防衛
村のペンギン達が緊張した面持ちで湖面を見つめる中、最初に湖から上がってきたのは魚狩り班の仲間たちだった。
洞窟内の湖の岸辺には、羊の魔獣の牙で加工した、スパイクが敷き詰めてある。
そして敷き詰めたスパイクの間には、ペンギンがギリギリ泳いで通れるだけの溝が掘ってあった。
魚狩り班はその溝に流れる水路を泳いで岸に上がってきた。
他の大型生物が岸に上がるには、スパイクの上を歩かなければならない。
スパイクの間の小さな水路を通ってくること、これがルルルがペンに伝えた最後の注意事項だった。
「ルルルさん、魔獣が3頭追いかけてきます。大きさは以前の魔獣よりは小さいと思います」
ペンがルルルに魔獣の情報を伝える。ルルルは力強く頷き、リリの方を見て翼で合図をする。
「ありがとう、ペンさん。こんなに早く襲ってくるとは思わなかった。みんなに怪我はない?」
「はい、みんな無事です!」
そう話をしているうちに、次々と魚狩り班たちが戻ってくる。
まだ、ヒョウアザラシの姿は見えない。
最後の1羽が溝から岸辺に上がるとリリの号令が響く。
「全員、構えて!焦らずに訓練通りにいくよ!」
(村は絶対に守ってみせるわ!)
リリ達は魔獣の素材加工が終わった後、ヒョウアザラシの魔獣が村の湖側から現れる可能性があることを伝えられた。
そのために準備をしてほしいと頼まれてから数日、誰もが短弓を扱えるように訓練をしてきた。
リリ班の4羽のペンギン達は、それぞれが村を守るための覚悟を決めていた。
誰もが無言で湖面を睨みつける。
ヒョウアザラシの姿が現れるのを待つ時間は、とても長く感じられ、緊張感が漂っていた。
すると、突如水面が大きくと揺れる。白い体に黒い斑点の生物の影がゆらゆらと水面に見えてくる。
ペルとギルは恐怖の表情をにじませる。
あの湖で命を失う寸前にまで追い込まれた時の記憶はまだ新しい。
「ペル!ギル!大丈夫、訓練の成果を見せるよ!」
怯える彼らにリリは声をかける。
「はいっす!リリ姉さん!」「はいです!」
そして、ついに魔獣が現れた。体長1.5メートルにも及ぶ巨体が水しぶきをあげながら浮き上がってくる。
その上顎から生えた大きな牙は冷たい氷の冷気を纏い、大きな口からは白く冷たい息を吐き出している。
「撃て!」
リリの号令と同時に、4羽の短弓から放たれた矢が一斉に空を裂き飛んでいく。
矢はヒョウアザラシの厚い皮膚に次々と命中するが、それだけでは致命傷には至らない。
怒りに満ちた叫び声を上げながら、ヒョウアザラシは勢いよく岸に向かって突き進む。
「ヴォォォー!」
ペンギンたちの攻撃に少し動揺しながらも、その巨体はまだ彼らに向かい進み続けている。
(なんて丈夫さなの!)
リリは動揺を隠すように大きな声で部下たちに指示を飛ばし続ける。
「怯まないで!どんどん矢を打ち続けて!」
最初のヒョウアザラシが勢いよく湖岸に足を踏み入れると、敷き詰められたスパイクが魔獣の腹部を切り裂いた。
「ヴォ~~~~」
痛みに苦しみながら、魔獣は大きな悲鳴をあげ動きを止めた。
「今だ!ササラ!」
ルルルは機を逃さない。魔獣の悲鳴にかき消されないよう大声で叫ぶ。
「りょ~かい~、いけ~~」
ササラの気の抜けた返事とは逆に、彼女の操る巨大バリスタから放たれた太い銛は凄まじい勢いで飛んでいく。
ドガン!――バシャーン!
銛はヒョウアザラシの体にぶち当たると、あっさりと穴を空け、そのまま後方の湖に落ちていった。
岸に上がろうとしていたもう一頭のヒョウアザラシも、矢とスパイクで傷だらけの状態になり、倒れるように湖面に転がり落ちていく。
「すげぇっす~」
「おおーー!!」
バリスタから発射された銛の威力に驚きの声をあげるペンギン達。
数日前、ライとロクが加工した素材を組み立てて作成した巨大バリスタ。
あの巨大ヒョウアザラシの素材で作り上げたバリスタの土台は、柔らかい革で多くの骨を束ね頑丈に作られていた。
そこに固い革で作った弦を何羽ものペンギンで引っ張り固定した。
弦を固定している分厚い骨をバリスタから引き抜くと弦が弾かれ銛が飛んでいく仕組みとなっていた。
飛距離は長くないが、その威力は絶大だった。
「まだ一頭いるから、そのまま油断しないで警戒して」
暫く呆然としていたリリも我に返って班員に指示を出す。
ペンギン達はもう一頭いるはずの魔獣が湖岸に姿を現わすのを待つ。
しかし、その後も魔獣が洞窟に姿を現わすことはなかった。
洞窟に姿を現わさなかった1頭の魔獣はその頃、必死で住処の湖を目指していた。
彼は他のヒョウアザラシの後ろを泳いでいたため、偶然ではあるがペンギン達の攻撃を水中から見る事が出来ていた。
湖岸に上がろうとする仲間に突き刺さる多くの矢、スパイクによって引き裂かれる仲間の腹部。
そして、大きな銛が仲間の体を突き破る様子。
それらを見てしまった魔獣は本能のまま、その場から立ち去った。
あの小さな生物は、今までの小型生物とは違う。自らが狩られる側であった事を認識した。
なんとか湖にたどり着くと夜になっていた。
逃げ延びたヒョウアザラシは、住処に戻るとすぐにボスの元へ向かう。
急に激しく泳ぎ回ったり、バタバタと水中で暴れ出したりする事で、自分たちに危険があった状況をボスに示した。
ヒョウアザラシの群れのボスは、3頭の内1頭しか帰ってこなかったこと、また彼の怯えた様子と特殊な行動でだいたいの事を察した。
「ヴォヴォヴォヴォヴォー」
ボスが一声吠えると群れの配下たちが集まってくる。
そして、ボスが大きく首を振り、尾を地面にたたきつけると、彼らは湖に戻り戦いの準備を始めた。
巨大な体のボスが1頭、群れの配下が8頭、逃げ延びた魔獣も含めると10頭のヒョウアザラシ達の襲撃がもうすぐ始まろうとしていた。
読んでくださって有難うございます。
少しでも★評価していただけると有難いです。
続きもマイペースにですが書いていきます。
懲りずに読んでいただけると幸いです。




