05.会議からのカチコミ
僕のスキル、■庭の中にて。
露天風呂につかるヒキニートさん、ヘルメスさん、スペさん……。
と、僕。
「オタクさんも入らないんですか?」
「はいでござる。女子たちの中に、おっさんが入ったら、嫌でござろう?」
うーん……さすがオタクさん、紳士だなぁ。
「啓介君は若い女と一緒に風呂入ってるのに、なんとも思わないのかい?」
とヒキニートさん。
今は進化して、爆乳エルフになってる。
「うーん……特に。姉ちゃんと結構大きくなるまで、一緒に風呂入ってたんで」
「へえ、お姉さんと風呂に。いつまでだい?」
「中三くらいですかね」
「つい最近じゃないかっ!? ちなみにお姉さんはおいくつ?」
「社会人ですよ」
「お、おう……お姉さんと仲が良いんだね」
「そうですね。姉ちゃん、ショタコン……? ってやつみたいで、小さな男の子が好きなんですって。だから僕とも風呂に入りたがるっていうか」
「さ、佐久平家大変そうだね……あんまり深くは聞かないでおくよ……」
で、だ。
「そろそろ教えてほしいでござるな」
風呂の近くで、目隠しして、背中を向けながら……オタクさんが言う。
「セーバー殿が、拙者と啓介殿を、呼び出した理由」
そうだった!
僕この人に呼び出されてたんだ。そういえば、なんでだろう……?
「理由は大きく2つあるんだ」
ぴっ、とヒキニートさんが指を二つ立てる。
ちなみに湯船は乳白色してるので、大事な部分は見えなかったりする。
「2つか。聞いてあげましょう」
「ナチュラル上から目線だね……まあいいや。1つ目」
ぴっ、とヒキニートさんが僕に指を向ける。
「カバンの勇者、および、弓の勇者。君たちは今、命を狙われている」
「なっ!? 拙者たちが……命を狙われてる!?」
オタクさんが驚愕する。
僕は……どうだろう。ここに来る前だったら、ヒキニートさんの言葉、全く信じなかったと思う。変な人だし。
でも、ここに来て考えが少し変わった。
ヒキニートこと、セーバーさんは、ミサカさんの仲間だった。
僕は、セーバーさんを信じられない。でも、ミサカさんのことなら信じられる。
だから……僕はセーバーさんの言葉を信じてあげることにした。
「命狙われてるって……誰にです?」
「あっさり信じるね」
「ミサカさんに感謝してくださいよ?」
「お、おう……そっか。ありがとアイちゃん……」
ふむ、とスペさん(人間バージョン)が、神妙な顔つきでうなずく。
ちなみにスペさんは人間になると、プロポーション抜群の巨乳美女になるのだ。
姉ちゃんよりナイスバディお姉さんなので、その、目のやり場に少し困る。
え、ヒキニートさんはって?
中身ヒキニートだからドキドキしない。
「ゲータ・ニィガのワルージョ女王かの?」
「正解だよ、スペルヴィア。そのとおり、ワルージョが君ら二人の命を狙っている」
なんてこったい。
あの女王め!
勇者を捨てただけでは飽き足らず、僕らを殺そうとするなんて!
ふてえやろうだ!
「経験値取ってやろうかなっ」
「啓介君おちついて……」
しかし、ふぅうむ……。
ワルージョが僕らをねえ……。
「どうして、我らを殺そうとするでござるか?」
「新たなる勇者を召喚するためさ」
んん?
新たなる勇者の召喚……?
「なんで新しい勇者を召喚するのに、僕らを殺さないといけないんです?」
「勇者召喚をするためには、今の四大勇者、全員が死亡してる必要があるのさ」
四大勇者。
儀式によってこちらの世界に呼び出された、四人の勇者。
剣。
槍。
弓。
そして……この僕、鞄。
「このうち、剣の勇者チャラオの死亡が確認されてる」
「ええー! そんな……女王がもう勇者を殺してるんですね! くそ……このままじゃ大事な友達であるオタクさんまで殺されちゃう……!」
ヒキニートさんが「お、おう……」となんだか微妙な表情をする。
え、何そのリアクション?
