迷い
ルルルを苦しめた魔獣に対し、巨大なマグロの氷塊を打ち出し撃退したササラ。
彼女は全ての魔力を使い果たし、崩れ落ちるように地面に倒れた。
意識も薄れてくて、瞼が上がらない。
「ルルルの元にいかなきゃ……」
ササラは疲れ切って、意識を手放した。
暫くすると洞窟の入口には何羽かのペンギン達が集まっていた。
彼らが見た光景は異常なものだった。
あちらこちらに見える氷塊、そして倒れるルルルの姿。魔獣の血なのか、血溜まりもできている。
その側にある巨大なマグロの形をした氷塊。氷塊は地面を食らうような形で頭を下にして突き刺さっている。
さらに少し離れたところではササラが地面に横たわりぐっすりと寝息を立てていた。
ヒョウアザラシを全て撃退したロドルは、現場をリリに任せて急いでこの場所にやってきた。
暗い洞窟の入口を潜り抜け、明るい地上に出た途端、この光景が広がっていた。
後ろからも短槍班のペンギンが追いかけてくる。
彼らもまた、この光景に唖然としていた。
気持ちを切り替え、指示をだすロドル。
「みんな、まずはルルルさんを安全な場所に運んで傷の手当てをしてくれ」
「はい!」「はい!」
そして自分はササラの元へ向かう。
ササラは本当にただ寝ているだけだった。
「疲れて力尽きたのか?それとも……」
少し離れた所にあるマグロの氷塊。そしてその近くにある血溜まり。
(ササラが魔力で生み出したのだろうか?)
マグロの近くには魔力を秘めた立派な牙が2本、根元から折れて落ちている。
マグロの口先は地面に埋まっていて見えないが、おそらく襲撃してきた魔獣が埋まっているのだろう。
そんなことを考えながら、ロドルは両手でササラを抱え、洞窟の奥へ戻っていった。
今回の襲撃はヒョウアザラシが9頭、ボスらしきヒョウアザラシが1頭。
魔獣はすべてを撃退する事に成功した。
ペンギン達の被害は盾ごと吹き飛ばされた1羽が打撲。
魔獣に吹き飛ばされたペルが軽い骨折。
魔獣に足を挟まれたギルが捻挫。
ササラが魔力の欠乏による失神。
「村長……ルルルさんの具合はどうでしょうか?」
「ああ、リリか。……良くないな。骨が何本か折れているようだし、肩も外れているようだ」
意識のないルルルを看病するガドルにリリが問いかけた。
ガドルは状況を説明するがあまり良い状態とは言えなかった。
「とにかく命に別状がないことだけが救いだろう。自分の身を犠牲にして村を何度も救ってくれたルルル殿には感謝しかない」
「はい……ルルルさんは凄いペンギンです」
瞳に涙を浮かべながら話す2羽。
他のペンギン達は倒したヒョウアザラシの素材を解体したり、湖に落ちた銛を回収したり。
洞窟の入口の血だまりを清掃したりと忙しそうだった。
ちなみにマグロの氷塊は動かす事もできず、そのまま放置されていた。
そして、夜にはササラも目を覚まし、それからはずっとルルルの看病に明け暮れた。
ロドル達は元気なペンギンだけで班を再編成し、峡谷の警戒にあたる。
ペン達は常に1羽を近隣の海中の警戒に当てながら、魚を狩に行く体制を整えた。
ガドルは全体の指揮を勤め、リリは訓練に没頭した。
ルルルは5日間寝たきりだったが、その後何とか意識を取り戻した。
しかし、身動きする事もできず、完治するまでに1か月の日数を費やした。
その間、ササラは毎日ルルルの看病をする。
何を考えているかわからないササラだったが、ルルルに対する思いの強さだけは周りのペンギン達も認めることとなった。
そして、更に2週間が過ぎ、ルルルは以前の感覚をとりもどし万全な体を手に入れた。
(みんな、とても強くなった。順調に周辺の魔獣を狩れるようになったし、リリとロドルには指揮官の素質もあるようだ)
村のペンギン達が世話しなく動いている姿を見てルルルはそう感じた。
もう、この村は自分がいなくても大丈夫だ。と思う反面、村から離れたくない自分の心も存在している。
ルルルは最近、こうして村のペンギン達の姿を眺めながら、自分の今後を考える時間が多くなっている。
ガドルは遠目からルルルを見ては、そんな気持ちを察していた。
もちろん、他のペンギン達も気づいている。
ルルルには他に成すべき事がある。この村のリーダーで収まるような器のペンギンでないことは全員が理解していた。
その日もいつものようにルルルはペンギン達の姿を眺めながら、考え事をしていた。
そんなルルルにガドル達が近づいて行った。
村の主だったペンギン達が近づいてくる姿をみて、ルルルは不思議そうに声をかける。
「どうしたの?みんな集まって」
「ルルル殿、私たち村の全ペンギンはルルル殿のために生きる事を誓っております」
ガドルの突然の物言いに驚いたルルル。
「そんな……いきなり何言ってるのガドル。おおげさだよ」
「ルルル殿、あえて言わせていただきます。いつまでこの村にいらっしゃるのですか?」
ルルルにはなんとなく理解できた。ガドルの言おうとしている事が。
彼はこのまま一生をこの村のためだけにささげるのか、それとも最初の目的通り旅立つのかを尋ねているのだ。
ルルルはしばらく考える。
「ガドル、それにみんな。俺は村を出るよ。正直、この村は大好きだ。俺の故郷といってもいい程にみんなも大好きだ」
「わかっておりますとも、ルルル殿……」
ガドルはルルルが何を言いたいのかわかっている。
ルルルはガドルの顔を見て全てを話すのはやめた。自分の背中を押してくれたガドルに感謝することにした。
「ガドル、ありがとう。明日、旅に出るよ」
ルルルの悩みが吹き飛んだような晴れやかな表情を見て、ガドル達は安心した。
自分たちのためにルルルをこの村に留まらせてはいけない。そう思っていたからだ。
「ルルルさん、たまに稽古をつけに寄ってくださいよ!」
「そうだ、新しい道具も思いついたら教えて欲しいしな」
「……うん、待ってる」
ロドルにロク、ライが声をかける。
リリは泣きそうな顔を堪えながらニコニコと作り笑いをしていた。
その日はみんなでルルルの送迎会をした。
たくさんの魚を用意して楽しく盛り上がった。
村での最後の一夜をルルルは幸せに過ごしたのだった。
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続きもマイペースにですが書いていきます。
懲りずに読んでいただけると幸いです。
この話で2章が終了します。
次回から3章となります。よろしくお願いします。




