第11話〜エスケープ〜
3人は顔を見合せていた。
「ところでさぁ、ユニィ。」
「なに、エリアルお姉ちゃん?」
ユニィが首を傾げた。
「逃げるって簡単に言ったけどさ、私達が何処にいるかがわからないんじゃあどうしようもないんじゃないの?」
「あっ、僕もそう思った。」
大丈夫、とユニィは言うと、おもむろに紙とクレヨン(青色)を取り出した。
「「・・・・・・。」」
突っ込んだら負け、2人はそう思い、あえて紙とクレヨンのことはスルーすることにした。
ユニィはすらすらと、多分この辺の地図だと思われる絵を描いた。
「え〜っと、まずここはクロム研究施設の・・・まぁ私見たいな優秀なアルフィを捕まえて閉じ込めたりする所な訳。んで今私達が居るところが12ある牢屋のぅ・・・真ん中から2つ右の、ここ。」
とユニィはクレヨンで殴り書きした四角の内、1つに丸を描いた。
そしてヒト(?)を丸で囲んだ四角の中に書き出した。・・・それ、僕達ですか?
「へっ、へぇ〜。」
「なるほどね〜。」
「それでぇ脱出についてなんだけど・・・夜周りの人達が寝静まったら、私が素術を使って少しずつ炎で壁を溶かすからぁ、2人にはそれがばれないように何とかして欲しいの。」
「えっ、ちょっと待ってユニィ。」
フォルカが一旦言葉を遮る。
そしてふと頭に浮かんだ疑問を口にした。
「ユニィ、君がアルフィならこんな壁くらい一気に壊せるんじゃないの?アルフィは『スティアを様々な術式に変換し、素術の威力を変えることができる』って聞いたことあるけど。」
「確かに私くらいのアルフィならこんな壁、一発破壊だけど・・・おっきな音とスッゴい光が発生する事になるよ。・・・どうなるか分かるよね、フォルカお兄ちゃん。」
「あっ、すぐに見つかっちゃう・・・。」
フォルカはおもわず口を押さえた。
(その通りだ・・・見張りは居るだろうし、周りの牢屋に誰もいないわけないだろうし・・・現に前の牢屋にヒトいるし。)
「でもさ、穴が開いたとしても外に出られるとは限らないわよ?」
エリアルの鋭い質問が飛ぶ。
しかしユニィは困った様子ではなく、むしろ待ってましたと言わんばかりに答えた。
「じゃあ私からも質問するけど・・・今の天気、分かる?」
「天気?・・・あぁ〜微妙だけど・・・曇りかな。」
「うんっその通り、でもさ・・・なんで曇りってわかったの、エリアルお姉ちゃん?」
「なんでって・・・窓から見れば誰でもわか・・・あぁっ!!」
「ふふん、ようやくわかった?そう、窓から見える空、吹き抜ける風・・・つまり壁の向こう側は外って事!!」
ユニィは出来るだけ小言で言った。
左手を腰に当て、右手でピースを作った。
なんというか・・・あのポーズはユニィのためにあるって言ってもい位、違和感がなかった。
・・・まぁいいか、似合ってるし。
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その日の夜9時・・・作戦決行の刻かが来た。
「・・・よ〜し、見張りは行ったわね・・・。これで1時間くらいは戻ってこないから、ちゃっちゃと穴開けるね。2人はいざというときにどうにかばれないようにしてね。」
「分かったよ。」
「まかせて。」
2人がそういうと、ユニィは出口になる予定の壁の方を向き、スティアの術式変換を始めた。
「「・・・・・・。」」
2人に任された役割は、ユニィの炎素術を周りにばれないようにすること。
聞いた感じでは簡単に聞こえるが、炎の術なのでいくら威力を抑えたとしても、それなりに光が出る。
そのため、予想以上に難易度は高い役割である。
少しして、2人から導き出された方法は・・・
“ちょっとフォルカ、左側から光が少し漏れてるわよ。ちゃんと隠しなさいよ、ばれたらどうするつもり!?”
“注意してくれるのは助かるけど、エリアルも自分の役割をしてよ!”
“言われなくても分かってるわよ!”