(※↑反転魔族化した剣の勇者を殺したのは、啓介本人です。セーバーはそのことを知ってます)
「ま、まあ何にせよ、四大勇者は残り三人。女王は必ずこの三人を殺そうとしてくる」
「しかしヒキニートよ」
スペさんが手を上げる。
「なぜ、女王は今になって、勇者を殺そうとしてるのじゃ? 確かケースケたちを呼び出したのが15年ほど前じゃったのだろう?」
あ、そっか。
最初から僕らを殺すつもりだったなら、もっと早い段階で殺せたはずだ。
オタクさんも僕も、今は呼び出したときより強くなってるわけだし。
殺すつもりで呼びだしたんだったら、早いうちに殺せば良い。
なぜ、今になって殺そうとするんだろう?
「女王に、勇者抹殺の命令がでたのが、ついこないだだったからだよ」
「ふむ? 命令が出た……? 誰が命令してるのじゃ……?」
スペさんからの問いかけに、セーバーさんは答える。
「廃棄神から、さ」
「はいき、しん……?」
知らない単語が出てきたぞ。
「なんでござるか、その、廃棄神……とは?」
「現在、魔族等を率いてる、悪の親玉の名前さ」
なるほど……悪の親玉……。
しかも魔族を率いてるって……。
ん? んんっ?
「あれ、ヒキニートさん……今、変なこと言いませんでした? 廃棄神は、魔族などを率いてるって」
「言ったね」
「でも、ワルージョ女王は、廃棄神に命令されて動いてるって……」
「言ったね」
あ、あれ……?
「じゃあ……ワルージョと魔族って……仲間?」
「啓介君、珍しく鋭いね。正解だ」
珍しくって……。
蠅王宝箱っていいかな……?
しかしまさか……ううん、ワルージョが悪いやつと内通してたなんて!
ワルージョが、悪い女だったなんて……意外だ。
(※↑啓介はあくまで真面目です)
「……やはり、そうでござったか」
一方でオタクさんは、どこかわかっていたような感じでうなずいた。
「ワルージョは最初から変でござった。魔族と戦うため、我ら勇者を呼び出したといった。しかしこの世界ではすでに、魔族は大昔に滅ぼされていた」
確か魔族がそんなこと言っていたような。
「他にもおかしなところが多々あったのでござるが……まさか、魔族と内通していたとは」
オタクさんはワルージョが悪いやつって言う、確信はなかったけど、疑念は抱いていたんだね。
すごい! 察しがいいな! かっこいい!
「廃棄神は魔族や、反転魔族等を率いて、この世界を支配しようとしてるのさ」
なるほど……。
つまり、廃棄神は悪いやつで、他にも悪い魔族がいるってことだね!
「わくわく!」
「え、啓介君、なんでわくわくしてるの……?」
若干引いてるヒキニートさんに僕は言う。
「だって、敵がいっぱいいるんでしょ? なら、経験値取り放題じゃないですか!」
今僕がしたいことは、聖武具のレベルを上げて、ミサカさんの呪いを解除すること。
レベルを上げるためには、魔族の経験値がいる!
「勇者の敵ってことは……そいつらの経験値、全員分奪ってもいいってことですよねっ」
「お、おう……ま、まあ……いいんじゃない? 敵だし」
やったー!
よぉし、全員ぶっ殺してやる!
「で、その廃棄神はどこにいるんですかっ?」
「さ、さぁ……」
「さぁって?」
「廃棄神は滅多に姿を現さないんだよ。自分で動くタイプじゃないんだ」
人に命令して、部下にやらせる……みたいなタイプなんだね。
なるほどぉ~。
ううむ。
「あれ、でもワルージョ女王は、知ってますよね? 廃棄神の居場所」
「そりゃ……まあ、ワルージョは廃棄神の命令で動いてるし……」
なるほどなるほどっ。
いよぉっし!
「わかりました!」
ざば!
「ステイ! ステイ啓介君! 何する気!?」
「え? ゲータ・ニィガ王国に、カチコミに行こうかなって」
「はぁあ!? か、カチコミぃ!? 君状況理解してるの!?」
「はい、命狙われてるんですよね? なら、命狙ってもいいですよね?」
撃っていいのは、撃たれる覚悟があるやつって言ってたもんね!
「いやいやいや! 君、今お尋ね者なんだよ!? ゲータ・ニィガ行ったら、つかまっちゃうよ!?」
「望むところですよ! 捕まれば、逆にワルージョのとこいけるでしょうし。ならボコって廃棄神の居場所を吐かせればOKじゃないですか!」
「やだこの勇者、殺る気満々なんですけど!?」
そりゃね。だって廃棄神とかいう悪いやつの首をとれば、経験値たまるだろうし、そうすれば……ミサカさんの呪いを解けるじゃないか!
