犠牲
ルルルとササラは6頭のヒョウアザラシが次々と湖岸へ上がってくる姿を確認し、翼に魔力を込め始めた。
ロドルと、ササラ、ルルルの3羽がそれぞれ1頭ずつ相手にする事が出来れば、戦局はペンギン達に有利な展開になるだろう。
厳しい状況には変わりがない。しかし、ルルルとササラが動き出す姿を見て、ペンギン達の瞳には希望の色が見え始めた。
「みんな!後少しだ!ここが踏ん張りところだぞ!」
ロドルが気合を入れる。
(俺とルルルさん、ササラ、そしてリリのバリスタ。これで4頭は仕留められるぞ。もう少しだ!)
ロドルはそう考え、翼に魔力を強く込める。そう、誰もが後少し、そう思った時だった。
洞窟の入口側から息を切らしながら走ってくる若いペンギン。
彼は洞窟へ続く峡谷の見張りをしていたペンギンだった。
「ルルルさん!……はぁ、はぁ……」
休まずに走り続けたのだろう、息をするのもやっとという状態でルルルに話しかける。
「……はぁ、はぁ、大きな……魔獣が。とても大きな魔獣が……峡谷から洞窟に向かってきています!!」
この突然の知らせにペンギン達は唖然とする。ルルルは少しだけ呼吸を整え、頭を回転させる。
「そうか……そういうことか!してやられた。最初から挟み撃ちにする気だったんだ!」
これは自分が対処するしかないと判断し、洞窟の入口に体を向けた。
「ロドル!陸からも敵が来る!俺は入口を守る。ここはまかせた。踏ん張ってくれ、頼む!」
その言葉を告げると、ルルルは矢のように駆け出して行った。
ルルルという絶対的なリーダーが不在となり、動揺するペンギン達。
彼らは明らかに不安な表情を見せ始めた。
(まずい、この状況は‥…何とかしないと)
ロドルは焦る、ただでさえ6頭のヒョウアザラシの襲撃を受けている最中だ。
ルルルの不在によって、みんなの士気が落ちている。こんな状態ではかなり厳しい戦いになるだろう。
(どうしたら、いいんだ……俺がなんとかしなきゃいけないのに……)
そんな時、普段はマイペースなササラが大声で怒鳴るように叫んだ。
「みんな!何を弱気になってるの。ルルルをがっかりさせちゃダメ!ここは私たちだけで乗り切るんだよ!早く魔獣をやっつけて、私たちがルルルを助けにいくんだよ!」
ササラの言葉はペンギン達の心に、深く突き刺さった。
自分たちがどれほどルルルに依存し、甘えていたのかを突きつけられた。
そして彼らは自身を奮い立たせ、気合を入れる。
「ササラの言う通りだ!みんな!ルルル殿を助けにいくぞ!」
「そうっす!やってやるっす!」
「おお!やるぞ!」
「蹴散らしてやるぞ!」
村のペンギン達の思いが重なる。ササラの一言で、ルルルに甘えていた自分たちを一喝する。
「俺たちがルルルさんの助けになるんだ!みんな!いくぞ!」
ロドルの掛け声とともに、村のペンギン達の攻撃がより一層激しさを増していく。
まずはガドル達がバリスタの弦をセットし、いつでも発射が可能な状態にする。
ペンたち魚狩り班も短弓の扱いに慣れはじめ、狙いが正確になってきていた。
しかし、ヒョウアザラシ達も、すでに3頭が湖岸のスパイクをわたり終えようとしている。
体に矢を突き立てられながらも、真っすぐに進み続けていた。
3頭が湖岸のスパイクを渡りきり、ロドル達の前に立ちはだかる。
「ロドル、近すぎてみんなに当たっちゃう。バリスタが使えないよ」
リリが悔しそうに伝える。
せっかく発射可能となったバリスタだったが、こんな至近距離では敵だけでなく、味方も巻き込んでしまう。
「リリ、こいつらは俺たちで抑える!後ろのやつらは遠距離班で弱らせてくれ!」
ロドルは即座に答えた。
「置き盾を設置するんだ!短槍班!これ以上先へは通すな、食い止めるぞ!」
ロドルの指示が出ると各自置き盾を地面に突き刺して壁を作る。そして短槍を手にもってヒョウアザラシに立ち向かった。
「遠距離班!一番後方のヒョウアザラシに一斉射撃!倒れるまで打ち続けて!」
リリもすかさず遠距離班に指示をだし、自らはバリスタの銛を後ろから2番目のヒョウアザラシに向けた。
湖岸を乗り越えたヒョウアザラシは置き盾を邪魔そうに、前のヒレで打ち払う。
地面に刺さった杭が衝撃に耐え、置き盾が攻撃を防ぐ。
「置き盾は長く持たない!こちらからも攻撃開始だ!」
ロドルが攻撃を命じると、3頭のヒョウアザラシの体に一斉にペンギン達の短槍が突き刺さる。
悲鳴をあげるヒョウアザラシだが、まだ倒れはしない。怒りに満ちた表情で置き盾に向かって何度もヒレを叩きつける。
すると、置き盾の一つの杭が折れ、1羽のペンギンに向かって勢いよく飛んでいった。
「ぐあぁ……」
飛んできた置き盾に弾き飛ばされ1羽が意識を失った。
「誰か、奥へ連れていって」
リリがすかさず負傷したペンギンの救護を指示した。
置き盾の一つが決壊し、ヒョウアザラシが入り込んできた。
壊れた盾の隣にいたペンギンに、ヒョウアザラシが頭を大きく突き出し、牙を突き立てようと口を開く。
狙われたペンギンは、目の前の敵に専念していて回避できない。
「お手てカッター!」
駆け付けたササラに頭を水の刃で引き裂かれ、ヒョウアザラシは1体、前のめるように倒れ絶命した。
ササラの「お手カッター」がギリギリのところで仲間の命を救った。
しかし、ピンチはまだ続く。置き盾はすべてを破壊され、ヒョウアザラシからの攻撃を守る術が全て失われた。
「ここからが本番だ!敵の攻撃は受けるな!なるべく避けろ」
ロドルが短槍班に指示を出す。
叫んだ瞬間、ヒョウアザラシ鋭い爪がロドルに向かって襲い掛かる。
「ロドルさん、危ないっす!」
前ヒレがロドルの体を打ち付ける寸前。ペルが短槍を突き出し、攻撃を受け止め、軌道をそらした。
しかし、その体重差によって短槍ごと弾き飛ばされたペルは洞窟の壁に激突し、動かなくなった。
ロドルはすぐに翼に魔力を込めて、ヒョウアザラシの喉元に短槍を突き刺す。
それでも息絶えないヒョウアザラシは、苦しみながらもロドルを弾き飛ばそうと前ヒレを横に振る。
「お手てカッター!」「お手てカッター!」
ペルと共に駆けつけていた、ギルが辛うじて「お手てカッター」でヒョウアザラシの体を切り裂いた。
ヒョウアザラシは苦しみながらも倒れていった。
「お手てカッター」の射程が短いギルは、距離が近かったため、倒れるヒョウアザラシの巨体を躱し切る事ができない。
足を巨体に挟まれて身動きがとれなくなった。
ロドル達は2体のヒョウアザラシを撃退した。しかし、3羽の仲間が動けない状態となってしまった。
戦況はかつてない程に厳しいものとなっていた。
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続きもマイペースにですが書いていきます。
懲りずに読んでいただけると幸いです。




