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第9話〜闘いの唄 後編〜

今日はいろいろなことがありすぎる。

素器を使う練習をしたり、クラスを捕まえようとしたクロムがまた現れたり。


・・・兄さんに会ったり。

だけど・・・全然嬉しくない。

どうしてだろう・・・ああ、そうか。



2人とも・・・素器を持っているからだ。


「・・・兄さん、そこを退いて。」


「俺を退かして、何をするつもりだ?」


フォルカの口が止まる。

今言おうとしている言葉は、きっと言ってはならない言葉。

フィニカが最も望んでいない、禁句。

どうする?言うか、言わないか・・・、僕は・・・



「クラスとエリアルを・・・助けに行く!」


2人を選んだ。


「フォルカ・・・可哀想に、あのクロムに騙されているんだな。」


フィニカはそういうと、ゆっくりと素器を構え・・・

「今助けてやるからな、だから・・・少しの間眠っていてくれ!!」


こちらにかなりの速度で接近してきた。

とっさに剣型の素器で、下段からの一撃を防ぐ。


「なっ・・・。」


フィニカは驚いた。

一撃で終わるとばかり思っていたから。

2人の特訓を受けていなかったら、きっとやられていただろう。


「僕は、騙されてなんかない!!」


フォルカは剣を振り上げた。

フィニカはとっさに後ろに下がり、再び槍を構える。


「「・・・・・・・・・。」」


長い静寂・・・。

互いに刃を交えてしまった。


もう・・・後戻りはできない。

闘いの唄が、止まない限り・・・。


「うわあぁぁぁ!!!」


フォルカは、この唄を止めるため・・・兄に向かって走った。

フィニカも、弟に向かって走った。


「兄さあぁぁぁん!!!」


「フォルカアァァァ!!!」



互いの素器が交わる。



キィン、響く音。


それは・・・旋律。


2人の叫ぶ声。


それは・・・メロディ。



この2人しか出せない、とても哀しい・・・兄弟同士の闘いの唄。



フォルカは剣を真横に振る。

それをフィニカは、体を限界まで反らせて回避。

そのまま地面に手をつけ、足をおもいっきり蹴りあげる。


「っ!?」


足が、振りきった手に当たり、反射的に剣が手から離れた。

拾おうとした時、顔の近くに槍が出てきた。


「もう抵抗しないでくれ、お前とこれ以上戦いたくない。」


「・・・・・・。」


フォルカは手を引っ込めて・・・うつむいたまま動かなくなった。

フィニカはホッとした。


ーーもう弟に刃を向けなくていいのだから・・・ーー



「・・・わかってくれたんだな、フォルカ。」


素器をしまい、フォルカに手を差し出す。

つられてフォルカの手も出てきた。


取り戻せた、クロムから・・・大切な弟が。

フィニカの顔が、優しく笑う。

フォルカもゆっくりと顔をあげる。


その顔は・・・。



「うわあぁぁぁ!!!」


「なぁっ!?」


差し出した手は拳に変わり、フィニカの頬を捕えた。

「あぁぁぁっ!!」



フィニカの体は、地面についた。

そのすきにフォルカは、剣を拾い、フィニカがしたように顔の近くに剣を出した。


「フォルカ・・・お前。」


「兄さん、貴方は僕の憧れだった。」


フォルカの口が開く。

声は・・・震えている。


「なんでもできる兄さんに憧れてた・・・なのに・・・なのに!」


フォルカはフィニカの服を掴んだ。

そして、目に涙を浮かべながら言った。


「貴方はクラスを捕まえようとした!!ドールを使ってエリアルを傷つけた!!・・・どこに行ったんだよ、優しい兄さんはどこに行ったんだよ!?」


フォルカは泣きながら、フィニカの胸元を殴った。


痛みはない、だけど・・・

「今の兄さんは・・・大っ嫌いだっ!!」



胸が痛かった。



ーーーカランッ



フォルカの持っていた剣が落ちた。

それに続くかのように、フォルカも倒れた。


「ご無事でしたが、フィニカ様?」


倒れた弟の後ろには、フィニカのクロム・ドールが立っていた。


「ああ・・・。」


フィニカはゆっくりと立ち上がる。

そして、そっとフォルカを持ち上げた。


「ドール、あとの2人を運んでくれ。」


「わかりました・・・。」

ドールは、いとも簡単にクラスとエリアルを持ち上げて、歩きだした。

フィニカも共に歩きだした。

チラッと弟の顔を見る。

涙腺が出来ていた。


ーーー今の兄さんは・・・大っ嫌いだ!!ーーー



弟から初めて言われた言葉。



大都に帰っても、フォルカの一言がフィニカの頭から離れることはなかった。

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