油断
トカゲの魔獣を撃退するために走り出したササラ。
「いっくよ~」
魔獣に向かって正面から近づいていく、翼に纏わせた魔力はいつでも解き放たれてる状態だった。
ルルルの言うようにトカゲの背中は、固い氷のトゲで覆われている。
ササラは流石に「お手てカッター」でも、この頑丈なトゲを切り裂くことはできないだろうと考えていた。
歩くたびに左右に揺れるトカゲの頭をどうやって狙っていこうか、と一瞬考えたがササラはあまり気にしないことにした。
あの、巨大なヒョウアザラシに比べればトカゲの魔獣など大した敵ではないと油断してしまったのだ。
徐々にトカゲの魔獣との距離は近づいてくる。
5メートル、4メートル。ササラの射程距離までもう少し、ササラは「お手てカッター」を解き放とうとした。
「お手て……おっと~」
トカゲの魔獣は「お手てカッター」の射程に入る直前のタイミングで、体をグルっと一回転させ尻尾を鞭のように振り回し攻撃をしかけてきた。
尻尾についている固いトゲがササラの身体をかすめる。
「お手てカッター」の詠唱とモーションに取り掛かっていたササラは、後ろに倒れ込むようにして尻尾のトゲをギリギリで躱す。
そのまま地面に倒れ込むササラ、トカゲの魔獣は回転を終え、正面に向き直ったと同時に倒れたササラを噛み砕こうと迫ってくる。
ピンチを迎えたササラは、頭から血の気がスッと引いていくのを感じた。
上顎を大きく開き、牙をむき出して襲い掛かってくるトカゲの魔獣。
ササラは思わず目を閉じる。
……ゴン!
その時、トカゲの魔獣の頭に何かが勢いよく当たる音がした。
魔獣は一瞬、動きを止める。
「魔獣!……ササラ姉ちゃんをイジメるな!」
その声はココのものだった。
怯えながらもトカゲの魔獣を真っすぐに睨むココ。
魔獣はその強い視線に何かを感じ、ココの方へ頭を向けた。
そのわずかな隙を見逃さないササラ。
「お手てカッター!」
ココの作った隙のおかげでササラは魔獣倒す事が出来た。
ココはササラの元へ走り寄り、泣きながらササラに抱き着いた。
「お姉ちゃん、よかった……お姉ちゃんは、いなくならないで……」
ササラの胸の中で小さくつぶやくココ。
自分を守るために魔獣の囮になったココの父親たち、今の状況はココにとってトラウマだったのかもしれない。
ササラはそう思い、ココを力強く抱きしめた。
「ありがと~、ココ。ごめんね~」
そして、自らの油断でココをこんなにも不安にさせてしまったことを後悔した。
トカゲの魔獣が氷柱木の林から姿を現わし、走り出すササラ。ルルルも同じように魔獣を撃退するために走っていった。
取り残されたココとロン。ココはロンの顔を見ると悲しそうな顔をしてササラを追いかけて行った。
ロンは思った。あの時の光景と同じだと。
自分たちを守るために囮となってトカゲの魔獣を惹きつけて行った父親たちの姿と、ルルル達の姿が被って見えてしまった。
「もう、あんな思いはしたくない……」
ロンだって子供とはいえ多少の事は理解しているつもりだ。
囮となって走り去った父親たちが簡単に魔獣の群れから逃れられるはずはないと……
あれからは魔獣から逃れるためにココと二人で走り続けた。後悔しながらずっと走り続けていた。
「お父さんと一緒にいたかった……」
そう考えると自然と涙がこぼれ落ちた。
ロンは涙を拭うとルルルの後を追いかけていた。
ロンが追いかけている事も知らないルルルは、トカゲの魔獣2体を相手にするべく作戦を考えていた。
2体の魔獣はそれぞれが5メートル以上は離れている。
ならば正面から戦うのではなく、片方の魔獣の側面を目指して各個撃破を考える事にした。
考えられる魔獣の攻撃方法は3パターン。
回転して尻尾のトゲでの氷結攻撃、正面からの噛みつき、前足の爪での引っかき。
回転攻撃には片翼の刃で防いだ後に首を切断。噛みつきにはそのまま素早く首を切断。
引っかきは射程も短く余裕で躱せるだろうと考えていた。
考えがまとまると早速行動に移す。まず右の魔獣に向かい走り寄る、左の翼は下に向け防御の準備、右の翼は上に掲げすぐに振り下ろせるようにした。
魔獣との距離が詰まる、、3メートルまで近づくと魔獣は身体を回転させ、尻尾を振り回し攻撃を仕掛けて来た。
「読み通りだ!」
ルルルは即座に左の翼を地面に突き刺して尻尾の衝撃を受け止める。攻撃を弾かれた魔獣は反動でふらふらとよろけていた。
隙を見逃さずルルルは一体目の魔獣の首を切り落とした。
すぐに2体目の魔獣が近づいてくる。距離はすでに2メートル。
2体目の魔獣は走りながら首を前に突き出し、鋭い牙をむき出しに襲ってくる。
ルルルは即座に飛び上がり、魔獣の頭上から氷の刃を首の付け根に突き刺す。
ズブッ……
魔獣の皮をルルルの刃が突き破る音と共に、首の動脈から血液が流れ出す。
ルルルは地面に着地するとそのまま走り抜け、距離を取ったあと後ろを振り返る。
トカゲの魔獣は血を流し、うつ伏せに倒れていた。
そして、更に後方には不安な心を抑えきれずルルルを追いかけできたたロンが、呆然と立ち尽くしていた。
ルルルの強さに言葉を失ったロンだがルルルと目が合うと我に返り、小さく呟いた。
「すごい……」
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