26.管理者とワルージョ巨大化
大勇者ミサカさんの奥義、【快刀乱麻】でワルージョ一発OK!
すごい!
「やっぱりミサカさんすごいです!」
「ありがとっ! でもね、私がすごいんじゃなくて、勇者がすごいんだよ!」
なるほど。
勇者なら、魔法が無くても空を飛べる。
勇者なら、剣が無くても敵を切断できる!
確かに……。
「勇者、すごい!」
「そう! 勇者、すごい!」
「「ゆうしゃすごーい!」」
きゃっきゃ、と僕らははしゃぐ。
一方ヒキニートさんたちはまた二人で話してる。
「……誰か知らんが、よくもあんな規格外のバケモノ、封印できたな。というか、どうやって封印したんだ?」
「それは、転生者の天敵がいるからだよ、この世には」
「……転生者の天敵……?」
さぁってと。
ワルージョをミサカさんが倒してくれたし!
あとはカバンにあれを、しまっちゃいますね!
「蠅王宝箱!」
巨大な黒い獣となったスペさんの口から、無数の触手が伸びていく。
ワルージョをカバンの経験値にしちゃおうとした、そのときだった。
ぱぁん!
『ぬわぁ……!』
スペさんとカバンとが分離させられた。
子犬状態のスペさんがいずこへとすっ飛んでいく!
僕はジャンプしてスペさんをキャッチ!
「大丈夫!?」
『うむ……大丈夫じゃ。じゃが、カバンと分離させられてしもうたわい』
「いったい誰が……?」
すると、ワルージョのそばに一人の女が現れた。
顔をベールで隠してるので判然としない。
「誰だおまえ!」
顔を隠してるが、胸が大きくくびれた腰から、女であることがわかった。
ベールの向こうで女が、クスクスと笑う。
「久しぶりね、神坂愛。そして、ヘルメス・洗馬」
女がミサカさんの名前を呼ぶ。
ヘルメス・洗馬……?
「ぼくの名前だよ!」
「ああ、ヒキニートさんの本名か。忘れてたや」
もうずっとヒキニート呼びだったしね。
「せばっちゃんと私の名前を知ってる……? あなた、何者っ?」
ミサカさんの問いかけに、女はクスクスと笑う。
「あら、お忘れ? 管理者のことを」
「管理者……?」
なんだそりゃ。
どっかで聞いたような……。
「!?」
ミサカさんの顔が真っ青になる。
えええ!?
「ど、どうしたのっ!? ミサカさん!」
するとミサカさんが僕をどんっ、と突き飛ばした。
「わっ! な、なに!?」
「駄目! 私から離れて! でないと……」
くすくす、と管理者と呼ばれた女が笑う。
「【神坂愛、カバンの勇者を攻撃せよ】」
「ぐ、あぁあああああああああああああああ!」
ミサカさんが急に苦しみだした!
ど、どうしたんだ!?
なにがあったんだろ!?
「ミサカさ……」
「啓介君! だめだ!」
ヒキニートさんが魔法で空を飛び、僕を羽交い締めにする。
ひゅっ……!
と何が目の前を通り過ぎていった。
一瞬遅れて、
スパァアアアアアアアアアアアアアアアアン!
音が、聞こえた。
眼下の街の一部が……消えていた。
否、切り取られていた。
「危なかった……愛ちゃんが剣術で、君を斬り殺そうとしてたんだよ」
「!? そんな……どうして!?」
「管理者のしわざさ」
「管理者の? どういうことっ?」
するとミサカさんがこちらに飛んできた。
神眼を持つ僕はその動きを目で捕らえることができる。
「ごめん、けーすけくん、ごめん……!」
泣きながら、ミサカさんが斬りかかってきた!
どうなってるんだ!?
「管理者は、ぼくら転生者を思うがまま、操ることができるんだ!」
「転生者を、操れるだって!?」
な、な、なんて酷いことしやがるんだ!!!!!!!
管理者のやろう!!!!
ごぉおお! と僕の体から黒い魔力が吹き荒れる。
『ケースケ! おぬしまで暴走してどうするのじゃ!』
は!
そ、そうだ。
だめだ。僕まで暴れてちゃ、誰がミサカさんを助けるんだ!
僕が助けないと! だって僕、ミサカさんのこと大好きだから!
ミサカさんは現在、管理者の支配を受けている。
つまり、肉体の主導権がない状態。
ならば!
「悪魔の左腕!」
僕は新スキル悪魔の左腕発動!
ミサカさんの体に触手がずぶっと刺さる。
ミサカさんの魂を肉体から分離!
がくん! とミサカさんの動きが止まる。
「ミサカさん!」
僕は落下する彼女を空中でキャッチ!
『けーすけくん……ありがとう』
魂となったミサカさんがぽろぽろ涙を流す。
『ごめんね、また迷惑かけて……』
「ぜんぜん! だいじょーぶ!」
そうだ、迷惑なんて思ってないんだ!
「だって僕はあなたが、好きだから!」
『! け、けーすけくん……』
ミサカさんが涙をまた浮かべてしまう。
あとで、ちゃんと好きって伝えよう。
「さすがはカバンの悪魔といったところでしょうか」
管理者の女がくすくす笑う。
ミサカさんを操っておいて、何笑ってるんだ!
ぶっ殺すぞ!
