鳥人族ですの
鳥人族の娘、エレンシアは一族の役目を果たすために原初の湖を訪れていた。
彼女は鳥人族の村の中でも特に魔力の保有量に優れ、長時間の飛行を難なく行う事ができる。
そのため鳥人族の使命である、この原初の湖の監視を任されていたのだ。
湖畔を見渡せる位置にある大きな岩の上に立ち湖を見下ろしていた。
今日も湖は静かで時折、魔獣の姿を見かけるがこれと言って大きな変化はない。
それは湖の周りに張られた強力な結界のおかげだった。
原初の湖に住む大きな力を持った精霊が、この湖の周辺に結界を張っているのだという。
結界は精霊自身を守るためのもので、大きな魔力をもった魔獣は立ちよる事ができないのである。
「今日も静かですわ。このまま何事もなさそうですわね。もう、帰るですわ。」
長老の孫娘である彼女は日ごろから丁寧な口調を心掛けている。
一日の役目を終えた安心感からか、独特の口調で一人言の様にそうつぶやき村への帰還を考えていた。
しかし、突然の出来事が彼女の平穏を破った。結界に守られ、静かなはずの湖で誰かの叫んでいる声が響き渡ったのだ。
(何かが起こっているですの?あの叫び声は一体何ですの?)
それはルルルが熊狼を挑発した際の叫び声だった。
それを知らないエレンシアは翼に魔力を込め、岩場から飛び立った。
問題の場所の上空に到着すると、湖を見下ろし何が起こっているのか地上を注視した。
「魔獣!!」
それは今まで確認してきた魔獣より、大きく凶暴な魔獣だった。
普段なら結界の中で見かけるような弱い魔獣ではない。
彼女は不安と恐怖に包まれ、心臓が激しく鼓動した。
何か異変が起きている事に不安を抱えながらも魔獣が何をしているか監視しなければならない。
大きく息をつき、冷静さを取り戻す。
そこで、もう一つの生物の姿を見つけた。
岸辺に向かってピョコピョコと走る可愛らしい姿である。
「え!?ペンギン族!!なんでペンギンがここにいるのですの?」
彼女は目を疑った。
結界内にペンギンがいる事なんてないはずだ。彼女達ですら長年結界には入れなかったのだ。
驚愕しながらも再び目を凝らし確認する。
あり得ない事だがペンギンは確かにそこにいる。
しかも、魔獣と戦っている様子だ。
戦いを仕掛けたのもどうやら彼の方からの様だ。
エレンシアは戦いの一部始終を結界の外、上空から観察した。
ペンギンと魔獣の戦いは緊張感に溢れ、壮絶だった。
例えるなら知恵と力のぶつかり合いというべきだろうか……
その小さなペンギンが魔獣の大きな暴力に屈せずに知恵を振り絞り、自分の能力を最大限に活かした戦いをしていた。
そして、苦戦しながらも魔獣を打ち倒したのだ。
紙一重で魔獣の爪を交わす冷静さ、攻撃を失敗しても逃げずに戦う勇気。
エレンシアはそのペンギンの勇姿に心を奪われた。
「彼は何故ここにいるですの?しかも魔獣と戦い撃退するなんて…とても信じられないですわ……一体何者ですの?」
彼の素性に対して大きな疑問が沸きあがったが、エレンシアには一番に優先する事がある。
「この出来事を早く長老に伝えなければならないですわ。彼の存在は鳥人族にとって、重要な情報となるかもしれないですわ」
エレンシアはこの時から彼に何か特別な力を感じていた。
長年にわたり変化がなかったこの地域の状況に変化をもたらす存在、そんな予感がするだった。
「原初の湖に何かが起きているですわ……」
動揺と共に心臓が激しく鼓動しする。
村へ帰る彼女の飛行速度も自然と早くなっていった。
村に到着し、慌てて長老の住まいに入る。
長老は彼女の顔を見て心配そうに尋ねた。
「エレンシア、どうしたのじゃ、何かあったのか?」
「おじい様、湖畔で驚くべきことが起こりましたの!魔獣が現れ、誰かがその魔獣と戦っていたですの!」
長老の眉が上がり、驚きの表情が顔を覆った。
「なんじゃと?原初の湖で魔獣との戦いが起こったじゃと?」
「はいですわ、長老。その戦いは激しく息をのむものでした。そして、ペンギン族の者が魔獣を打ち破ったですの!」
長老は一旦無言になり、暫く考え込むように沈黙した。
考えがまとまったのだろう、長老の目が広がり、喜びに満ちた笑顔で答えた。
「それは素晴らしい知らせじゃ!その者はきっと原初の精霊様の英雄じゃ。その者に会いたい。エレンシア、原初の精霊様の守護者として、わしは話をしなければならない。」
長老は獣人族を救う英雄が現れた事に興奮するが、心を落ち着かせエレンシアに再び話しかける。
「わかっていると思うが原初の湖は特別な結界がある場所じゃ。そこに入るには精霊のネックレスが必要じゃ。しかし、ネックレスの使用に魔力は徐々に奪われていく。とても危険な任務じゃ。村で魔力の一番多いエレンシアにお願いしたい。よいか?」
長老の言葉を聞いたエレンシアは静かに頷きながらその重要性を理解した。
エレンシアは非常に責任感の強い娘だった。村のためにその身を犠牲にする事に躊躇いはない。
「長老、私はこの任務を全力で果しますですわ。村の未来のため、そして私たちの安全のために、原初の湖で彼に会ってくるですわ。そして村に来てもらうように交渉しますわ。」
「ありがとう、エレンシア。流石わしの孫じゃの。」
長老はエレンシアの決意に感謝の意を示し、ネックレスをわたした。
読んでくださって有難うございます。
少しでも評価していただけると有難いです。
続きもマイペースにですが書いていきます。
懲りずに読んでいただけると幸いです。
3/19読みにくい部分を書き直しました。