油断、気配
長老からペンギンの英雄を村へ連れてくるように命じられたエレンシア。
村で一晩身体を休め、翌朝早くに再び原初の湖へと旅立った。
彼女はどうしても昨日の魔獣の脅威を忘れる事はできなかった。
いつもに増して警戒心が強くなるのは当然の事だった。
まずは結界の外からいつもの岩場に立ち、湖を観察する事から始めた。
「むやみに結界の中に向かっても魔獣の餌になるだけですわ。あのペンギン様を見つけて少し観察してから結界内に入る方が絶対に良いはずですわ。」
使命のためとはいえ安易に自分の身を危険に晒す必要はないのだ。
まずは気長に観察し、彼を見つける事を最優先とした。
鳥人族から原初の精霊の使いだと勘違いされている英雄ルルル。
もちろん、彼はそんな事が起きているなんて知らないままに過ごしていた。
エレンシアが湖に訪れ監視を始めた日、彼は作成したばかりのトライデントを眺めながらその日の行動を考えていた。
「とりあえず今日はこの住処周辺をもう一度探索しよう。昨日のように凶暴な獣を少しでも排除して安全圏を増やしていかなきゃ」
ルルルは周辺探索を開始した。
まず現れたのはハリネズミのような獣だった。
体調は60センチ位だろうか5匹ほどの集団で湖の水を飲んでいた。
ルルルは彼らを見つけると彼らには近づかず、逆にこっそりと距離を取るように離れて行った。
彼らがギリギリ見えるくらいまでの距離をとると静かに湖に身を沈める。
そして、水中から彼らの居た場所まで泳いでいった。
水を飲んでいるハリネズミ達……ルルルの存在には気づいていない。
昨日の魔獣の時と違い、今回の戦いはルルルの先制攻撃から始まった。
深場からゆっくりと浅瀬に向かい泳いでいくルルル、水音を一切立てずにまるでハンターのようだった。
しかし、ハリネズミ達も伊達にこの地で生き延びてきたわけでは無い。
一匹がルルルの存在に気づき、うなり声をあげる。
その時にはもう遅かった。
ルルルは水中からトライデントを突き刺す。先頭に居たハリネズミの身体を串刺しにしていた。
ハリネズミが動かない事を確認するとスッと身体から穂先を引き抜き次の攻撃に備える。
ハリネズミ達も黙ってはいない。
仲間が殺された事に怒り、その身にまとった針を逆立ててルルルを威嚇する。
威嚇と同時に彼らの身体から針が飛び出し無造作に周辺へと飛び散った。
近くの岩に向かった針は見事に岩に突き刺さり、表面を少し凍り付かせていた。
水面へ向かって飛んだ針も数本あったが、ルルルは水中に潜り簡単に回避する。
そして、すぐにもう一匹のハリネズミの身体にトライデントを突き刺す。
トライデントの穂先は非常に鋭く、少しの抵抗はあったがハリネズミの身体を難なく貫通させた。
自慢の攻撃と自慢の防御を簡単に破られた3匹のハリネズミ達は戦う意思を失い、すぐに走り去っていった。
見事に獣を打倒したルルルだったが、内心では驚いていた。
「新しいトライデントの貫通力は凄いな、軽いし大きな力もいらない。昨日の獣がよっぽど凄いやつだったのかもしれない……ちょっと、運が悪かったかな」
ルルルは自分の悪運に少し嫌気がさし、苦笑いした。
翌日もルルルは同じ行動を続けた。モグラのように雪に潜る獣も苦戦せずに撃退した。
「身体にも慣れてきたのか軽くなってきた。ずっと動いているのにそれほど疲労は感じないな」
朝から数匹の獣を倒し続けた。技術や思考回路が整ったのか最初より獣との戦いは楽になっていった。
獣を見つけると頭の中で次の行動が思い浮かぶ。そして身体も思う様に動く。
獣の攻撃も予測できるようになっていた。
夕方を迎える頃には陸の上でも獣を撃退できるようになっていた。
そんなルルルの行動をエレンシアは観察し、彼の次の移動先を予想した。
ネックレスを身に着けゆっくりと空から結界に侵入する。
そして彼が近づくのをゆっくりと待ち続ける。
もちろん魔獣にも警戒はしていた。はずだったが……
そのころ、夕暮れの湖畔を歩くルルルは、水面に揺らめく夕日の明かりを眺めながら進んでいた。
夕焼けの美しい湖の景色に少し油断をしていたのだろうか、突然近くで何かが動いた気配を感じた。
(ん、何かがいるぞ。敵か?!)
読んでくださって有難うございます。
少しでも評価していただけると有難いです。
続きもマイペースにですが書いていきます。
懲りずに読んでいただけると幸いです。




