばそうとしていた。
(僕だけ避けたらユニィが・・・。)
ユニィは傷を負って動けない。
エリアルは触手に捕らわれ動けない。
勢いよく振って何とか切れる触手を、ユニィを支えながら切るのは不可能だ。
(神様・・・いや、この際何でもいいから・・・。)
化け物は二人に向けて触手を勢いよく伸ばした。
「僕達を助けて!!」
「その声・・・確かに神が受け取ったぜ、ボウズ。」
「えっ?」
聞き覚えのない声が聞こえた。
---次の瞬間!!
化け物が、エリアルごと右にぶっ飛んだ。
「えっ!?ちょっ!?」
エリアルは、手足をじたばたさせて触手に抵抗した。理由は、化け物がぶっ飛んでいる方向には・・・ばかでかい(例えるなら大木五本くらい)岩があるからだ。
あんなのに当たったら軽傷ではすまない。
「ほどけなさいよ!!」
だが、ほどけない。
(ヤバッ・・・!?)
エリアルは、抵抗しながらも目をつぶった。
「エリアルッ!!」
岩に当たりそうなその時、
「あっ・・・。」
エリアルの体は、触手に引っ張られるような感じがしなくなった。
化け物の方に顔を向けると、化け物と自分を捕えていた触手は綺麗に離れ、化け物はすでに岩に激突して動かなくなっていた。
すると、エリアルの体を何かがそっと抱き抱えた。
支えられている方を見ると、百八十センチ位の身長の眼鏡で薄茶色の短髪、そして胸元にぶら下げている十字架をした男がいた。
「僧侶様・・・?」
エリアルは、長身の男にそう言った。
男はそれに笑顔でこう答えた。
「俺は・・・言うなら『神様』だ!!」
エリアルの表情が凍り付いた。