「ということで、ゲータ・ニィガ王都へ乗り込みたいです!」
ヒキニートさんが顔で手を覆う。
「こいつヤバイよ……」
「よく言った勇者ケースケよ! この高慢の魔王も、お手伝いするのじゃ!」
ざばぁ! とスぺさんが湯船から立ち上がる!
わぁ、見ちゃいけないものが!
「うふ♡ じゃあこの色欲の魔王も、お手伝いしちゃおっかなぁ~」
いつの間にか、湯船にはまた新しいお姉さんが出現!
色欲の魔王ルクスリアさん!
しかも全裸! あわわわ!
「皆さんしゃがんで! 見えちゃいけないところが見えちゃう!」
おとなしく座るお姉さん魔王たち。
一方、頭を抱えるヒキニートさん。
「うわぁ魔王が3体、ゲータ・ニィガに攻め込もうとしてるぅ~……」
魔王が……3?
魔王はスぺさんとルクスリアさんの二人でしょ?
ヒキニートさん、数も数えられないんだろうか?
「啓介殿……」
「よしいいぞ、弓の勇者! もはやあの鞄の魔王を止められるのは、君しかいない!」
「拙者も同行いたしますぞ!」
「止めろよぉおおおおおお!」
オタクさんまで付いてきてくれるなんてっ!
心強いことこの上ないよ!
「え、ええ、オタク君……なんで君までカチコミ行こうとするの……?」
「理由は二つ。1つは、純粋に啓介殿の体が心配だからでござる。敵は国レベルの組織を動かす女。啓介殿の身に危ないことが起きるやもしれない。だから、拙者は友を守るために、ついていこうと思ったのでござる!」
オタクさん……!
僕のこと心配してくれるなんて! わーいうれしい!
「……二つ目は?」
「帝国を守るためでござる」
「帝国を守る?」
「うむ。ワルージョが拙者の命を狙うということは、帝国の民にも被害が及ぶ可能性が高いのでござる」
あ、そうか。
今オタクさんは帝国で暮らしてるんだった。
確かにオタクさんを狙って、ゲータ・ニィガの騎士たちが、帝国に乗り込むかもしれない。
そうなると、他の人にも迷惑掛るか。
「拙者が単身で乗り込めば、帝国に被害が出ないと思ったのでござるよ」
「な、なるほど……一か所にとどまって防衛するより、敵陣に乗り込んで、敵の本丸をつぶし、身を守るってことなんだね」
オタクさんは僕を、そして帝国を守るため、ワルージョと戦う決意をしたってことみたい。
「これで魔王が三人、そして勇者が二人」
「……え? これ、もしかしてぼくも行く流れ?」
「行かないのでござるか?」
「いや、ワルージョが狙ってるのは君ら二人だけだし……」
ん?
あれでも、じゃあなんで、ヒキニートさん僕らをここに呼んだんだろう?
僕らに警告するためだけ?
なんか理由もう一つあるとか言ってなかったっけ?
「まあでも……そうか。うーん…………わかったよ。ぼくも君たちについていく」
「ありがとうでござる! 心強いでござるよ!」
カチコミに参加するメンバーは、僕、オタクさん、ヒキニートさん、スぺさん、ルクスリアさん。
以上の5名ってことか。
「ジャガーさんに乗ってけば、結構すぐ到着するね~」
『自分、ケースケの兄貴を運ぶっす! 喜んで運ばせてもらうっすぅ!』
わぁ、すごい、ジャガーさん協力的ぃ~?
なんでだろう?
(※↑魔王が怖いみたいです)
「この戦い……まあ、魔王3、勇者2なら、いけるか……」
ヒキニートさん相変わらず数が間違ってますよ?
勇者3、魔王2ですよ?
「ワルージョのもとにも勇者がいるし、魔族もいる。それ以外にもやばいのがいる。……それでも、ほんとに行くのかい?」
ヒキニートさんが最終確認してくる。
僕の脳裏には、ミサカさんの笑顔しかなかった。
「行く。ゲータ・ニィガに。そこで大暴れして、ワルージョぶん殴って、いっぱい経験値ゲットして、ミサカさんを解放するんだ!」
かくして、僕たち魔王勇者合同パーティは、ゲータ・ニィガ王国へカチコミに行くことにしたのだった。




