移動
ルルルとエレンシアに襲い掛かってきた狼に向けて、トライデントは真っすぐに向かって行った。
その鋭い穂先は狼の横腹を見事に捉え、狼は痛みにうめきながら苦しんだ。
しかし、狼の瞳はまだ憎悪に燃えている。
苦しみながらもルルルの方へ向き直り、鋭い爪で彼を切り裂こうと腕を上げる。
ルルルは狼の爪が振り下ろされるより早く、再びトライデントを深く突き刺した。
狼は内臓を完全に貫かれ、力を失い動きを止めた。
(よかった。無事に彼女を守る事ができた)
彼女の安否を確認するために振り向くと、エレンシアは地に膝をつき苦しそうに呼吸を乱していた。
「大丈夫?怪我はない?」
心配そうにルルルはエレンシアに尋ねる。
「有難うございます。ですの……英雄様……魔力が尽きそうです。結界の外で……お話がしたいですの」
と彼女は苦しみながらも必死に訴えた。
エレンシアは魔獣の攻撃を避けるために残された魔力を瞬時に使い、真上に飛んだ。
結界の中に侵入するためのネックレスに魔力を奪われ、彼女には魔力がほとんど残っていなかったのだ。
苦しそうに訴えるエレンシアの言葉の意味をルルルは理解できていなかった。
(英雄?結界?魔力?全く意味がわからない……でも、苦しそうな彼女をほおって置くことはできない。彼女の言う通りにしてみよう)
「俺はルルル。見ての通りただのペンギンだよ。とりあえず事情は全く理解できないけど君の言う通りにするよ。結界の外に案内して、では、ちょっと失礼するよ……」
どう見ても自分で歩く事は不可能だと感じたルルルは、エレンシアの身体をひょいっっと持ち上げ、両手で頭と膝の裏を支え立ち上がった。
(なんか照れくさいな……こういうの)
エレンシアは彼にいわゆる抱っこをされた状態だった。
一瞬で顔を真っ赤に染めるエレンシア、恥ずかしい気持ちでいっぱいだった。
だが今の苦しい状態では自分で歩く事も困難だった。
ルルルの顔を見上げると彼も照れくさい顔をしている。
「ありがと、ですわ」
照れ隠しに下を向きながらエレンシアは答えた。
エレンシアの体調が思わしくないこともあり、彼女を抱えながら進んでいくルルル。
いつ獣が襲い掛かってくるか分からない中で、緊張感が漂っていた。
周囲を警戒しながらもルルルはエレンシアの身体を気遣った。
「苦しいなら進む方向だけ指してくれればいいよ」
エレンシアも苦しさに耐えながら気丈に振る舞い、結界の外への方角を的確に案内した。
時の経過は長くはないかもしれないが、エレンシアのルルルに対する信頼が芽生えつつあった。
エレンシアが結界の境目を見つけたと告げると、ルルルは興味深そうに彼女の指し示す方向を見た。
「あの氷柱木のたくさん生えている辺りが結界の境目ですの。もう少しですわ。」
ルルルは結界の外と思われる方向に目を凝らした。
すると凍った柱に「つらら」の様に刺々しい枝が生えている「木?」のようなものが幾本も地面に刺さっている一帯があった。
そこには結界内とは異なる、厳しい自然の光景が目の前に広がっていた。
(凄い吹雪だ……本当に結界なんてものがあったんだなぁ。湖の周りの環境とは全く違うよ)
そして、エレンシアを抱えたまま結界の外へ踏み出していった。
突如、突風が吹き冷たい風が頬を撫でる。まるで彼らを新しい冒険へと導いているかのようだった。
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続きもマイペースにですが書いていきます。
懲りずに読んでいただけると幸いです。