「よくも愛ちゃんに酷いことを!」
ヒキニートさんもまたキレてる。
二人は友達同士って言ってたもんね。
「酷いこと? 私はただ、転生者たちが無秩序に暴れ回るのを、管理してるだけですわ」
「支配してるの間違いだろうが!」
「まぁ怖い。でも吠えるだけなのねあなた。外に出たら、支配されちゃうものね。だからずっと引きこもってたのよね」
そうか。
ヒキニートさんも転生者だ。つまり、管理者によって、さっきミサカさんがやられたように、動きを支配されちゃう。
だから、ずっとあの人引きこもってたんだ。
「私を殴りたいなら、ほら、かかってきなさ……」
僕はもう走り出していた。
一瞬で近づいて、管理者の女の頬に向かって、パンチを繰り出す。
どごおぉおおおおおおおおおおおおおおん!
「あらあら、酷い。女の顔を殴るなんて」
気付いたら、管理者は僕の背後にいた。
おかしい、ちゃんと頬に一撃入れたと思ったのに!
もう一度パンチしようとすると目の前で消えてしまう。
神眼でも、やつの動きはとらえられなかった。
「落ち着いて。今日はあなたちと事を構えるつもりはないの」
「じゃあ何しにきた!?」
ワルージョは僕らから離れた場所にいる。
そのそばには、真っ二つになったワルージョ。
「本当だったら、儀式で集めた力をワルージョに込めて、国を破壊しようと思ったんだけどね。儀式は失敗しちゃったわ」
だから、と管理者は笑いながら言う。
「魔王の力を使わせてもらうわ」
「魔王?」
すると、ワルージョの頭上に魔法陣が展開。
そこから、巨大な何かが出てきた。
全身が炎でできた巨大なドラゴン……
『イラ! イラではないか!』
スペさんが叫ぶ。
イラ、ってたしか憤怒の魔王の、イラさん!
『貴様管理者! イラをどうするつもりじゃ!』
スペさんがフェンリル姿になって叫ぶ。
「どうするって、こうするのよ」
管理者はぱちんと指を鳴らす。
イラさんが口を開けた。
よく見ると、イラさんの体には鎖が繋がれていた。
イラさんの口の中に、ワルージョの死体が放り込まれる。
『『が! ぐぎ、がぁああああああああああああああああ!』』
イラさんが苦しそうに叫び出した。
その声にワルージョの声もまじっていた。
イラさんの炎が真っ黒になる。
黒い炎が空いっぱいに広がった。
僕はミサカさんを抱いて空から地上へと降りてきた。
「……なんだ、あのばけものは!?」
「魔王の力が、暴走してる。ワルージョとイラが合体したんだ!」
シズカさん、ヒキニートさんが空を見上げる。
気づけば、超超超巨大な黒い何かが空を覆っていた。
僕らが地上から見上げても、その全貌が見渡せなかった。
『巨大化だよ! けーすけくん!』
魂だけとなったミサカさんが、興奮気味に言う。
『追い詰められた悪党が、最後に巨大化するあれだよ!』
「そ、そっか」
ミサカさん、さっきまでちょっとシリアスムードだったのに。
今なんか、すごく興奮してた。
逆にちょっと僕はテンションの落差に戸惑ってしまう。
「今、上空に扉を開いた」
ヒキニートさんが目を閉じながら言う。
「愛ちゃんの言う通り、ワルージョは超巨大化している」
『ほら! ね! 悪い奴は最後に巨大化する! それを正義の味方が倒す! お約束展開がきたこれだよ!』
確かに特撮番組でよくある展開だ。
管理者の女はくすくす笑いながら言う。
「私はこれで撤退するわ。さぁ、勇者諸君。魔王の力を取り込み、巨大化したワルージョを、果たして止められるかしら?」
そう言って、管理者は指を鳴らすと、消えてしまった。
『あ、もう体、大丈夫。支配が解けたみたい』
僕はミサカさんを肉体に戻す。
ふう、よかった。また暴走しなくて……
「倒さないとね!」
ミサカさんが目をきらっきらさせながら言う。
「な、何をですか……?」
「巨大化した悪をだよ! でっかくなった敵をたおすのも、正義のみかたの仕事だよ!」
な、なるほど。
そんな仕事が。
「で、でもどうやって倒しましょう。あんな大きな敵を」
「大丈夫!」
おおミサカさんには何か手があるみたい。
「なんとかなる!」
「え、まさかの無策……」
「なんとかなる! だってここには、勇者が5人もそろってるんだし!」
僕、ミサカさん。
オタクさん。
ヒキニートさん、シズカさん。
確かに5人揃ってる。
「正義の味方が5人揃ってるんだもん! 巨大化した悪党なんて、力を合わせれば倒せる!」
「……根拠はなんだ?」
シズカさんの問いかけに、ミサカさんが堂々と答えた。
「正義は、必ず勝つから!」
「……いやそれ根拠じゃないし。どうやって倒す?」
「なんとかなる!」
「……だ、誰かこの女の暴走を止めてくれ!」
そんなミサカさんの姿を見て、僕は……。
「ですよね! なんとか、なりますよね!」
「「暴走列車が二台に!?」」
そうだよ、ミサカさんの言う通り、正義は必ず勝つんだから!
「これまでみたいに、勇者が力を合わせれば、なんとかなりますよ! 一緒に頑張りましょう!」
「そうでござるな! 力を合わせましょうぞ!」
オタクさんが乗っかってくる!
よし!
「……今までおれらって、力合わせてたか?」
「まあ、ほぼ啓介くんが暴れてただけで、ぼくらはつっこんでただけっていうか」
こうして、巨大化した魔王を、勇者5人が倒すことにしたのだった!




