氷
ヒョウアザラシの魔獣とのすれ違う瞬間に水の刃を生み出したルルル。
水の刃はヒョウアザラシの体を切り裂く事はなかった。
水中で生み出された水の刃は周囲の水と融合し、効果を失ってしまったからだ。
(くっ、水中で水の刃は使えないのか……)
しかし、魔獣は何らかの殺気をルルルから感じ取ったようだ。
その巨体を器用に水中で一回転させ、ターゲットをルルルへと瞬時に切り替えた。
猛烈なスピードでルルルを追いかけるヒョウアザラシ。攻撃手段を完全に失ったルルル。
ルルルは無我夢中で魔獣から逃れるように泳ぎ続ける。
追い立てられたルルルは一気に湖の深くに潜り、勢いを付けて水面に向け急上昇する。
間一髪のところで水面から飛び出し、空中で弧を描くようして魔獣の牙を躱す。
しかし、小回りこそ効くものの絶対的なスピードは魔獣に敵わない。直ぐにルルルを追い詰め真後ろに迫る。
(どう考えても時間の問題だ。このままじゃ、食われてしまう)
泳ぎながら後ろを見ると、氷の粒に覆われた巨大な牙をさらけ出したヒョウアザラシの魔獣が、余裕の表情で追いかけてくる。
(氷の牙か……)
そう、心の中で呟くとルルルは何かを思いついた。
ルルルは突然、水中でくるりと体をひるがえし、ヒョウアザラシの方へ向かって行く。
意表をつかれたヒョウアザラシは咄嗟に牙を向けるが、ルルルの動きに対応が遅れ、攻撃を躱された。
そして、ルルルはすれ違いざまに翼に魔力を込める。イメージはロドルの槍に纏った氷の魔力だ。
(ロドルは槍に氷の魔力を宿していた。……ならば、俺にだって氷の魔力を纏う事ができるはずなんだ!)
ルルルの翼に纏った魔力は氷の結晶に変化し、翼は雪のように白くなっていった。
(まだ、魔力もイメージも足りない!)
ルルルは身体を流れる魔力をコントロールして片方の翼に集中させる。
(よし!魔力が集まってきた)
集まった魔力でさらに翼を覆い、硬質な氷の刃を想像する。
ルルルの翼に纏った氷の結晶は徐々に密度が増していき、全体が白く輝いていく。
その輝きがおさまるとルルルの翼は鋭い氷の刃へと変化していた。
ルルルは氷の刃でヒョウアザラシの体を切り付けるように鋭く振るった。
地上に残るペンギン達の群れはルルルの無事を祈りながら湖を見つめていた。
2羽の若いペンギンも無事に逃げ延びることができ、命の恩人であるルルルの姿を探している。
ルルルは湖の深い位置まで潜り、ヒョウアザラシの攻撃から逃れようとしている。
その時、ルルルが突然姿を現わし、弧を描くように水面から飛び出しかと思うと、水の中へ消えていく。
直ぐ後を追いかけるように凄まじい水しぶきと共にヒョウアザラシの身体が現れ、同じように水中に消えていく。
ペンギン達の群れには水中で何が起こっているのか地上からは確認できなかった。
しかし、姿を現わしたヒョウアザラシの巨体に誰もが恐怖を感じる。
「ルルル~」
心配そうに見つめるササラ。
隣ではロドルが悔しそうに顔をしかめている。
リリは真剣な表情で弓を構えたまま、ヒョウアザラシが射程に入るのを待っている。
全てのペンギン達に緊張感が漂っていた。
暫くすると、湖の底から赤い煙の様なものが立ち上ってきた。
どちらかが大量の出血をしている事は誰にでも理解できた。
「そんな~、ルルル~」
「ルルルさん……」
ササラはその場で崩れ落ちるように膝をつき、涙を流している。
ロドルは握った槍を地に落とし、悔しそうに下を向いた。
命拾いした若いペンギンも互いに抱き合い、後悔の涙を流している。
誰もがルルルは死んだのだと思った。
水中から大きな空気の塊が上ってくる。
ブクブクブク……
ゆっくりと何かが浮かんでくる。揺れる水面によってその姿は定かではないがかなりの大きさだ。
真っ先に声をだしたのはリリだった。ササラやロドルはショックのあまり顔を下に向けている。
「やったー!」
リリが喜びの声を上げると同時にペンギン達が一斉に水面に顔を向けた。
空気の塊と共に浮かび上がってきたのは、体中を何かで切り刻まれたヒョウアザラシの巨体だった。
ルルルは氷の翼でヒョウアザラシを切り付けた後、動きが鈍ったヒョウアザラシに何度も氷の翼で切り刻んだ。
ヒョウアザラシは翼によって体を引き裂かれる度に力を失い、徐々に抵抗さえも出来なくなっていく。
しかし、その巨体だけあって完全に仕留めるまでには時間がかかった。
狼の魔獣と違い、氷に対する耐性も高いのだろう。その体は凍りつくことはなく殺意も失われる事はなかった。
翼で切り付ける度に牙をむいてルルルを噛み砕こうとしてくる。
ルルルは寸前のところでそれを躱し翼で切り付ける。
そうやって、なんとか魔獣を撃退する事ができた。
ルルルはほっと胸を撫で下ろし、水面へ上がっていく。
ようやく水面から顔を出すと涙を流して歓喜するペンギン達の姿があった。
(ああ、みんな心配してくれたのか……嬉しいな)
ヒョウアザラシの体を引っ張りながら陸に上がるルルル。
そんなルルルにササラは真っ先に飛びついた。
「ルルル~、心配した~。無事でよかった~。無茶はしないで」
泣きながら抱き着いてくるササラの頭を軽く撫でてやるルルル。
「ああ、ありがと。ササラ。気を付けるよ」
「ルルルさん!格好良かったです!あんな魔獣を1羽で倒すなんて凄いです!」
ロドルは相変わらずキラキラした瞳で見つめてくる。
そんなルルルにリリはゆっくりと近づいて
「ルルルさん、信じてたっす!」
そう言うと恥ずかしそうに下がっていった。
そんなルルルに近づく2羽のペンギン。
「ルルルさん!ありっす!助かったっす!」
「ありがとうございました。軽率な行動をとってすみませんでした!」
オスとメスの若いペンギンが必死に謝ってくる。
「ああ、次から気を付ければいいよ。2羽とも無事で良かったよ」
ルルルは本心からこの2羽が無事で良かったと感じた。
村のペンギンを誰1羽として失うのは辛いと思う自分がいる。
ササラやロドル、リリ達以外にも多くのペンギンとの関りが増えた。
(どんどん、村から離れるのが辛くなっていくな……)
村から離れたくない気持ちが一層に強まっていくルルルだった。
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