『フォルカの上着を使ってユニィの周りを隠し、エリアルがそれを他の誰かに見つからないように見張り、フォルカの光漏れもチェックする』という方法だった。
少しの間、静寂が続く。
その静寂をフォルカは破り、ユニィに聞いた。
”・・・ユニィ、まだ?“
”まだ、今半分溶けたくらい。“
”そっ、そう・・・。“
フォルカは、誰から見てもわかるくらい残念そうな顔をした。
すると、フォルカの顔をみたエリアルがきついことを言ってきた。
”なにフォルカ、まさか・・・もう限界とか言うんじゃないでしょうね?“
”そっ、そんなことないよ!大丈夫だよ!“
フォルカは必死に誤魔化したが、正直なところ・・・辛かった。
中腰前屈みの状態で数十分、さらに炎素術の近くにいるせいか汗が止まらないし・・・。
そしてついさっき、手足がガクガクと震え始めた。
こんなときに、自分の体力の無さにため息が出そうになった。
”あと少しだから頑張って、フォルカお兄ちゃん。“
ユニィが励ましの言葉をかけてくれた。
ユニィも、素術を精密に扱わなければいけないから大変なはずなのに・・・。
・・・・・・・・・。
(うおりゃぁぁぁぁ!!!!体力なんか関係なぁぁぁい!!要はどれだけ限界に立ち向かえるかだろ!?根性見せろ、僕の身体!!)
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ユニィは壁と、フォルカは自分自身の限界と闘い続けて数分後。
3人の作戦の一部が実現した。
”穴が・・・開いた!“”ざっとこんなもんよ!“
ユニィが再び腰に手を当て、ピースを作った。
これでここから出れる、そうおもったとき、エリアルの一言で喜びが一気に冷めた。
”あとはクラスを助けるだけね、フォルカ。“
”えっ・・・。”
自分がここから出ることばかり考えていた・・・。
クラスの存在を忘れてしまうくらい。
そうだ、クラスを助けないと・・・そうおもい、フォルカはユニィに言った。
”ねぇユニィ。“
”なに、フォルカお兄ちゃん?“
”実は、クラスっていう僕とエリアルの大切な人が捕まっているんだ。だから・・・助けるのを手伝ってくれないかい?“
フォルカはユニィに手を差し出した。
ユニィの答えは・・・
”・・・イヤだ。“
2人の期待を裏切る答えだった。
”なっ、なんでだよユニィ!?”
”なんでって・・・わからない?“
ユニィは深く深呼吸をして、2人を指さして言った。
”じゃあ聞くけどさ・・・クラスって人は何処にいるかわかるの?それに見つけたとして、逃げ道はわかるの?多分戦闘になるとおもうから勝てる、又は逃げ切れるような策はあるの?“
”それは・・・考えてなかったけどさ、私達が力を合わせればきっと大丈・・・。“
ユニィは”甘い“と言ってエリアルの口元に人差し指を当てた。
”いい!!私の素術は発動するまでに時間がかかるんだよ!?それに2人は闘い慣れしてる?違うでしょ!?こんな3人で大人のアルフィを簡単に捕まえられるような人達と戦おうだなんて・・・馬鹿でもしないよ!“
ユニィの言ってることは正しかった。
だからこそ・・・悔しかった。
こんなに自分が無力だなんて、思ってもみなかった。
静かな時間が続く・・・。
気分が沈んでいる2人に、ユニィが声をかけた。
”あのね、2人とも・・・別に助けるのを諦めろって言ってるんじゃないんだよ?ただ・・・もう少し冷静に物事を考えて、実力をつけて、確実にクラスって人を助けられるようにしようって言いたかったの。・・・ひどい言い方して、ごめんね。“
”ユニィ・・・。“
ユニィの考えは、子供とは思えないくらい冷静だった。
自分の意見をきちんと述べて、相手の意見も無駄しない・・・大人びた考えだった。
”だから今は・・・逃げよ?“
ユニィが、初めて会った時のように手を差し出してきた。
フォルカはその手を・・・握った。
ユニィの考えに賛同した。
”僕は・・・強くなりたい、だからユニィと一緒に行くよ。“
”フォルカお兄ちゃん・・・ありがとう。“
フォルカとユニィは共に歩む決意をした。
エリアルは、黙り込んでいる。
”エリアル?“
”クラス・・・大丈夫かな?なんかひどいこと、されてないかな・・・。“
フォルカは落ち込むエリアルの肩を持って、自分の方を向かせた。
”エリアル・・・そんなことさせないためにも、僕達は強くならないと・・・。だから行こう、エリアル。“
”フォルカ・・・うん。“
エリアルもユニィの考えに賛同してくれた。
”さっ、急いで。もうすぐ見張りが帰ってきちゃう。“
ユニィが穴に入ろうとしていた。
2人は急いでユニィのあとを追うように入った。
穴を抜けた先には、星空が広がっていた。
”みんな無事出れたね、さぁ2人とも、追っ手が来る前に大都から離れよ。“
ユニィは街道沿いに走りだした。
2人もユニィのあとを追うように走りだした。