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(六)策略

 健児は木暮の解雇かいこについて綿密めんみつな計画を立てた。そして、深夜佐々に電話をして事情を説明した。


「もしもし佐々さんですか。坂本健児です。」

「どうしましたか?」

「木暮裕太のことで相談があります」

「どんな相談?」

「木暮が仕事をしないで怠けているので注意したところ、木暮からいじめを受けるようになったんです」

「そうなんですか」

「それで、木暮を辞めさせて岩脇を戻そうと思っているんですがどうですか」

「……」


 佐々は少しためらっていた。やはり仕入担当者は岩脇のことを嫌っているようだ。


「木暮は怠けてばかりいてまわりの者にも迷惑かけているし、入力も間違いだらけでしょ。岩脇は入力作業は真面目に正確にやっていたじゃないですか。木暮を辞めさせて岩脇を戻せば経理担当者も楽になるんじゃないですか」

「私達も木暮さんには困り果てていたんです。入力は間違いだらけで伝票をすぐに無くすし、締めにいつも遅れるし、それに秘書の人達と話してばかりいるし、業務中無断で居なくなるし」

「それじゃあ、木暮をくびにして岩脇を戻せばいいじゃないですか」

「それはそうですけど」

「ただ、木暮は秘書課の女性と仲がいいので、佐々さん達が秘書課と険悪な関係になるかもしれませんけど」

「そのことは大丈夫です」

「では、木暮をくびにするということでいいですね。岩脇を職場に戻れるように取り計らいますので、佐々さんも総務課に事情を説明してください」

「わかりました」

「ではお願いします」


 これで木暮がいなくなる。と健児は内心安堵(あんど)していた。ところが、事態は一向に進展しなかった。一週間経っても二週間経ってもなんの音沙汰おとさたもなかったのである。


 その理由はすぐに明らかになった。佐々が動かなかったのだ。総務課に一言「木暮が怠けて仕事をサボってばかりいるので解雇したい」と言えばよかったのだが、相談するどころか何も言わなかったのだった。


―せっかく経理担当のためにお膳立ぜんだてしてやったのに、佐々が動かないのでは何も進展しないではないか。派遣の扱いなど所詮この程度なのか―


 健児は佐々にすっかりあきれていた。


 健児は岩脇のためにも策動さくどうしていたのだが、岩脇も奇妙なことを言いだした。木暮をくびにして岩脇を復帰する算段を電話で話している時のことだった。岩脇が突然「健児さんが辞めて僕が戻るというのはどうですか」と言いだしたのだ。健児は唖然あぜんとした。後輩の岩脇のために策略さくりゃくをめぐらしていたのに無礼ではないか。それに岩脇は佐々に嫌われているので、健児がやめてしまえば職場に復帰することはできないのである。


 健児はとっさに岩脇に言った。


「そんなことを言うのなら、この話しはないことにするよ」


 健児のこの言葉に岩脇は激怒げきどして電話を切ってしまった。以来、岩脇は健児と話しをする度に「職場復帰を阻止した」と言い放ったのである。岩脇の言い分では、坂本のおやじ語録に職場復帰を阻止そししたことが克明こくめいに記載されているとのことだった。


 健児が呆れたのは、私立大学最難関であるW大政治学部出身の、岩脇の思考能力の欠如けつじょだった。仮に健児が岩脇の職場復帰を阻止したとして、それが健児に何の利益があるのであろうか。少し考えれば答えは明白なはずだ。しかし岩脇は、坂本のおやじ語録に克明に記載されていると言い放って、職場復帰を阻止したと健児に言い続けたのである。


―プライドだけは東大なみのつまらぬ男だ―


 健児の孤立感はさらに増していった。


読んでいただきありがとうございます。

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